長谷川氏の文書は前回に紹介しました。ここで再度検証してみたいと思います。
まず第一に
日本共産党が注目を集めている。志位和夫委員長はテレビのインタビュー番組に引っ張りだこだし、政治討論番組は共産党抜きに番組が成立しないくらいの勢いだ。(引用ここまで)
長谷川氏の観想的論評のきっかけの一つが、「引っ張りうだこ」「成立しないくらいの勢いだ」という言葉に象徴的であるように思いました。
第二に、
私も出演した先日の「たかじんのそこまで言って委員会」は「共産党大会スペシャル」と題して、同党の国会議員など8人をゲストに激論を交わした(10月6日放送)。共産党をどうみるか。
まず、評価してもいい部分から言おう。
彼らは公正な所得再配分重視の姿勢で徹底している。私は「所得再配分には経済成長が前提になる」と思うから意見は違うが、それはそれでいい。共産党は「所得再配分をしっかり」と望む声を代弁していて、そこには正統な存在理由がある。(引用ここまで)
読売テレビ 異例の共産党特集/政策めぐり激論2013年10月7日
意見は違っても良いことは当然ですが、事実はどうか、そこが問題です。以下のことを参考にしていただければと思います。大企業が儲かっても、国民の懐が温かくなったという話はありません。或いは、労働者・国民の長時間過密労働とその報酬、大企業の儲けの割合はどうでしょうか。そのことに目を向けていただければ、いわゆる国民の目線が見えてくるのではないでしょうか。
第6回中央委員会総会/志位委員長の幹部会報告 - 日本共産党中央委員会 2013年2月11日
... 働く人の所得が減り続け、経済成長が止まった」――この点で日本は、文字通りの「例外国家」といわなければなりません。 .... 安倍晋三氏も歴代自民党政権の担い手の一人として、危機に直接の責任を負っています。 .... の拡大や賃金の上昇をもたらす好循環を生み出す」などという旧態依然とした「トリクル·ダウン」理論(おこぼれ理論)で 言い訳をしています。(引用ここまで)
党紹介(第24回党大会期)|日本共産党 - 日本共産党中央委員会
安倍内閣は、「成長戦略」、最近では「成長底上げ戦略」といいかえたようですが、そう 称して「大企業さえ成長すれば、いずれは家計におこぼれがまわる」という、すでに 破たんが証明ずみの大企業中心主義の政策に固執しています。(引用ここまで)
内部留保 トヨタで生きる 2013年9月26日
日本共産党 JCP酒田: アベノミクスQ&A 2013年6月20日
愛国者の邪論の記事もご覧ください。
毎日 今沢真氏の不勉強と曇った「社説:視点」に大喝!共産党の大企業政策を具体的に議論しないのは何故か!(2013-07-14 10:34:01 )
消費税増税を煽る全国紙が絶対にメスを入れない内部留保!共産党だけではないぞ!目を開けろ!その2(2013-08-13 19:29:58)
消費税増税を煽る全国紙が絶対にメスを入れない内部留保!これでは財政危機の荒療治はできません!その1(2013-08-13 19:25:33 )
第三は、以下の部分です。
これに対して、ダメな部分は外交と憲法についてだ。自己矛盾や見え透いた言い逃れがあって、話が首尾一貫しないのである。たとえば、中国や北朝鮮の脅威にどう対応するか。小池晃副委員長は「軍事力に依存しない外交力」という。残念ながら、外交力の背景には軍事力があるのが現実だ。(引用ここまで)
あまりに「一般的な意見」です。ジャーナリストであるならば、また「論説副主幹」という立場の人であるならば、このような世間的な風潮的見解はやめたらどうでしょうか。もう少し思慮が必要ではないでしょうか。この問題で言えば、今回のシリアへの軍事介入回避の最大の要因は、軍事力の否定でした。国際法に違反したイラク戦争を経験した国際社会の、非軍事的手段による解決を求める世論でした。以下ご覧ください。
シリア軍事介入反対64%に増/国際法上の正当性に懸念/フランス世論調査 2013年9月2日
主張/安保理シリア決議/軍事介入封じ政治解決でこそ 2013年9月29日
シリア軍事攻撃回避/国際世論発展が背景に [2013.9.16]
志位委員長、シリア代理大使と会談/化学兵器廃棄、内戦の政治解決を提起 [2013.9.12]
