路地裏のバーのカウンターから見える「偽政者」たちに荒廃させられた空疎で虚飾の社会。漂流する日本。大丈夫かこの国は? 

 路地裏のバーのカウンターから見える「偽政者」たちに荒廃させられた空疎で虚飾の社会。漂流する日本。大丈夫かこの国は? 

【社説①】:安保法施行6年 9条の「たが」締め直す

2022-03-30 07:56:15 | 【経済安全保障・戦略物資の供給網強化、基幹インフラの安全確保、先端技術開発他】

【社説①】:安保法施行6年 9条の「たが」締め直す

 『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【社説①】:安保法施行6年 9条の「たが」締め直す 

 安全保障関連法が施行されて二十九日で六年が経過する。自衛隊は冷戦終結後、海外に頻繁に派遣され、今では「敵基地攻撃能力の保有」や「核共有」まで議論されている。戦争放棄と戦力不保持の憲法九条は、戦後日本の「平和国家」の在り方そのものだ。緩んだ九条の「たが」をいま一度、締め直す必要がある。
 
 昨年十二月に公開された外交文書は、一九九〇年八月に始まった湾岸危機が自衛隊海外派遣の「起点」になったことを示す。
 
 同年九月二十九日、米ニューヨークで行われた海部俊樹首相とブッシュ(父)米大統領との日米首脳会談。会談内容を記録した極秘公電によると、ブッシュ氏は多国籍軍による対イラク攻撃を念頭に「日本がFORCES(自衛隊)を参加させる方途を検討中と承知している。有益であり、世界から評価される」と、日本に対しても軍事的な協力を求めた。

 ◆自衛隊広がる海外派遣

 海部氏は、武力の行使を禁じた憲法九条を守る必要があるとした上で「汗を流す協力をしたい」と自衛隊員の派遣に意欲を示した。
 
 
 海部政権が当初目指したのが、非軍事の別組織として国連平和協力隊を創設し、自衛隊員を参加させる案だった。根拠となる国連平和協力法案は世論の反発もあり廃案となったが、湾岸戦争終結後の九一年四月には海上自衛隊の掃海艇を機雷除去のためペルシャ湾に派遣した=写真、海自横須賀基地で本社ヘリ「おおづる」から。
 
 五四年の自衛隊創設以来初の海外派遣だった。
 
 中曽根内閣の官房長官として掃海艇派遣に反対した後藤田正晴氏は湾岸危機の際、海部氏に海外派遣が「アリの一穴になる」と忠告した。堤防は小さな穴から亀裂が広がりやがて崩壊する例えだ。
 
 湾岸戦争後、九二年に国連平和維持活動(PKO)協力法が制定されると、自衛隊は頻繁に海外派遣されるようになる。
 
 九七年に策定された新しい日米防衛協力のための指針(ガイドライン)と九九年制定の旧周辺事態法で、自衛隊の米軍に対する後方支援活動も合法化され、日本領域外での活動が可能になった。
 
 二〇〇三年のイラク戦争では、ブッシュ(子)政権の求めに応じて、イラクで人道支援や多国籍軍支援を行うイラク復興支援特別措置法、「テロとの戦い」ではインド洋で米軍などへの給油活動を行うテロ対策特措法が成立した。
 
 後藤田氏の懸念通り、自衛隊の活動地域は海外に広がり、役割も多岐にわたるようになったが、活動内容は「専守防衛」を逸脱しない範囲に限定されていた。武力の行使も、日本への急迫不正の侵害がある▽ほかに排除する適当な手段がない▽必要最小限度の実力行使にとどまる−との「三要件」に該当する場合に限られていた。
 これを根本から覆したのが、安倍晋三首相率いる政権だ。
 
 一四年には、長年の国会論議を通じて確立し、歴代内閣が継承してきた「集団的自衛権の行使」を憲法違反とする政府の憲法解釈を一内閣の判断で変更し、集団的自衛権の行使を可能とすることを閣議決定した。
 
 翌一五年には安保法の成立を強行し、外国同士の戦争への参加を可能にした。それまではPKOなどを除く自衛隊の海外派遣にはその都度、法律をつくる必要があったが、安保法により法整備を経ずに派遣できるようにもなった。
 
 湾岸危機で緩み始めた九条の「たが」は国際情勢の変化を名目にどんどん外れているように映る。
 
 安倍政権以降、防衛費は膨らみ続け、長射程ミサイルの導入計画が進む。ヘリコプター搭載型護衛艦は事実上空母化され、ステルス戦闘機の搭載が可能となる。

◆敵基地攻撃、核共有まで

 中国や北朝鮮のミサイル開発を受けて、長年、憲法違反とされてきた「敵基地攻撃能力の保有」検討を岸田文雄首相が言明。ロシアのウクライナ侵攻に伴い、米軍保有の核兵器を日本に配備して日米が共同運用する「核共有」を巡る議論も活発化している。
 
 ただ、九条の平和主義や、核兵器を「持たず、つくらず、持ち込ませず」という非核三原則は日本国民の血肉と化した国是であり、内外に多大な犠牲を強いた先の大戦の反省に基づく誓いだ。日本人の生き方そのものでもある。
 
 今、私たちが議論すべきは九条の「たが」を外して軍事力を強化することではなく、九条の精神に立ち返り、外交力を磨くことではないのか。安保法施行六年を、あらためて考える機会としたい。

 元稿:東京新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】  2022年03月28日  07:04:00  これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。

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【社説①】:週のはじめに考える 大国と大国の「距離」

2022-03-30 07:55:55 | 【外交・外務省・国際情勢・地政学・国連・安保理・ICC・サミット(G20、】

【社説①】:週のはじめに考える 大国と大国の「距離」

 『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【社説①】:週のはじめに考える 大国と大国の「距離」 

 いやな上司も、よりいやな上司が現れると、ましな上司に見えてくる−みたいなこと、世間ではままありますが、似たことが国際情勢でも起きている気がします。
 
 米国と中国は、民主主義と権威主義を代表する大国として鍔競(つばぜ)り合いを続ける中で、その距離はこれまでになく広がっていました。それを仮に「10」とします。ところが、中国と同じ辺りにいたロシアがウクライナ侵攻という暴挙で一気に中国よりはるか遠くへ。その結果として不思議なことが…。
 
