東京圏を覆ってゐたイヤな雲がやうやく拂はれ、戻った陽射しに秋風は見ゆれど、にほひが聞こえてこない。

……さうであらう。

顔の下半分を覆ってゐることをうっかり忘れるほど、いまやこの“新しい生活様式”は我が身に浸透したらしい。



……さうであらう。
マスクをしてゐるのだから。

顔の下半分を覆ってゐることをうっかり忘れるほど、いまやこの“新しい生活様式”は我が身に浸透したらしい。
近くにヒトがゐないのを確かめてからマスクを外す──さうした忌ま忌ましい作法を経て、やうやく秋のにほひを聴く。

支那發の人災疫病は、四季の聲を聴く樂しみすら、かくまで手間のかかるものにしおった……。
休場者ばかりでイマイチ盛り上がりに欠けた大相撲九月場所は、正代の優勝で締めくくらるる。

やっと摑んだ優勝。
いつも同じ力士の優勝より、いつも違ったはうが、まわりも励みにならう。
……と、思ふのだが、北の富士勝昭さんが解説でよく口にする、
「稽古が全然足りてないんじゃないかなぁ」
のはうが耳に残った、令和二年九月場所。