次です。「脅威」論に対して何を対峙していくか、そうです。憲法平和主義です。紛争の解決は非軍事・平和的手段を使うことです。「威嚇」は永久に放棄するのです。
北朝鮮が核ミサイルで威嚇し、中国が尖閣諸島を脅かしているとき、日米同盟を否定し自衛隊もなくて、話し合いで尖閣を守れるか。そう言うと、小池は「いま自衛隊をなくせとは言っていない。将来の話だ」と反論する。彼らは自衛隊は憲法違反という立場なのだから、護憲を唱えるなら「自衛隊をなくせ」になるはずなのに「現実問題として、すぐなくせない」という。その場しのぎのご都合主義なのだ。(引用ここまで)
長谷川氏のようなジャーナリストが言うべき内容でしょうか。あまりに機械的論法を使った「ためにする」主張と言わなければなりません。これも「一般的世論」の代弁と言えます。こうした「一般的世論」が形勢されてきたのは、日本のマスコミの思考停止報道に大きな原因があるのではないでしょうか。
もし長谷川氏が、本当に、このような論法に確信をもっているとしたら、一つには、情報収集不足と言わなければなりません。二つには、憲法の平和主義に対する無知と言わなければなりません。三つには、もし判って言っているとしたら、それは確信犯と言えます。
なぜ、このようなことを言うか、それは、今日の記事のなかでも紹介していることですが、以下をご覧ください。
日米安保条約をなくしたらどういう展望が開かれるか 全国革新懇総会 志位委員長の記念講演2012年05月12日
尖閣問題 いま必要なことは 日本共産党の見解と論戦から2012年08月18日
野党外交のチャンスを逃すと都議選と参議選躍進は厳しい共産党 機敏な ... 2013年5月21日
更に言えば、すでに10年以上も前に、共産党の外交政策・安全保障政策は、あらゆるところで紹介されているのです。まず、この政策を読んでいるかどうか、そのことが試されているのです。これらを読めば、「自己矛盾や見え透いた言い逃れがあって、話が首尾一貫しない」「その場しのぎのご都合主義」などということになるか、です。長谷川氏は、以下の政策について、具体的に質問するなり、応えるべきです。井戸端会議的な話では、国民に謝った見解と印象を流すことになりませんか。
日本共産党第22回大会決議2000年11月20日~24日
第22回党大会にたいする中央委員会報告──書記局長・志位和夫
安保・外交問題──日朝関係、安保廃棄の課題の重大性などについて
…それでは、憲法九条と自衛隊の現実との矛盾をどう解決するか。わが党は、改憲派がとなえるような自衛隊の現実にあわせて九条をとりはらうという方向での「解決」ではなく、世界史的にも先駆的意義をもつ九条の完全実施にむけて、憲法違反の現実を改革していくことこそ、政治の責任であると考える。この矛盾を解消することは、一足飛びにはできない。憲法九条の完全実施への接近を、国民の合意を尊重しながら、段階的にすすめることが必要である。
──第一段階は、日米安保条約廃棄前の段階である。ここでは、戦争法の発動や海外派兵の拡大など、九条のこれ以上の蹂躙を許さないことが、熱い焦点である。また世界でも軍縮の流れが当たり前になっている時代に、軍拡に終止符をうって軍縮に転じることも急務となっている。
──第二段階は、日米安保条約が廃棄され、日本が日米軍事同盟からぬけだした段階である。安保廃棄についての国民的合意が達成されることと、自衛隊解消の国民的合意とはおのずから別個の問題であり、自衛隊解消の国民的合意の成熟は、民主的政権のもとでの国民の体験をつうじて、形成されていくというのが、わが党の展望である。この段階では、自衛隊の民主的改革──米軍との従属的な関係の解消、公務員としての政治的中立性の徹底、大幅軍縮などが課題になる。
──第三段階は、国民の合意で、憲法九条の完全実施──自衛隊解消にとりくむ段階である。独立・中立の日本は、非同盟・中立の流れに参加し、世界やアジアの国々と、対等・平等・互恵の友好関係をきずき、日本の中立の地位の国際的な保障の確立に努力する。また憲法の平和原則にたった道理ある平和外交で、世界とアジアに貢献する。この努力ともあいまって、アジアの平和的安定の情勢が成熟すること、それを背景にして憲法九条の完全実施についての国民的合意が成熟することを見定めながら、自衛隊解消にむかっての本格的な措置にとりくむ。
