数年前のこと。
ひょんなことから、永六輔さんのプライベート旅のお供をすることになって、
北海道のあちこちを回った。
旅の中、名寄という町で、飯村さんという農家と出会った。
飯村さんは情熱の人で、
過疎化するふるさとに元気を取り戻したいと活動していて、
その意気に触れた永さんが、お忍びで公演会をしたのだった。
農家の方々は、ラジオを聞きながら仕事をするのが常だそうで、
とくに永さんのラジオは盤石の人気を誇っている。
その永六輔さんが来るとあって、
小さな公民館は住民総出のにぎわいとなった。
飯村さんは「こんなに集落が元気なのは久しぶりです」と、たいそう喜んで、
それ以来、毎年夏になると、
なぜか私にも自分が育てた野菜を送ってくれるのだった。
ある年。
はじめて、飯村家の野菜が届かなかった。
心配して手紙を出したが、なしのつぶてだった。
半年ほどして、手紙が届いた。
「息子がバイク事故で下半身不随になり、さらに癌もみつかり手術した。
せっかく希望の就職先が決まり、一人暮らしを始めたばかりだったのに。
家族で懸命にやっているが、このさきどうしたら良いかわからない」
ということが乱れた筆で書かれていた。
入院、手術。
飯村家の家計が苦しいのは分かっていたけれども、
飯村さんの性格を考えると、お金を送るわけにもいかない。
もはや、私に出来るのは、
飯村さんが見たら元気が出るような番組を作ることだけだった。
今年。
ひさしぶりに飯村家の野菜が届いた。
そこには手紙が添えてあった。
「息子が退院しました。
下半身は動かなくなってしまったけど、
実家に戻るとぜったい引きこもりになるからイヤだと言って、
1人暮らしをしています。
就職先だったトヨタさんが、仕事に戻らせてくれるそうなので、
ホッとしています。
飯村家にも元気が戻って来ました。
気にかけてくれて本当にありがとう!」
命の明滅。
ああ、私は今年の飯村家のトウキビの味を、
決して忘れまい。