ある谷あいの小さな町。
そこは何とも美しい畑がひろがる町でした。
暴風雨のなか、急峻な峠を越えてやってきた我々の目に、その町は楽園に見えた。
おだやかな陽に輝く緑の木々。
4000m級の山々を遠くにのぞむ斜面に点々と並ぶ
白い壁の家々。
ここで何か出会いが撮れればいいな、と思ったわけです。
八田くん(写真右)も私も、その意見が一致。
せっかくディレクター修行のために連れてきた八田くんに
このシーンでディレクターをさせることにした。
私はカメラマンに徹する。
ディレクターとなった八田くんはまず、最初に見つけた大きな農場に下調べに行った。
自転車探検部ではほとんどやりませんが、
普通の番組では、撮影の前にまず「下調べ」があります。
「ロケハン=ロケーション・ハンティング」というやつですね。
そこで撮影させてもらえるか?
そこは撮影したい場所か?
そこにいる人は素敵か?
そんなことを調べて、良さそうなら撮影に踏み切るわけです。
これは大切なことです。
なぜなら、撮影させてもらったのに番組ではカットされる、という事態を
防ぐためでもあるからです。
何時間もかけて撮影したのにカットになったら、
撮影させてもらった人たちに申し訳ない。
だから、下見をして、番組になるかどうかを判断するわけですね。
八田くんの下調べは、2時間近くにおよんだ。
八田くんは、そこで撮影をするつもりだったようだ。
でも、私はその工場のような農場は、どう頑張って撮ってもカットになる気がしていたので、
自転車で走り回って、ある小さな畑のある家を見つけた。
そこが農家かどうかも分からないし、
きょうは留守かもしれない。
でも私は、「ここがいい!」と思ったのです。
なぜその小さな畑のある家を「ここだ!」と思ったのか?
それは、そこに「匂い」を感じたから。
これは言葉ではなかなか説明できません。
古いけれども手入れの行き届いた家。
小さいけれども愛されて育っているように見える畑。
ステキな出会いのある場所には「匂い」があるのです。
2時間の下見の末に、八田くんは戻って来た。
自信なさげに「ここで撮影しようと思うのですが…」と言う。
これで決まり。
「ここで撮りたいです!」と胸を張って言われれば、そこで撮ったと思うけど、
ディレクターが不安なのに撮ったところで、良いシーンは絶対撮れない。
私は強制的に、その小さい畑で撮影することに決めた。
ぶっつけ本番。
その家にはどんな人が住んでいるのか、
撮影させてくれるかどうかも分からない。
でも、きっとあの畑でならステキなシーンが撮れるはずだと
私の心が言ってくる。
結局、その畑では、予想以上にステキなシーンが撮れた。
八田くんは「嗅覚」というものがあるのだと感じてくれたかしら。
もちろんその嗅覚は、ハズレることも多い。
今回、シーンとしては最高の出会いが撮れたけど、
そこでごちそうしてくれた「ある物」を食べた我々3人は、
みんな仲良くお腹をこわした。
そんな「おなかグルグル」な3人を撮ったのが、
いちばん上の写真。
しょんぼりだけど、嬉しさ満面。
そんなシーンの裏話★