島根に行ってきました。
ジュニア(18歳以下)の全日本選手権の撮影でございます。
レースの撮影、といっても、
私の目的はその場にいる「ある人物」。
基本的にはインタビュー中心なので、私ひとりでEOS片手にリュックひとつのロケです。
飛行機の窓から見える浜辺の集落。
美しい。
あの集落に行ってみたいなあ、と思いながら
石見空港に降り立つ。
益田に着いたのは夕方6時。
街を歩いていると、気になる店を発見。
陶器の店だ。
窓からのぞくと、好みの感じ。入ってみる。
萩焼の陶芸家の店だった。
奥様が迎えてくれた。
聞けば、陶芸家は御年80歳だという。
中学生の時、陶器を見て一目惚れし、陶芸家の道を志したそうだ。
土へのこだわり、釉薬へのこだわり。
いろいろ聞いていたら、買いたくなった。
陶器を包む布は鬱金で染めたものを使い、
共箱を結ぶ紐は真田紐。
陶芸家はただでさえ暮らせない職業になってしまったのに、
これだけこだわり続けるのは大変だろう。
素敵な出会いだった。
どうかお元気で。
小さな街で全日本選手権が行われるとあって、
宿は2ヶ月前には満員だった。
仕方ないので、暇そうな民宿を予約。
しかしここもギリギリ最後の一部屋だったようだ。
1泊4500円。
思ったより良かった。
民宿「玄海」。
部屋で仕事をしていたら、2時を過ぎていた。
慌てて風呂に入ったら、お湯の電源が落とされていて
水しか出なかった。
カンボジアのホテルを思い出した。
次の日。
目的の人物が到着するのは昼の予定だという。
朝6時に出発し、コースや会場の下見の前に
飛行機から見た集落を下見しておく。
自転車を持ってきていないのが残念だ。
波の音と、鳥の声。
それ以外の音がなんにもない。
もちろん店もない。
なんて素敵なところなんだろう。
ここにはたっぷりとした「時間」がある。
出会った漁師チャリダーが
「死に損ないばかりの村だよ」
と、カラカラと笑った。
河口というのは、たいてい濁っているものだけれど、
ここの川は違う。
人がいないというのは、こういうことか。
ロケの基本は、その土地の「実景」を撮ることから始まる。
「益田」が分かる広い画を撮りに、益田市街へ戻る。
うろうろしてたら、鉄橋に線路を発見。
今回の「実景」はこれにしよう。
電車を待つ。
…来ない。
むむ、と思って時刻表を調べると、電車が来るのは30分後。
そのあとは2時間後までない。一発勝負だ。
他の台本を書きながら電車を待つ。
電車は2両編成、猛スピードで走り去っていった。
もっとゆっくり走ってほしかった。
出会った益田の人たちはみんな
「ここは何にもない田舎でしょ」と言うけれど、
これほど画になる土地はそうそうありませんよ。
ロードレースのルートを下見して、いよいよ会場入り。
ジュニアとはいえ、これは全日本選手権。
これまで取材してきたアマチュアレースとは格が違う。
緊張しながら、主催のJCF(日本自転車競技連盟)の方にご挨拶。
すると、驚きの一言が。
「MOTOを1台ご用意できるのですが、乗りますか?」
わお!
これは大変なことになった!
MOTOというのは、オートバイのこと。
(ちなみにバイク、というと自転車のことになる)
レースを撮影する際、コース内を走れるのは
主催者が許可した「審判車両」だけ。
その数台のMOTOに、写真カメラマン、審判、主催者側のムービーカメラマンなどが乗るため、
我々のような「外様」が乗る余地は普通はないのです。
それが、今回はあるという。
番組的には、乗らなくても番組になるように考えてきたので
乗る必要はない。
でも、乗ったら番組に新たな展開が生まれるかもしれない。
何よりも、個人的にはこんな面白い経験をしないのはもったいない!
問題は2つ。
レースは撮れないと思って来たので、
「手ぶれに強いカメラ」を持ってきていないこと。
(EOSはピントや絞りなどすべてマニュアル操作なので
MOTOから撮るのは超高難易度)
そして、ヘルメットを持ってきていないこと。
まごまごしていたら、たまたま側にいた知人が
「ヘルメット貸してあげようか?」と。
YES!
乗ります!
撮影の大変さは根性で乗り切る!
編集が変わることは、責任もって何とかする!
レースが始まった。
スタートを撮影し、MOTOに飛び乗る。
グアアアン、と加速し、選手たちを追う。
後ろに振り落とされそうになる。
これがロードレースのMOTOか。
スピードが出ないヒルクライムの撮影とは大違いだ。
ジュニアとはいえ、日本一を決める大会。
10%近い上りでも25km/hで走る。
そして下りは90km/h!
しょええええ〜!
撮影してるとカーブの向こうにすっ飛んで行きそうだ。
そのままMOTOがカーブで斜めになるのが最も恐ろしい。
落ちたらバラバラのミンチだな。
さらに大変なのが、
公式戦なので選手の近くを走れないのだ。
近くを走ると空力を助けることになってしまうので、
20m以内には近づけないという。
私の持って来ているレンズは24-105mm。
20mも離れたら、選手は点にしか写らない。
なんとかレギュレーションギリギリで、
選手たちの前後を上がったり下がったりしながら、横打ちを狙う。
すげえ迫力だ。
益田市の「種」という地区は
人口が300人だという。
そこに300人の選手たちが集まり、
轟音を立てて走っている。
子供たちが、我々にも全力で応援をしてくれる。
なんて美しいんだろう。
結局、無理だと思って出した要望をすべて叶えてもらい、
ニュートラルカー(選手たちの後ろを走る車)にも乗せてもらえた。
「レースの撮影経験はおありですか?」と聞かれた時に
「ジロデイタリアでチームカーでの撮影をしました」と答えられたのが良かったのだと思う。
行っといて良かった…。
レースを終えて、JCFの偉い人に
「来年、エリートのロードレースを撮らせてもらえませんか?」
と聞いたら、大丈夫だよ、と。
おお!
全日本選手権の男子エリートのレースを
番組で取材できるかもしれない!
経験が、新たな経験につながっていく。
うーん、楽しい。
よし、企画書くぞ!
今月19日放送の「乗鞍チャンピオンクラス」みたいな番組を
全日本選手権でやりたいのです。
とそのまえに、いろんな編集が待ってる編集室へ
羽田から直行するんですけどね…★