迦陵頻伽──ことだまのこゑ

手猿樂師•嵐悳江が見た浮世を気ままに語る。

とんてんかん。

2015-10-24 22:15:09 | 浮世見聞記
横浜市鶴見区の矢向日枝神社で、同社の宮司家に伝わる奉納郷神楽を観る。

演目は「神剣幽助(しんけんゆうじょ)」と云ひ、能や歌舞伎では「小鍛冶」として知られてゐる曲である。



所々に入る解説と、三條小鍛冶宗近にひとつだけ台詞があるほかは、お話しはすべてお囃子にのせて無言で進行する。


その前を、幼児がキャッキャッと笑ひながら、走り過ぎる。

屋台からの香ばしゐ匂ひが、鼻をくすぐる。

射的の乾ゐた砲音が、稲荷明神と宗近が打つ刀の音と、重なって聞こゑてくる。


ニッポン人は、本当はもっと、ゆったりと生きてゐた民族だったのではなゐだらうか―


そのいにしへの生活風景に思ひを馳せられるところに、民俗芸能の本当の価値がある。


その芸能が廃れる時、それはニッポン人がみずからニッポン人らしさを一つ、棄てることを意味する。






首につながれた見へなゐ鎖を断ち切る剣は、なゐものか……。
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