【社説】:暴対法施行30年/離脱した組員の支援急げ
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【社説】:暴対法施行30年/離脱した組員の支援急げ
暴力団対策法(暴対法)の施行から3月で30年がたった。取り締まりが難しかった民事介入暴力に対処し、構成員らの削減に効力を発揮してきた。一方で、組同士の抗争が激化し、市民生活が脅かされている。組織の撲滅に向けた取り組みを、さらに強化していく必要がある。
暴対法は組の名前を使って威圧的に資金を得る団体を「指定暴力団」と規定する。暴力的な要求行為に中止や再発防止を命令し、従わない場合は刑事罰を科せるようにした。
1992年6月、公安委員会は神戸に本拠がある全国最大の暴力団、山口組を初めて指定した。2008年には組員の賠償責任を組長に負わせる「使用者責任」も盛り込んだ。12年には抗争などを起こす指定暴力団を「特定抗争」「特定危険」とし、事務所の使用制限などができる法改正をしたが、抗争は収まらない。
背景には山口組の分裂がある。組を離脱した幹部が15年に神戸山口組を結成し、激しく対立した。尼崎市では19年、神戸山口組の幹部が自動小銃で殺害され、報復とみられる銃撃も相次いだ。警察は双方を「特定抗争」に指定したが、市民を危険にさらす蛮行は断じて許されない。
先鋭化する組織もある。組への協力を拒む市民を殺傷し、全国で唯一「特定危険指定暴力団」に指定された工藤会(北九州市)の最高幹部に対し、福岡地裁は昨年8月、死刑判決(控訴)を言い渡した。利益のために手段を選ばない暴力団から市民を守るための体制強化が急がれる。
全国で制定された暴力団排除条例も後押しし、30年前に9万人を超えていた勢力は約3割にまで減った。鍵は資金と人の流れを絶つことだ。警察は組織の要求に従わないよう市民に訴え、暴力団関係者は銀行口座や住宅、携帯電話などの契約ができないようにした。社会生活が大幅に制限されることで、組織からの離脱を促す効果が出ている。
一方、暴力団に近いが規制の網から漏れる不良集団「半グレ」の動向に警戒を怠ることはできない。特殊詐欺やサイバー犯罪で得た資金を暴力団に「上納」する動きもある。警察は「準暴力団」に位置付けているが、対応は喫緊の課題である。
離脱した組員の就労支援も進めたい。警察は暴力追放運動推進センターなどと連携するが、兵庫を含め就労実績は低調という。組を抜けた後も、5年間は組関係者とみなす金融機関などの独自基準が壁になっているとの指摘もある。
そもそも暴力団に近づく若者らは、経済や教育面で不利な状況にあるとされる。企業、地域との連携や、市民の協力を得て、社会復帰を支援する環境づくりが欠かせない。
元稿:神戸新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】 2022年03月31日 06:00:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。