独立・中立を宣言した日本が、諸外国とほんとうの友好関係をむすび、道理ある外交によって世界平和に貢献するならば、わが国が常備軍によらず安全を確保することが、二十一世紀には可能になるというのが、わが党の展望であり、目標である。
自衛隊問題の段階的解決というこの方針は、憲法九条の完全実施への接近の過程では、自衛隊が憲法違反の存在であるという認識には変わりがないが、これが一定の期間存在することはさけられないという立場にたつことである。これは一定の期間、憲法と自衛隊との矛盾がつづくということだが、この矛盾は、われわれに責任があるのではなく、先行する政権から引き継ぐ、さけがたい矛盾である。憲法と自衛隊との矛盾を引き継ぎながら、それを憲法九条の完全実施の方向で解消することをめざすのが、民主連合政府に参加するわが党の立場である。
そうした過渡的な時期に、急迫不正の主権侵害、大規模災害など、必要にせまられた場合には、存在している自衛隊を国民の安全のために活用する。国民の生活と生存、基本的人権、国の主権と独立など、憲法が立脚している原理を守るために、可能なあらゆる手段を用いることは、政治の当然の責務である。(引用ここまで)
どうでしょうか。批判は、具体的であるべきです。愛国者の邪論は、以下の記事を書いています。ご覧ください。
戦争放棄条約締結に積極的発信をしない憲法9条を戴く日本のマスコミの知的退廃の根源に何があるか(2013-10-15 17:29:42 )
赤旗はマスコミのふりまくデマイデオロギーと対峙せず!ネットに戦争放棄条約記事を配信せず!大渇!(2013-10-14 10:11:23 )
長谷川氏の所属する東京・中日新聞の社説で紹介した田中正造は、実は軍備全廃論者でした。そこで「外交力の背景には軍事力があるのが現実だ」論の誤りを検証してみます。それは核兵器「抑止力」論を前提にしています。これでは、長谷川氏の強調する中国や北朝鮮の「脅威」を認めることになってしまいます。以下ご覧ください。
東京社説 田中正造、百年の問い/足尾鉱毒と福島原発 2013/9/2 8:00
田中正造翁の100回忌法要に際して思うこと: 熊倉テルオと受験法律研究会 2012年9月14日
憲法メディアフォーラム - 田中正造の思想を現代に生かす 2013年9月24日
東京社説 核不使用声明/廃絶を目指す一歩に 2013/10/24 8:00
核兵器不使用声明/「核抑止力」論は相いれない 2013年10月24日(木)
最後は天皇制と憲法9条の関係です。これも、今日の記事で紹介していますので、ダブらない点を強調しておきます。それにしても、捉え方が、あまりに機械的すぎます。これも、共産党の見解を知っていて言っているのか、全く知らないのか、ジャーナリストとして恥ずかしいと思います。
天皇についても同様だ。彼らは「1人の人間や家族が象徴になるのはおかしい」と言う。象徴天皇制反対である。実際、天皇が出席する国会開会式には欠席している。それなら憲法改正を唱えるべきなのに、けっしてそうは言わない。(引用ここまで)
ブログ旗旗 » » 天皇の「公的行為」に関する憲法論ノート - 旗旗 - 草加耕助 2009年12月29日
以下の発言についても、綱領や大会決定で、明らかにしています。特に、別項に掲載する民主連合政府綱領で、すでに明らかにしているのです。長谷川氏は、ここでも不勉強ぶりを露呈してしまいました。このような、いわばジャーナリストとしての「無知」がなぜ起こるか、その事を反省すべきではないでしょうか。それとも意図的に発信しているのでしょうか。
「国民は政党を選べない」というのも、日本の選挙制度が小選挙区制だと錯覚しているのでしょうか。小選挙区であっても、個人の背後に政党があるのは常識中の常識でしょう。小選挙区制度が政権交代可能な制度を煽ってきたのは、他ならぬマスコミでした。その弊害については、ここでは論じませんが、長谷川氏には、現行選挙制度の、民主主義に反する側面は見えないようです。「一見もっともらしいから、ついだまされてしまう」という表現ですが、共産党が国民をだまして議席増を謀っているとでも言いたいのでしょうか。そうであるならば、「一見もっともらしい」ことを言っているという共産党のことを、もっと報道すればいいのです。国民はだまされないと思いますよ。
