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毎月、おおよそドローイング&小説(上旬)、フィールド映像(中旬)、エッセイ(下旬)の3部構成で描き、撮り、書いてます。

エッセイ737. 研究ノート3:市川崑に学ぶ撮影編集方法-桂離宮、追記

2024年06月28日 | field work
 
 桂離宮は撮影する機会がないので私の興味外だが、市川崑はどのようにこれを撮影したかをみてみよう。トップ画像にこのドキュメントの桂離宮の部分の作品スコアをあげた。前放映時間37分25秒の中で桂離宮は8分30秒を占める。
 最初に桂の外観が写るが屋根を入れていない。前面の池に全景が映るという仕掛けだ。このあたりのカメラワークは見事というほかない。
 次いで外観部分の大半をアップでなめるように回ってゆく。外廊下-障子-ときて室内に入ってゆく。主要な居室と思われるディテールを執拗にアップで撮影し縁側から外へ飛び出してゆく。外観では特徴ある床下部分の柱のディテールをアップで続け、床下-庭から松琴亭茶室に向かう。茶室のディテールをアップで撮り尽くしながら外観、そして主屋へ戻ってくる。主屋では寝室、浴室、便所などの生活部分を回りながら玄関に続く、玄関前の石畳とそのディテールをアップで捉える。続いて雁行する外観部分の冬の風景を写しつつ、視点は空撮にかわり桂離宮全体を描写して終わる。
 特徴的なのはロングショットがある事とアップが多い事だ。前者は溝口健二に始まる技法だろうか。和室の空間は襖を開ければ連続した空間だから、それは頷ける方法でもある。後者のアップで柱などのディテールを執拗に描写しており、この映画全体に共通している方法であり、市川崑はアップの描写を効果的に使う映画監督ではなかろうか。また襖や障子を順次開いたり閉じたりしながら部屋をみせたり閉じたりしている。このあたりは映画人固有の演出だろうけど、建築の障子と襖の空間をよく表している。
 かってブルーのタウトが桂離宮を絶賛した歴史経緯もあり、日本の伝統様式を取り入れた現代建築様式の議論がこの頃盛んだった。この映画の監修者の一人である丹下健三も香川県庁舎で日本の伝統様式の一部を取り入れていた。市川崑の映画も、そうしたこの時代の空気を色濃くにじませている。
 しかしこの時代の建築家が提唱していた、コアピロッティだのコンクリート打ち放しだのとする建築様式は伝統とは無関係の議論であった。今も京都岡崎にあるロームシアター(設計:前川国男)をみていると、伝統的街並みが残されている京都の景観には全くそぐわずに残されている。おそらく伝統を巡る議論とは、伝統民家を全て喪失したローカルな都市での伝統様式復活論だったのだろう。そんな巷の議論を他山の石として桂離宮は、今も凜としてたたずんでいる。
 

図版出典:「KYOTO日本の心-A documentary flim by Kon Ichikawa,Olivetti arte(www.martygrossfilms.com版)1968.

追記
 ニコンが国内のカメラ生産を辞めるそうだ。
 実質カメラ事業から撤退でしょう。そうすると法外に高いニコン・ミラーレスシステムを買わされた人達はかわいそうですねぇー。まあサポートぐらいはしてくれると思いますが、もう新製品は出ないでしょう。ニコンF以来のユーザであった私は、いち早くSONYに乗り換えたので関心は薄いけど。
 やはりニコンは、あらゆる製品開発が遅すぎた。特にニコンはイメージセンサーの自社開発に失敗した。あのLBCASTをもう少し大切に成長させればよかったのにと今では残念に思う。どうしてライバルのSONYに安易に乗り換えたのか。そして今はイスラエルのメーカー製造とする説もある。カメラの心臓部が他社製というニコンらしからぬ仕様は、ブランド価値を著しく引き下げただろう。
 既にわが国カメラメーカーではOLYMPUSとPENTAXのイメージセンサーを自社製造しない企業が第一線から消えた。特異なイメージセンサーを開発したFUJIはあかんと思ったらすぐに手を引くだろう。私が思うに、今後生き残れるのはSONYとPanasonicぐらいでしょう。どちらもイメージセンサーを自社製造し映像機材としても活用されているから。
 このようにイメージセンサーを自社開発出来たかどうかの違いが明暗を分けることになった。あれってカメラメーカーの命だったんだけど。

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