 侵攻後の米・ロの距離を「10」とすれば、中国の位置はロシア寄りの「8」辺りでしょうか。つまりは相対的に米国と中国の距離は縮まったようにも見えるのです。

 ◆ロシアから遠ざけたい

 中国は経済制裁に反対し、プーチン大統領の無体な主張に一定の理解を示しています。それでも米国には、中国がにわかに「ロシアに比べればまだ話ができる相手」に見えてきているのではないでしょうか。実際、侵攻を巡って今月半ば、高官協議に続き、バイデン大統領と習近平国家主席のオンライン首脳会談も行われました。
 
 米国の狙いは無論、けん制。ロシアからの輸入増など経済制裁の底が抜けるような支援はダメ、軍備支援などもってのほか、というわけです。いわば「8」の中国を「7」か「6」、できれば「5」に近づける。間違っても「9」の方には行かせない−。米国の強気の要求に中国が反発、ひとまず結果はほぼ物別れでしたが、中国も西側との経済的紐帯(ちゅうたい)による利益は無視できない。その辺りをテコに今後も働きかけは続くでしょう。
 
 もし中国がロシア寄りの姿勢を改めるならば、ロシアには大打撃だからです。孤立は決定的、侵攻継続も再考を迫られましょう。煎じ詰めれば、ウクライナを救うためのカギは中国が握っていると言えなくもありません。
 
 今、世界が目撃しているのは、独立した民主主義国家が権威主義的体制の大国に武力で蹂躙(じゅうりん)されている様です。もし、民主主義陣営が、この暴挙を厳しくたしなめ、こんな愚行は「見合わない行為」だと世界に示せなければ、その他の権威主義的な強権を勇気づけることにもなりかねません。今後の権威主義との争いの行方にもかかわります。もっとも、その帰趨(きすう)は中国が「5」の方に傾くか「9」に寄っていくかに左右される。つまり、権威主義陣営の代表ともいうべき国がどう動くかにかかっているのですから皮肉な状況です。

 ◆強権だからこその蛮行

 ロシアへの経済制裁は苛烈で、国民も苦汁をなめていますが、情報を遮断してメディアや反戦デモを弾圧、不満を力で抑え込むことで今のところはプーチン政権が大きく揺らぐ気配はありません。
 
 これは、権威主義的な強権だからこそできることです。同じような状況になって、それでも耐えられる政権が、まともな民主主義の国のどこにあるでしょう。
 
 有力な政敵は容赦なく排除し、反対者は抑圧する。それを徹底してきたからこそ後顧の憂いなく妄想的行動にも突き進めてしまう。要は、ロシアのような強権を確立した国でなければ、あんな蛮行はできないということでしょう。
 
 そうした文脈からも、にわかに懸念が募ってきたのが中国と台湾の関係です。中国が武力行使をちらつかせ、台湾への軍事的圧力を強めている点も、ロシアの侵攻前の態度と不気味に重なります。
 
 言論は統制下、国民監視も行き届き、法治は名ばかり。そんな体制で年々独裁色を強めているのが習氏の中国です。その座を脅かす人物や勢力は影もなく、国民の反発を心配する必要がないという点でもプーチン氏以上でしょう。例えば、台湾への武力行使に抗議する反戦デモが北京で起きる−。そんな図は想像もできません。
 
 そして今、ロシアへの経済制裁を見て、こう高をくくっているとしても意外ではない。「『ロシア外し』はできても『中国外し』は無理だ」。実際、グローバル経済における存在感の大きさはロシアとは段違い。制裁を科す側が浴びる「返り血」の量もまた比べものにならないということです。

 ◆結局「中国がどう動くか」

 無論、米国といえども、経済制裁が難しいからといって簡単に武力に訴えるわけにもいかない。となれば、そもそも台湾有事を予防する方向へと考えが向かうのが自然でしょう。そう考えると、前政権時代から続く対中強硬路線の見直し、米側の歩み寄りを伴う劇的な米中接近がない、とは言い切れない気もしてきます。
 
 ともかく、結局は中国がどう動き、中国をどう動かすか−。今度もまた、話はそこに行き着いてしまいます。つまりは、それが国際政治の「現実」なのでしょう。

 元稿:東京新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】  2022年03月27日  07:40:00  これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。

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【社説①】:北ICBM発射 制裁強化を招くだけだ

2022-03-30 07:55:40 | 【北朝鮮・朝鮮半島・拉致問題・独裁・朝鮮総連・朝鮮学校】

【社説①】:北ICBM発射 制裁強化を招くだけだ

 『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【社説①】:北ICBM発射 制裁強化を招くだけだ 

 北朝鮮が発射した新型大陸間弾道ミサイル(ICBM)が、北海道沖百五十キロの日本の排他的経済水域(EEZ)内に着水した。ミサイルの性能を誇示して米国に圧力をかけ、制裁を緩和させる狙いだろうが逆効果だ。市民を不安に陥れる許しがたい暴挙であり、ただちに中断するよう求める。
 
 北朝鮮は新型ミサイル「火星17」を通常より高い角度で打ち上げたことを認めた。飛行時間や高度は過去最高の数字で、性能の向上が著しい。岸信夫防衛相は通常の角度で発射した場合、米本土全域が射程に入るとの分析結果を明らかにしている。
 
 国連安全保障理事会決議の明らかな違反であり、二〇一八年四月に北朝鮮が約束した核実験とICBM発射の猶予(モラトリアム)を、わずか四年で破ったことになる。無謀な行動と言うしかない。
 
 ただ、安保理では現在、ロシアのウクライナ侵攻を巡って米国と中ロが対立しており、北朝鮮への追加制裁で足並みをそろえることは難しい。このタイミングで発射したのは、安保理の混乱した状況を見越してのことだろう。
 
 隣国の韓国は大統領選が終わったばかりだ。五月に就任する尹錫悦(ユンソンニョル)次期大統領は北朝鮮に対し、先制攻撃を含む強い姿勢で臨むことを明らかにしており、政権移行期を狙って、北朝鮮側が揺さぶりをかけてきた可能性もある。
 
