
車で移動しては
そのエリアを走る
そしてまた移動
走る時には 仮のテーマを設定してスタート
その視線で見た時に そこで何が撮れるか?

私は観光地が苦手だ
そこには「暮らし」や「本音」が無いから
でも旅番組って本来は
楽しい観光地を巡るものなんだよなあ(笑)
女の子2人のバス旅行なら話が作れる行き先も
男ひとりの自転車旅だと 話にならなかったり
旅人が鶴瓶師匠なら 走る距離はひとつの村内で十分だが
他人やその土地に興味が薄く 話を引き出せない旅人だと
行き先を選ぶために 200km以上の距離が必要になってくる

シューズを新しくした
シマノのグラベルシューズ
RX8 海外限定モデル
前のモデルは4年ぐらい履いた
ロケで歩き回るために
靴底がツルツルになってしまった
円安で高くついたけど また仕事で数年使うと思うと
少しでもテンションが上がるものが良い

滋賀から岐阜を経て 富山にたどり着いたとき
そういえば木の芽峠の前川さんちが近いはずだと調べたら
今年の3月に永眠されたと書かれていた

福井の歴史旅で出会った前川さん
もっちゃんが「ビョウビョウビョウ!」と
狂言の犬の鳴き声を叫んでいたら
「誰だ変な声出してるのは」と怒られた人だ(笑)

平清盛の直径の子孫だと言い伝わる前川家
調べると 江戸時代の記録にすでにその旨が書かれていた
本当に平氏の子孫なのか大掛かりな調査が入った記録もあった
その報告によれば 家屋は江戸時代初期ごろのもので
前川姓になったいきさつなどを含めて 平家直系である可能性は「あり得る」ということだった
よく疑われるのだろう
前川さんは私に 平氏であることを証明しようと
ここには書けないようなものも見せてくれた
でも私にとって 清盛の末裔かどうかということよりも
ガンコだけど優しい前川さんが魅力的だった

私は3回 前川さんちを訪ねている
毎回 裏山で汲んできた清水でお茶を淹れてくれる
そして必ずお茶請けは おせんべいだ
3回中2回が「雪の宿」で
それ以来 私は「雪の宿」が忘れられない味になった

会いに行くたびに「心臓が悪くて体が動かん」とボヤいていた
「でもな 龍神さんのお告げによれば 99までは生かしてやるということでな」
そう言って胸の辺りをさするので 私は
「あと15年しかないじゃないですか。龍神さんにもうちょっと長くしてもらえるよう頼んどきますね」
とジョークを言うと「えへへへ」と
顔をくしゃくしゃにして笑ってくれた
だが 99に届く前に亡くなってしまった
もう一度会いたかったなあと思う
でも私は会いに行かなかった
ようやく今日がチャンスだったのに
もう会えない人になっていた
今からお供え物を持って 線香をあげに行ったところで
何もならない
生きているうちに 前川さんが素敵であることを
もっと伝えておきたかった

私は 人のことを少しでも多く褒めることにしている
少しでも優れていたら それを伝える
自分がいつ死ぬか分からないし
相手もいつ居なくなるか分からないから

誰も来ない畦道の交差点で
立山連峰からの風に吹かれながら
ずっと考え事をしていた
出演者のやりたいこと
視聴者の見たいこと
出会った人が見せたいもの
私が撮りたいこと
それが交わらないと 良い番組はできない
はあ…難しい(笑)
ディレクターは 悩める生き物である

食事をしながらも 黙々と考え事をしているので
店主が心配して声をかけてくれた(笑)

道中で入った温泉
露天風呂が丸見えすぎて
かえって気分がすがすがしい(笑)
自動車の走行距離 1300km
自転車の走行距離 420km
今回立ち寄った多くの店が
今週で冬休みに入ると言っていた
次に来られるのは 春以降
それまで元気で生きていこう
