
練馬区立美術館の「収蔵作品による 小林清親 増補サプリメント」展を觀る。
平成二十七年に當館で開催された小林清親展がきっかけでさらに寄贈された作品や遺品から、選りすぐりの貴重な資料を“増補”として公開した入場無料の展覧會。
私は小林清親の浮世繪には令和元年に川崎浮世絵ギャラリーで初會し、その爽明な作品世界にすっかり魅せられた一人であり、今回の展覧會は年が明けてからゆっくり觀に行かうと樂しみにしてゐた。
旧幕臣にして、明治の世となってから浮世繪師となった小林清親が、外國人の誰から西洋水彩画を學んだのかは定かでないと云ふ。
しかし、誰から習得したにせよ、この浮世繪師がのちに「光線画」と呼ばれる独自の情緒を醸し出す作品群を創造して名を成したのも、水彩画の技法をしっかり咀嚼し自家藥籠としたからに他ならず、余人の如くただ西洋文化に迎合して猿真似をしたにすぎない異國かぶれとはっきりと一線を画してゐることは、論より証拠、作品を観れば明らかだ。
「取り入れる」ことは「迎合する」こととは全く別物であり、作家のものを見る目は同時に“いま”を見る目でもあることを、私は今回の展覧會で識る。
また、幕臣時代に着けてゐた裃と烏帽子の實物も展示されており、その仕立て具合が私の手猿樂師としての心を刺激する。
今日はいいものに逢ふことができた。
私の令和四年が好發進した手應へを、やうやく得る。