 北朝鮮は今年に入り、中距離ミサイルなどの発射実験を繰り返してきた。モラトリアムを破る今回の発射は、一線を越えたことを意味する。米国は北朝鮮に対する独自制裁の強化を発表し、米朝対話再開はいっそう難しくなった。
 
 最高指導者の金正恩(キムジョンウン)総書記は今回、発射現場を視察して「米帝国主義との長期的対決へ徹底的に準備する」と宣言した。北朝鮮は、四月十五日に故金日成(キムイルソン)主席の百十回目の誕生日などを控えており、国威発揚のため発射を継続するつもりなのだろう。
 
 ICBM発射を受けて、日韓両国の外相が電話で会談し、協力を確認した。日米韓の協力をより緊密にして、隙のない北朝鮮対応に努めてほしい。

 元稿:東京新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】  2022年03月26日  07:48:00  これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。

 

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【ぎろんの森】:戦争の熱狂と冷静さと

2022-03-30 07:55:30 | 【ロシア・北方領土・シベリア開発・サハリン石油天然ガス・ウクライナ侵攻犯罪】

【ぎろんの森】:戦争の熱狂と冷静さと

 『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【ぎろんの森】:戦争の熱狂と冷静さと 

 ロシアの侵攻を受けて、ウクライナのゼレンスキー大統領が、日本の国会でオンラインで演説しました。
 
 「アジアで初めてロシアに対する圧力をかけ始めたのが日本だ。制裁の継続をお願いする。ロシアが平和を望むための努力をしよう。ウクライナに対する侵略の津波を止めるために、ロシアとの貿易を禁止しなければいけない」
 
 国際法に反したロシアの蛮行で自国民が犠牲となり、今なお危機にひんしている国家の代表として、国際社会に対して協力を呼び掛ける姿には胸が打たれます。ロシアの軍事行動を一刻でも早く食い止め、少しでも多くの命を救わねばなりません。
 
 憲法九条で国際紛争を解決する手段としての戦争や武力による威嚇、武力の行使を放棄した日本は、軍事的協力はできませんが、ロシアに停戦を促すための経済制裁や戦後の復興、民生安定などできる限りの協力はすべきです。
 
 私たち論説室も二十五日社説で、大統領演説に「日本らしいウクライナ支援で応えたい」と応じました。
 
 ただ、同日の本紙特報面も報じていたように、演説後、山東昭子参院議長が「貴国の人々が命をも顧みず、祖国のために戦っている姿を拝見して、その勇気に感動しております」と述べたことには、違和感を覚えました。
 
 侵略をしたロシアが悪いと分かってはいても、国のために市民が命を賭して戦う姿を称賛することは、太平洋戦争当時の「本土決戦」「一億玉砕」のスローガンとどうしても重なってしまうのです。
 
 年配の読者の方からも「私たちが子どものときの状況と同じで心が痛みます。人ごとと思えません。私も夫も中学校教員でした。教え子たちや子、孫が平和に生きられる世界を強く望みます」との意見が届きました。
 
 ウクライナ国民と連帯することに全く異論はありませんが、それ一色に染まり、疑問や異なる意見を言い出しづらくならないようにはしたい。多様な意見の存在こそが、ロシアと対極にある民主主義、自由主義の価値だからです。
 
 戦争は人々を熱狂させ、為政者はそれを利用しようとします。それが歴史の教訓でしょう。だからこそ、どこかに冷静さを持ちながら議論することが、より大切になると思えてならないのです。 (と)

 元稿:東京新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【ぎろんの森】  2022年03月26日  07:48:00  これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。

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【社説①】:国会不召集判決 少数派を守る判断こそ

2022-03-30 07:55:20 | 【国会(衆議院・参議院・議運 ・両院予算委員会他・議員定数・「1票の格差」...

【社説①】:国会不召集判決 少数派を守る判断こそ

 『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【社説①】:国会不召集判決 少数派を守る判断こそ 

 安倍晋三内閣が二〇一七年に臨時国会を約三カ月開かなかったことは違憲だとした訴訟で、福岡高裁那覇支部は「極めて重要な憲法上の要請だ」と認めた。少数派の意見を国会に反映させる憲法の意義を踏みにじってはならない。
 
 憲法五三条は、衆参いずれかの総議員の四分の一以上の求めがあれば、内閣は臨時国会の召集を決定しなければならないと定める。
 
 一七年六月二十二日に野党は召集を要求したが、実際の召集は九月二十八日。かつ安倍内閣は冒頭で衆院を解散してしまった。
 
 当時、野党は森友・加計学園問題を追及する構えだったが、審議できなかった。そのため国会議員らが「違憲だ」として、国家賠償法に基づき提訴していた。
 
 那覇支部は五三条について「少数派の国民の意見を国会に反映させる趣旨に基づく」と述べた上、「合理的期間内に召集すべき憲法上の義務を定めたものだ」と指摘した。その上で「国民の意見を多数派・少数派を含めて国会に反映させる観点からも(臨時国会召集の)義務は極めて重要な憲法上の要請だ」と断言した。
 
 少数派を守る意義を、強い表現で述べた点は大いに評価したい。同種の訴訟は東京や岡山でもあるが、岡山訴訟でも違憲の余地があるとの判断が出ている。
 
 もっとも那覇支部は召集は国会と内閣という国家機関相互の義務だとして「議員個人に義務を負っているとは言えない」と述べた。それゆえ損害賠償は認めず、憲法判断にも立ち入らなかった。
 
 あたかも内閣が憲法を無視しても、裁判所はなすすべなし、との姿勢である。だが、それは国賠法という枠組み内での結論にすぎず議会制民主主義という枠組みで考えれば明らかに問題がある。
 
 英国では一九年、欧州連合(EU)離脱を巡り、ジョンソン首相が議会を長期にわたり閉会した措置を、英最高裁が「違法・無効」と判断したことがある。長期閉会は議会審議を封じるためで「民主主義の原理に深刻な影響がある」と考えたためだ。
 