天皇をどうするかは「将来の国民の議論に委ねる」などという。私は、この「国民の議論に」という論法が最大のごまかしであると思う。政党なんだから「自分たちはこう考える」と主張するのが筋ではないか。判断を国民に投げられたら、国民は選挙で政党を選べない。それでも一見もっともらしいから、ついだまされてしまう。共産党が本音でどう思っているかといえば、実は自衛隊は最終的にいらず、象徴天皇制もいらないと思っている。それは討論で確認した。それなら、少なくとも天皇制については、絶対に護憲ではない。(引用ここまで)
以下の見解についても、今日の記事で紹介しておきました。実に面白い展開です。憲法制定議会で、現行憲法に共産党は反対し、自民党の先輩政党は賛成した。ところが、時代とともに、逆転したのです。このことをもっと掘り下げるのが、ジャーナリストである長谷川氏たちの責任でしょう。
だいたい第9条だって、もともと共産党は反対だった。1946年当時、リーダーの1人だった野坂参三衆院議員は「自衛権を放棄すれば民族の自立を危うくする」といって9条に反対しているのだ。私がそこを指摘すると、小池は「当時の吉田茂首相が『9条には自衛権がない』と言ったからだ。後で自民党政権は『自衛権はある』と認めたから、いまの憲法でいい」という理屈を展開した。(引用ここまで)
これもあまりに不勉強ですし、機械的です。反対したのは、天皇主権を象徴天皇制として遺したこと、憲法9条が自衛権を否定したことだったことは、今日の記事に紹介しておきました。これなども、公然と、国会でも発言していることです。それを報道したでしょうか?その後アメリカも日本も国家の自衛権を承認し、しかも日米軍事同盟にもとづく米軍駐留と自衛隊の認知のために憲法9条を変えていこうとする事態が50年代に起こります。憲法の平和主義と民主的制度の擁護のために、共産党は憲法改悪に反対していきます。これは、共産党が現行憲法制定の前に発表した憲法草案をみれば、その立ち居地が判るはずです。
同時に現行憲法制定時の最大の関心が憲法第9条ではなく、主権が天皇にあるか、国民にあるか、そのことが最大の関心だったことを、長谷川氏は、確認すべきです。また、これまで明らかにしてきたように、共産党は、「安保防衛・外交政策でも正々堂々、自分たちの本音で勝負」していることを、再確認すべきです。資料は山ほどあるのです。
そんなことを言ったら、共産党が憲法に反対したり賛成したりするのは、政府の憲法解釈次第という話になってしまうではないか。独立した政党の主張がそれでいいのか。一言で言えば、共産党は重要政策で自分たちの本音を隠して、国民に耳触りのいい議論をばらまいている。経済政策ですっきり自分たちの主張を唱えているように、安保防衛・外交政策でも正々堂々、自分たちの本音で勝負してもらいたい。(文中敬称略)
では、現行憲法の制定を急いだ日本の保守層の思惑は、「皇室の御安泰」「危機一髪」を回避することだったのです。憲法9条は、そのための、ある意味交換トレードのようなものだったのです。そうした点からすれば、安倍首相の「押し付けられた」論は「正解」でしょう。9条は天皇の戦争責任、「戦争犯罪人の処罰」をくいとめるための防波堤のようなものだったのです。以下ご覧ください。杉原泰雄『平和憲法』(岩波新書1987刊)
杉原 泰雄 枢密院における幣原首相の憲法草案説明要旨 1946年3月20日 | 日本国 ...
1946年(昭和21)年3月20日、幣原首相は、枢密院で以下のような説明をしているが、そこには権力担当者の当時における考え方の一部がよくわかる。
「尚、申添えたきは2月末頃からの国際状勢である……極東委員会……の第1回の会議は2月26日ワシントンに開催され其の際日本憲法改正問題に関する論議があり、日本皇室を護持せんとするマ司令官の方針に対し容喙の形成が見えたのではないかと想像せられる。マ司令官は之に先んじて既成の事実を作り上げんが為に急に憲法草案の発表を急ぐことになったものの如く、マ司令官は極めて秘密裡に此の草案の取纏めが進行し全く外部に洩れることなく成果を発表し得うるに至ったことを非常に喜んで居る旨を聞いた。此の状勢を考えると今日此の如き草案が成立を見たことは日本の為めに誠に喜ぶべきことで、若し時期を失した場合には我が皇室の御安泰の上からも極めて憚るべきものがあったように思われ危機一髪ともいうべきものであったと思うのである。(引用ここまで)
つづく