ツールドおきなわ後編の放送後
伊織くんから電話があった
お互いに「放送を見て泣いた」ことと
「今年も頑張ろう」という話をした
「頑張るぜ!」と言ってみたものの
頑張ったところで 先頭集団に残れるほどに強くなれるかというと
全く自信がなく(笑)
今回の沖縄でも なんとか完走ぐらいはできるかもしれないと
がむしゃらに頑張って来ただけなのだが
完走以外に目標がなかったわけではない
それは「文平くんを完走させること」だった
五郎教室屈指のクライマー 文平
ヒルクライムに特化していれば 乗鞍の年代別で優勝を狙える位置にいたのに
ロードレースに片足を突っ込んだばかりに
4戦中3戦でリタイア
さらに2度の落車で体調はガタガタ
アシストとして役に立つことも出来ない
文平くんは相当参っていたと思う
それでも必死に練習していた
これで沖縄でもリタイアしたら
悲しすぎた
なんとか自分がアシストして完走させたかった
表には出ないが 私もメンバーのひとりに加えてもらっている
そして文平くん以上に まったくチームの役に立っていない
メンバーの端くれとして できることを探したとき
こんな自分でも 文平くんのためなら力になれるかもしれないと思った
沖縄 140kmがスタートしたとき
文平くんは それまでの調子から比べると
かなり仕上げて来ているのが分かった
2度目のフンガワの上りまでは 常に先頭にいた
しかし あの調子で飛ばしていたら
いずれ落ちてくるだろう
私は文平くんを助けるための体力を温存するために
2度目のフンガワで先頭集団から千切れ
ペースを抑えて走った
案の定 およそ80km地点の学校坂で
文平くんの背中が見えて来た
しかし その背中を見てビックリした
まるで生気が失われていたのだ
「文平! どうした?」
「だいぶダメです 力が入りません」
完走を諦めたのかと思うほど
声に張りがなかった
とりあえず前に出て引っぱる
230Wでなんとか着いて来られる感じだ
「補給はとってるか?」
「ちょいちょい取ってます」
「この坂が終わったらがっつり取って あと、カフェインも」
沖縄に向けて 私は補給用のカフェインジェルを取り寄せ
メンバーに配っておいた
事前にテストしてみたら およそ20分後には効き始め
2時間ぐらい効果が持続した
なので 学校坂が終わったら飲むように と
渡しておいたのだ
文平くんが回復することを祈りながら
集団からこぼれて来た選手にひたすら声をかけた
「後ろについて! 回復したら回しましょう!」
文平くんをゴールさせるためには 集団が必要だ
集団はすぐに20人ぐらいになり
そのうち5人ぐらいが先頭交代してくれた
文平くんには 回復するまで一番後ろで休むように伝えた
先頭を引くときのパワーは280W
そうすれば 10人ぐらい後ろにいる文平くんは
200W程度で済むはず
文平くんにとってベストなスピードだ
30分ぐらいすると 文平くんがスルスルと前に出て来た
「もっと休んでていいぞ」
「もう大丈夫です!」
文平くんは元気に先頭交代を始めた
「文平! 1090番についていけ
あの人は速いし ちゃんと先頭交代してくれる」
「わかりました!」
先頭を牽き始めた文平くんを見届けて 集団の後ろに下がろうとしたその時
見事に私の内転筋が攣った
まったく良いタイミングだ(笑)
そしてそのまま 自分が作った集団から千切れた
遠のいていく文平くんの背中を眺めながら
そのままゴールに辿り着けよ! と願った
私はその後 側溝から生えた「手」を発見し
文平くんは 見事にその集団のままゴールした
68位だった
文平くんから遅れること30分
私がゴールしたとき
文平くんが真っ先に来てくれた
そして涙をこらえながら こう言ってくれた
「あの時 カフェイン飲めと言われていなかったら
僕はゴールできませんでした
ありがとうございました」
固く固く 握手をした
嬉しくて 泣きそうだった
私は 文平くんが1年間
とても頑張って来たことを知っている
だから 私がしたことは そのほんの一助にすぎない
でも 嬉しかった
初めてチームの一員として走れた気がしたから
文平くんは今シーズン もっともっと速くなっていくだろう
次の沖縄では とても私がアシストできるレベルではなくなっているかもしれない
それは嬉しいことだけれど
メンバーとして出来ることが 無くなってしまうな…★