 国会を開かないという議会制民主主義で越えてはならない一線を越えた場合、司法が下位にある法律の枠で対処し、上位にある憲法判断を回避しては民主主義原理が機能しない。最高裁は三権分立の観点からも内閣の行き過ぎに歯止めをかける判断をすべきである。

 元稿:東京新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】  2022年03月25日  07:08:00  これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。

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【社説②】:ウクライナ支援 日本らしさで応えたい

2022-03-30 07:55:15 | 【ロシア・北方領土・シベリア開発・サハリン石油天然ガス・ウクライナ侵攻犯罪】

【社説②】:ウクライナ支援 日本らしさで応えた

 『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【社説②】:ウクライナ支援 日本らしさで応えた 

 戦地からのメッセージを真摯(しんし)に受け止める。ウクライナのゼレンスキー大統領が日本の国会で行ったオンライン演説=写真。停戦に向けた非軍事的貢献や戦後の民生安定に協力する。そんな日本らしいウクライナ支援で応えたい。
 
 
 軍事援助はできない日本の事情を分かっているのだろう。欧米での演説で、飛行禁止区域の設定や武器供与を求めたのとは違って、ゼレンスキー氏が日本に期待したのは、主に対ロシア制裁の継続と復興支援だった。
 
 「アジアで初めてロシアに圧力をかけ始めたのが日本だ。制裁の継続をお願いする」としたうえで、「侵略の津波を止めるため」にロシアへの経済的な締め付けを強めるよう訴えた。
 
 戦後復興については「避難した人々が古里に戻れるようにしなくては。住み慣れた古里に戻りたいという気持ちを日本の皆さんもきっとお分かりだろう」と語った。
 
 東日本大震災に直接言及することはなく、日本人の共感をさりげなく引き出す狙いだったのだろう。こんな意図が随所に見られる演説だった。
 
 ウクライナ政府の推計では、道路、橋など千二百億ドル(約一四・五兆円)相当のインフラがこれまでに破壊された。ゼレンスキー氏の要請に応えて、日本は戦災復興に協力を惜しんではならない。
 
 国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)によると、国外に逃れたウクライナ避難民は三百六十万人を超えた。日本は避難民受け入れの枠を拡大するとともに、多数の避難民を受け入れているポーランド、ルーマニアなどのウクライナ周辺国への支援を進めてほしい。
 
 国連開発計画(UNDP)は戦争が長期化した場合、向こう一年でウクライナ国民のほぼ三分の一が一日五・五ドル(約六百六十円)未満で生活する貧困層に陥るとの見通しを示している。国連を通じた生活支援も求められるだろう。
 
 ロシアの無差別攻撃は続き、民間人の死傷者は増える一方だ。国際社会が結束し、プーチン政権を停戦・撤退に追い込む必要がある。岸田政権はアジア諸国への働き掛けにも力を入れてほしい。

 元稿:東京新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】  2022年03月25日  07:08:00  これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。

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【社説①】:国連の機能不全 安保理改革を粘り強く

2022-03-30 07:54:55 | 【外交・外務省・国際情勢・地政学・国連・安保理・ICC・サミット(G20、】

【社説①】:国連の機能不全 安保理改革を粘り強く

 『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【社説①】:国連の機能不全 安保理改革を粘り強く 

 ロシアによるウクライナ侵攻を巡り、国連が機能不全に陥っている。安全保障理事会常任理事国であるロシアが「拒否権」を行使する一方、根拠を欠く主張で混乱させているためだ。安保理改革の必要性を訴えてきた日本は他国と協力して改革への動きを加速したい。
 
 ロシアは安保理で、米国が関与する生物兵器開発計画がウクライナに存在すると主張し、「安保理を政治宣伝に利用している」と批判する米欧と厳しく対立した。
 
 国連も存在を否定するこの計画をロシアが執拗(しつよう)に主張するのは、侵攻の正当性をアピールし、自ら生物兵器を使用する口実にしているのではないか。国際的な平和と安全に責任を持つべき常任理事国としての役割の完全な放棄だ。
 
 ロシア非難決議案はロシアの拒否権行使で否決された。代わりに採択された国連総会緊急特別会合の決議に法的拘束力はなく、侵攻を止めるには至っていない。
 
 ロシアは独自に、ウクライナ市民の保護などを求める人道に関する決議案を安保理に提出したが、侵攻に関するロシアの責任やロシア軍の撤退などは盛り込まれておらず、批判を受けて撤回した。国際世論の批判の矛先を自国からそらし、安保理を混乱させる狙いと言わざるを得ない。
 
 国連憲章は二条で加盟国の「主権平等原則」を明記するが、「拒否権」を持つのは五常任理事国だけ。ロシアに限らず常任理事国の暴挙は止められない構造だ。
 
 国連憲章は、加盟国の三分の二の賛成で改正できるが、五常任理事国すべての賛成が条件であり、ロシアを常任理事国から外すなどの抜本的改革は困難だ。
 
 しかし、安保理に象徴される国連の機能不全が続けば、国連や傘下の国際機関に対する不信感がさらに高まるのは避けられない。
 
 岸田文雄首相は国会で、ロシアの国際法違反を指摘し、拒否権改革に取り組む姿勢を強調した。
 
 常任理事国のフランスも拒否権行使の抑制などの改革を提案している。難しい課題だが、国連が本来の役割を果たすため、粘り強く安保理改革への理解を広げたい。

 元稿:東京新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】  2022年03月24日  07:46:00  これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。

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【社説②】:満額相次ぐ春闘 脱「低賃金」を目指して

2022-03-30 07:54:50 | 【雇用・正規、非正規・パート・賃上げ・失業率・求人・労働組合・労働貴族の連合】

【社説②】:満額相次ぐ春闘 脱「低賃金」を目指して

 『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【社説②】:満額相次ぐ春闘 脱「低賃金」を目指して 

 今年の春闘で注目された出来事の一つは、トヨタ自動車による前倒し「満額回答」だろう。春闘の存在意義が曖昧になるとの論点とは別に、日本を代表する企業自ら「賃上げ」の社会的意義を発信したことには大きな意味がある。
 
