確かに、現在(いま)の文庫本は「お高いナ……」と思ふ。
簡易な製本でそのぶん廉価、と云ふのが文庫本の長所のハズで、私が學生の頃は新刊物でも千円札一枚で三冊は買へたのが、いまや一冊すらアヤシイ。
時代は変はったとつくづく思ふ。
もっとも、いまでは新刊で手に入れたいと思ふほどの本もないので、気になるものを見かけたら古本化して値段が下がるのを、のんびり待つのが當り前になってゐる。
食品ではなし、時間の經過で中身が腐るわけではないのだ。
その後の日々の生活のなかですっかり忘れてしまへば、しょせん自分には縁の無い本だったと云ふことであり、

街なかの古本市などを覗いてひょっこり出逢へれば、その一冊とは“運命の糸”で結ばれてゐた、と云ふことである。
本當に必要な物は、値段云々とは関係なしに、いつか必ず自分の手に入るものだ。