 日本は「経済大国」のイメージとは裏腹に、今や先進国の中では「低賃金の国」だ。経済協力開発機構(OECD)によると、物価水準を考慮した購買力平価ベースでみた二〇二〇年の日本の平均賃金(年額)は四百三十九万円(一ドル=一一四円換算)で加盟三十五カ国中二十二位。一九九〇年と比べると4%しか増えていない。
 
 トップの米国は七百九十一万円で50%増。韓国も一五年に金額で日本を抜き、伸び率は90%だ。
 
 減税や雇用規制の緩和で優遇して企業の財務状況をよくすれば、投資も増え、賃金が上がり、消費が上向く。モノが売れれば利益は増え、設備投資も賃金もまた伸びる。近年の日本の政権が描いてきたシナリオだが、利益は内部留保や株主配当へと回り、賃金はほぼ横ばい。消費も伸びなかった。
 
 そんな中でのトヨタの異例の行動だ。豊田章男社長は労組側との一回目の交渉で事実上の満額回答を示した際、「良い風を吹かせたい」と発言した。日本を代表する企業として「まずは賃上げから経済の好循環を」というメッセージを発したと受け止めたい。
 
 トヨタの姿勢が呼び水になり、今年の春闘では自動車大手各社などで満額回答が相次いだ。
 
 しかし、大企業社員の給料が上がっただけでは消費拡大につながらない。全従業員の七割を占める中小企業への広がりこそ課題だ。
 
 トヨタの労使交渉では、仕入れ先の収益向上支援を促進させることも確認し合った。大手が過剰な値下げ要求を慎むことは中小の賃上げ環境づくりに欠かせない。
 
 政府は賃上げ企業に対する法人税減税で、賃上げを促進させる考えだが、各企業はかつて米フォードの創業者ヘンリー・フォードが提唱した「賃金動機」こそ思い出すべきだろう。「経営は、利潤ではなく賃金を上げられることを動機とすべきだ」という考えだ。
 
 その理念に基づいて、フォードは高価な自動車も買えるようにと破格の賃金を労働者に支払った。従業員=消費者。その教えに基づけば、脱「低賃金」しか、経済再生への道はあるまい。

 元稿:東京新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】  2022年03月24日  07:46:00  これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。

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【社説①】:電力逼迫警報 需給見通し甘くないか

2022-03-30 07:54:35 | 【電力需要・供給、停電・エネルギー政策・原発再稼働・核ゴミの中間最終貯蔵施設他

【社説①】:電力逼迫警報 需給見通し甘くないか

 『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【社説①】:電力逼迫警報 需給見通し甘くないか 

 政府が東京、東北両電力管内を対象に初の「電力需給逼迫(ひっぱく)警報」を発令した。地震による火力発電所の停止が続き、気温低下で電力需要が急激に増えたためだ。
 
 警報発令の必要性は認める。同時に、需給見通しの甘さが唐突な警報発令につながり、家庭や企業による節電量の不足につながっていることも指摘したい。
 
 十六日の福島県沖を震源とする地震の後、東京、東北両電力管内の複数の火力発電所が停止。関東一円での大規模停電を避けるために、都内などの一部地域で自動的に停電させる「負荷遮断」を実施せざるを得なかった。
 
 その後も火力発電所の一部は依然、復旧していない。二十二日からは予想以上に気温が下がることが判明したため、二十一日夜になって警報が発令された。
 
 今の時期、気温が真冬並みに下がることは珍しくない。厳冬は元々、予想されており、昨年十二月には悪天候で電力使用量が増え、一時、供給量の96%に達する厳しい状況に陥った。
 
 こうした経緯から、需給逼迫はより早く正確に予想できたのではないか。半日でも発表を前倒しできていれば、大口需要者である企業の出勤自粛や工場の操業停止、鉄道の間引き運転なども可能だったはずだ。
 
 今後の需給逼迫に備え、経産省や気象庁など関連省庁と各電力会社、節電を実施する民間企業との情報共有体制を強化しておくべきだ。医療機関など停電が絶対に許されない施設に対するきめ細かい指導・点検も、国と自治体が協力して早急に行ってほしい。
 
 火力発電を巡っては施設の老朽化に加え、ロシアによるウクライナ侵攻の影響を受けて、燃料となる液化天然ガス(LNG)の深刻な不足が懸念されている。
 
 ただ、この状況が原発有用論を勢いづかせることは避けたい。
 
 ロシアの蛮行でチェルノブイリ原発の電源が一時的に喪失して原子炉の冷却ができなくなった。福島第一原発事故を経験した日本国民は、その深刻さを最も熟知しているからだ。
 
 一時的な逼迫を乗り切れば、火力や水力に各種再生エネルギーを組み合わせた複合的な発電と、官民を挙げた節電効果で必要な電力は十分まかなえる。電力需給の逼迫が安易な原発再稼働に直結せぬよう、くぎを刺しておきたい。 

 元稿:東京新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】  2022年03月23日  08:01:00  これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。

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【社説②】:新年度予算成立 問われる危機の舵取り

2022-03-30 07:54:30 | 【財務省・財政予算健全化・基礎的収支・会計検査院・国債・国と地方の借金】

【社説②】:新年度予算成立 問われる危機の舵取り

 『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【社説②】:新年度予算成立 問われる危機の舵取り 

 二〇二二年度予算が成立した。世界的な感染症のまん延と国際秩序の流動化に直面する激変の時代に、岸田内閣は国会審議を通じ、国民の安全と暮らしを守る責務を果たしたと言えるのか。危機の舵(かじ)取りに対する国民の審判は、夏の参院選で下る。
 
 一月十七日に召集された今国会で、野党側は新型コロナウイルス感染症の第六波やロシアによるウクライナ侵攻を中心に、岸田内閣の対応をただした。
 
 新規感染者数は減少傾向にあるもののピーク時に全国で十万人を超え、一月以降の感染死者数は第五波(昨年八〜十月)の約三千人から八千人超に増えた。
 
 まん延防止等重点措置も全面解除されたが、ワクチン追加接種の遅れや検査キットの不足など対応の不備も目立ち、岸田文雄首相=写真=が指導力を発揮したとは言い難い。予想される第七波への備えに万全を期すよう求めたい。
 
 対ロシア経済制裁を巡り、米欧と歩調を合わせるのは当然だが、日本としてより強いメッセージを出す必要があったのではないか。
 
 新年度予算に計上したロシアとの経済協力に関する事業費約二十一億円を、野党の修正要求にもかかわらず、そのまま成立させたことはロシアへの誤ったメッセージになりかねない。理解に苦しむ。
 
 背景にプーチン大統領と経済協力に合意した安倍晋三元首相への配慮があるのなら看過できない。
 
 覇権主義国家と対峙(たいじ)するには、民主主義の再生こそが重要だ。しかし、昨年の自民党総裁選で「民主主義の危機」を訴えた首相がその後、積極的に問題提起することはなく、国会で真剣に議論されることもなかった。
 
 看板政策の「新しい資本主義」も今なお具体像を結ばない。原油高の影響で物価上昇が続き、暮らしへの支援も十分とは言えない。首相が掲げる「成長と分配の好循環」には程遠い状況だ。
 
 参院選は七月十日とみられる投開票まであと百日余に迫る。自公政権に対抗する野党勢力の結集が進まず、政府・与党に緩みが生じているなら、首相が唱える「信頼と共感の政治」は実現できまい。

 元稿:東京新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】  2022年03月23日  08:00:00  これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。

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【社説①】:新たな経済対策 給付金より物価抑制を

2022-03-30 07:54:16 | 【経済対策・物価対策、原油など資源価格の高騰・幅広い品目の値上げ、消費者物価】

【社説①】:新たな経済対策 給付金より物価抑制を

 『漂流する日本の羅針盤を目指して』:」【社説①】:新たな経済対策 給付金より物価抑制を 

 政府・与党が新たな経済対策の策定に乗り出した。ロシアのウクライナ侵攻が続く中、物価の高騰は深刻化しており対策実施に異論はない。ただ夏の参院選目当てのばらまき策にならぬよう強くくぎを刺しておきたい。
 
 対策について政府・与党は二〇二二年度予算成立直後から取りまとめに入る。対策の柱は課税の一部停止によりガソリン価格を引き下げるトリガー条項の発動だ。
 
 資源大国ロシアの蛮行は原油高騰に拍車をかけている。石油元売りへの現状補助金を継続しただけでは不十分で発動は当然だ。
 
 エネルギー価格の高騰は流通全般に悪影響を及ぼし物価高の最大要因になっている。暮らしへの打撃はもちろん、中小企業や飲食などの商店にとっても致命傷になりかねない。
 
 条項発動には法改正が必要だ。早期の国会議決に向けた与野党の協力を求めたい。条項の対象はガソリンと軽油だけだが、暖房用の灯油、農業機械や漁船に使う重油も対象に含めるよう制度設計の変更も急いでほしい。
 
 為替市場における円安も物価高の要因になっている。輸入コストが上がるためだ。
 
 米連邦準備制度理事会(FRB)は米国内のインフレを防ぐため利上げを決定した。一方、日銀は十八日、大規模金融緩和の継続を決めた。景気の好循環が起きていない日本では、物価が上がっていても急激な景気後退を引き起こしかねない利上げは困難だ。
 
 だが日米の金利差拡大がさらなる円安要因となる恐れは強い。政府・日銀には、大規模な為替介入も視野に入れた万全の円安対策を準備するよう強く促したい。
 
 経済対策を巡っては年金生活者への五千円の給付金も検討されている。総額約一千億円の予算を使って一部の高齢層に五千円を配ることにどれだけの効果があるのか理解に苦しむ。選挙対策を念頭に置いたばらまきと批判されて当然だ。
 
 今必要なのは生活に苦しんでいる人々に的を絞った効果の高い施策だ。場当たり的な政策は直ちに撤回すべきである。

 元稿:東京新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】  2022年03月22日  07:58:00  これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。

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【社説①】:ウクライナ避難民 受け入れる寛容さこそ

2022-03-30 07:53:55 | 【ロシア・北方領土・シベリア開発・サハリン石油天然ガス・ウクライナ侵攻犯罪】

【社説①】:ウクライナ避難民 受け入れる寛容さこそ

 『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【社説①】:ウクライナ避難民 受け入れる寛容さこそ 

 ロシアによる侵攻激化に伴い、ウクライナから国外に脱出する避難民が相次いでいる=写真、ワルシャワで、谷悠己撮影。戦禍の長期化も予想される。避難民の受け入れとロシア軍撤退に向けて、国際社会が力を合わせたい。
 
 
 国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)によると、ウクライナから国外に逃れた避難民は三百三十万人を超えた。欧州連合(EU)は今後七百万人にも上ると予想し、今世紀最大の人道危機になりかねないと警告している。
 
 五日、十一歳のウクライナ少年が隣国スロバキアに一人で到着した。リュックサックを背負い、持っていたのはパスポートとビニール袋だけ。
 
 約千キロ離れた故郷、ウクライナ南東部ザポロジエの原発がロシア軍に制圧されたため、障害がある親の介護で一緒に行けなかった母親が、少年を一人で列車に乗せて避難させたのだった。

◆蛮行が家族を引き裂く

 少年の手に書かれていたスロバキアに住む親戚の電話番号にボランティアらが連絡し、少年の落ち着き先は無事決まった。けなげな少年をスロバキアでは「本物のヒーロー」とたたえる。
 
 避難する幼い少女が別れを嫌がり、父親のヘルメットを泣きながら何度もたたく映像も流れた。
 
 ウクライナ政府が十八歳から六十歳までの男性の出国を禁じる総動員令を出したため、脱出しているのは女性、子ども、お年寄りなど弱い立場の人たちばかりだ。
 
 家族が引き裂かれる場面に心が痛む。市民を巻き添えにするロシアの蛮行に怒りを禁じ得ない。
 
 避難民の六割を隣国ポーランドが受け入れている。同国内には侵攻前から推計百五十万人のウクライナ人が暮らしており、親族や友人らを頼って来た人も多い。
 
 二〇一五年のシリア難民受け入れには消極的だったが、強い反ロシア感情を背景に同胞意識を持つウクライナ難民には好意的で、ボランティアらが衣食住の提供や滞在先確保などに奔走している。避難民らは他の東欧諸国、さらにはドイツなど西欧諸国にも向かう。
 
 EUでは最初に到着した国が難民の受け入れを審査するルールだが、今回はポーランドなど一部の国に多くの避難民が集中し、過重な負担になる恐れがある。
 
 かつて寛容政策で多くのシリア難民を受け入れたドイツでは難民への反感が強まり、反難民を訴える極右政党の台頭で社会が分断された。こうした混乱は避けたい。
 
 EUは今月、ウクライナ避難民に対して当面二年間の域内滞在を認め、就労や教育を支援する「一時保護措置」の発動を決めた。
 
 戦況次第では避難民の在留長期化も予想される。避難民の受け入れ国が不公平さを感じず、疲弊することもないよう、財政を含む負担をEU内で分かち合いたい。

 ◆過去の経験に学ばねば

 欧州では第二次世界大戦後、戦乱を機に大規模な「民族移動」が繰り返されてきた。
 
 大戦末期から直後にかけ、旧ソ連軍の侵攻で東欧やドイツ東部からドイツ系住民約千五百万人がドイツ西部に避難し、うち約二百万人が命を落としたとされる。
 
 一九九二年から三年間続いた旧ユーゴスラビアのボスニア・ヘルツェゴビナ内戦では、約二十万人が民族紛争の犠牲となり、約二百万人が難民となった。
 
 シリアなどから欧州に流入した難民危機の際には、ドイツに約百万人が殺到した。
 
 当時、シリア難民を受け入れた旧東ドイツ地域の住民は「この地域の住民の三分の一が東方からの引き揚げ者だった。難民になった気持ちで接しなければ」と話していた。ウクライナ避難民の世話を買って出るシリア難民も多い。
 
 難民を受け入れてきた欧州の寛容さや経験、知恵に学ぶことも多いのではないか。
 日本政府も、身元を保証する親類や知人がいないウクライナ避難民も受け入れ、就労を認める方針を明らかにした。支援を表明する自治体や企業も相次いでいる。人道重視で柔軟に対応したい。
 
 ただ、避難民受け入れはあくまで暫定的な措置だ。ウクライナにとどまる家族らと離れ離れのままでは真の解決にはならない。
 
 国際社会は連帯して、ウクライナ支援やロシアへの経済制裁の一方、停戦に向けた仲介の労をとるなど、ロシア軍撤退とウクライナ避難民の早期帰還に尽力したい。

 元稿:東京新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】  2022年03月21日  07:58:00  これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。

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【社説①】:週のはじめに考える 東ティモールと日本

2022-03-30 07:53:35 | 【外交・外務省・国際情勢・地政学・国連・安保理・ICC・サミット(G20、】

【社説①】:週のはじめに考える 東ティモールと日本

 『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【社説①】:週のはじめに考える 東ティモールと日本 

 日本のはるか南の島、東ティモールは、インドネシアからの独立を住民投票で選択し、二〇〇二年に独立しました。五月で丸二十年。長野県ほどの約一万五千平方キロの国土に、百三十万人余が暮らす小国に、官民約百人の日本人が入り、成長を手助けしています。
 
 
ティモール島の地図

◆コーヒー営農を教える

 「マナ・ジュンコ(ジュンコ姉さん)、私たちの豆がベストテンに入ったよ!」
 高層ビルが立つ首都ディリから狭い山道を車で二時間。標高千五百メートルのマウベシ村で、地場産業のコーヒー豆作りを二十年間指導する伊藤淳子さん(東京都出身)に現地のスタッフが駆け寄りました。昨年の品評会でのことです。
 
 インドネシア地域政策研究の一環でコーヒー作りを学んでいた伊藤さんは、独立直前に東ティモール入り。現地の男性と結婚して三児をもうけ、今はNPO法人パルシック(東京)の東ティモール事務所代表です。オンラインでの取材に「品質アップが二十年間で最大の喜び」と語ってくれました。
 
 東ティモール大農学部で学んだ若いスタッフらとともに、生産者を組織化して現金出納のシステムも整備。同法人の指導によるコーヒー豆の輸出量(大半が日本向け)は二十年前の二十倍に急成長しました。「東ティモールのコーヒーは日本のどこでも飲めるようになった」と成果を実感しています。
 
 国全体の産出量も無論、年間約三百万トンで世界一位のブラジルには遠く及びませんが、一九年度は二年前の二倍以上の二万五千トン弱にまで伸びました。
 
 東ティモールでは、二十世紀後半のインドネシア軍による弾圧で、二十万人が死亡したとされます。一九九九年の住民投票では独立派が78・5%で圧勝、三年後に独立を宣言しました。
 
 最近は治安が安定。「大切な独立運動で横に置かれていたコーヒー作りのアイデンティティーが、平和な今、住民の心に再び灯(とも)ったのかも」と伊藤さんは話します。
 
 純然と「味」にひかれた日本人もいます。現地の農家と契約を結び、豆を直接輸入する名古屋の喫茶店経営、尾藤雅士さんは「国際貢献とかではなく、私なりの“コーヒー哲学”で東ティモールと付き合っていきたい」と話しています。
 
 首都中心部とディリ空港の間を流れる川に二〇一八年、国際協力機構(JICA)が二十六億円を負担するなど建設を支援した長さ二百五十メートルの橋が完成し「Ponte(現地語で『橋』) HINODE」と命名されました。JICA東ティモール事務所長の後藤光(こう)さん(愛知県出身)は、「『日の出』は東ティモールの『東』から。両国の“懸け橋”になればとの思いも込めました」と語ります。
 
 独立後をサポートし続けた国連の現地組織は一二年に活動を終了。その後は「隣国オーストラリアや米国などと並んで日本の支援の存在感は大きい」と杵渕(きねふち)正巳大使(新潟県出身)は言います。

◆油田とASEAN加盟

 国家の課題は大きく二つです。一つ目は油田開発の行方。豪州との国境の海底に油田があり、国家歳入二千二百億円余(二一年)の九割を石油収入に頼っています。コーヒー以外にめぼしい産業がないためです。
 
 しかし、既存の油田は枯渇が懸念され、新規の油田は豪州との調整が遅れています。
 
 東ティモールでは十九日、大統領選がありました。杵渕大使は「誰が当選してもこの問題が最重要課題」とみています。
 
 二つ目は、東南アジア諸国連合(ASEAN)への加盟。国力不足への懸念から合意は得られていません。大使は来年のASEAN議長国インドネシアに期待します。独立紛争で鋭く対立した両国の間にも、最近は融和の雰囲気があるそうです。独立運動を経験していない若年層の意識が、国全体の世論に影響しているようです。「二十年」の時の流れを感じます。
 
 前途には多くの難題があります。でも、住民投票で独立を勝ち取り、自分たちの意思で国造りを進めるこの国の人たちの表情は、明るく前向きに見えるようです。「親日」が根付く南の小さな国のために、私たちには何ができるか考えたいものです。東ティモールのコーヒーでも飲みながら。

 元稿:東京新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】  2022年03月20日  07:37:00  これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。

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【社説①】:中国の対ロ姿勢 率先して停戦へ行動を

2022-03-30 07:53:16 | 【中国・共産党・香港・一国二制度・台湾・一帯一路、国家の個人等の権利を抑圧統治】

【社説①】:中国の対ロ姿勢 率先して停戦へ行動を

 『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【社説①】:中国の対ロ姿勢 率先して停戦へ行動を 

 和平実現に向けた中国の行動が見えてこない。ロシアのウクライナ攻撃は激しさを増すばかりだ。緊密な関係にあるロシアに他国よりも強い影響力を持つ中国は、率先して停戦を求める行動を起こすべきである。
 
 李克強首相は全国人民代表大会(全人代=国会)閉幕後の会見で、ウクライナ情勢に「深い憂慮」を示す一方、「国際社会とともに、平和を回復するため積極的な役割を果たしたい」と述べるにとどめた。
 
 ロシアが核兵器使用までちらつかせて威嚇するような危機的な事態になっているのに、中国はロシア非難を避け、日米欧などの対ロ経済制裁にも反対している。
 
 李首相の「憂慮」発言は、ロシア寄りの姿勢に国際社会から批判が強まったため、自国の立場を守るため一定の配慮を示したにすぎないように映る。
 
 米中首脳による電話会談の前にローマで開かれた米中高官の協議では、米国は中ロの協力関係に懸念を示したが、中国は北大西洋条約機構(NATO)の東方不拡大を求めるロシアに理解を示した。中国がロシア擁護の姿勢を転換しないことに、国際社会の失望は大きい。
 
 中国は国連安全保障理事会の理事国であり、北京五輪に合わせた国連の「五輪休戦決議」も主導した。その休戦決議期間中にロシアは侵攻に踏み切ったのであり、真っ先にその振る舞いをただすべき立場であろう。市民に多くの犠牲がでている攻撃をやめさせるよう、仲介工作などで積極的に動くべきだ。
 
 中国は、世界経済に打撃となるウクライナ侵攻が自国にも悪影響を及ぼすとみているようだ。李首相は全人代で今年の経済成長率目標を昨年より低い「5・5%前後」としたが、それでも「実現は容易ではない」と述べた。
 
 中国の改革開放の努力もあろうが、平和な国際環境があったからこそ経済発展を遂げることのできた歴史を思い起こしてほしい。
 
 中国は、世界の平和と経済の安定に大局的な見地から貢献すべきだ。それでこそ、世界第二の経済大国として尊敬もされよう。

 元稿:東京新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】  2022年03月19日  07:04:00  これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。

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【ぎろんの森】:「平和国家」考え続けたい

2022-03-30 07:53:04 | 【ロシア・北方領土・シベリア開発・サハリン石油天然ガス・ウクライナ侵攻犯罪】

【ぎろんの森】:「平和国家」考え続けたい

 『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【ぎろんの森】:「平和国家」考え続けたい 

 ロシアによるウクライナ侵攻に伴い、日本国内でも安全保障政策を巡る論議が活発になっています。その一つが米国保有の核兵器を日本に配備して日米が共同運用する「核共有」です。
 
 戦争放棄と戦力不保持の平和憲法を持ち、唯一の戦争被爆国である日本は、核兵器を「持たず、つくらず、持ち込ませず」という非核三原則を国是としていますから、「核共有」をすれば、戦後日本の「国のかたち」は、根本から変わってしまいます。
 
 東京新聞は二日付社説「非核三原則否定するな」で、核共有反対の立場から「ウクライナ侵攻に乗じた安易な核共有や軍備増強を認めるわけにはいかない。日本が核共有すれば、核軍拡競争をあおり、核攻撃の口実を与えることになる」と訴えました。
 
 これに対し、読者の皆さんから「今こそ憲法九条の大切さを再確認するときだ。ウクライナを支援するために軍備拡張を許してしまうことを恐れる」「非核三原則は何が何でも守らねばならない」などの意見をいただきました。
 
 同時に異なる意見も寄せられました。「日本も抑止力強化のために核共有すべきだ。国民の命や安全を守る観点から核共有すべきだという意見も報道してほしい」「非核三原則をかたくなに守り、考えることをやめて国民が危機にひんするのなら本末転倒だ。大半の国民は、憲法九条や非核三原則のために生きてはいない」というものです。
 
 私たちは反対意見にも誠実に耳を傾け、議論を尽くしたいと考えます。議論を封じることは「言論の自由」にとっての自殺行為だからです。
 
 自民党安全保障調査会は、「核共有」を当面採用しない方針でまとまりました。「タブー視せずに今回、素直に学んだが『違うよね』というのが今の結論」だそうです。
 
 議論を尽くした上で、妥当な結論に行き着いたのであれば歓迎したいと考えます。今後、高市早苗政調会長ら党幹部の独断で方針が覆ることがないか注視していきます。
 
 ロシアの蛮行は、どうしたら日本と世界の平和を守ることができるのか、あらためて考える機会になりました。
 
 「平和国家」として歩み続ける大切さを読者の皆さんに訴え、ともに考え続けることが、私たちの新聞に課せられた使命だと考えます。 (と)

 元稿:東京新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【ぎろんの森】  2022年03月19日  07:04:00  これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。

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