コタツ評論

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流転の果て

2010-01-08 01:25:00 | ブックオフ本
積ん読が10冊以上も重ねてあるというのに、亀戸のブックオフで、またも魅力的な本を見つけてしまい、いそいそ買い込んでしまった。



『流転の果て-ニッポン金融盛衰記'85~'98 <上下>』(大塚将司 社)金融財政事情研究会)

どこに惹かれたかといえば、「大塚将司」という著者名である。日本経済新聞社の社員なのに、社長の首を取ろうとした堂々たる内部告発者なのである。「堂々たる」というのは、日経の株主総会の場で、独自の取材に基づき、鶴田社長(当時)のスキャンダルを告発したのである。

<日経新聞が内部告発者・大塚将司氏を提訴>
http://slapp.jugem.jp/?eid=114

次ぎに、金融財政事情研究会という版元に注目した。通称、「きんざい」と呼ばれる。金融専門誌「週刊金融財政事情」を発行する、金融業界では知る人ぞ知る、有力出版社なのである。元日経記者の著作だからとありがたがるような版元ではないし、「大塚将司」という「スキャンダラス」な有名性に飛びつく版元でもないのである。

社団法人 金融財政事情研究会
http://www.kinzai.or.jp/

まだ、上巻の1/4ほどだが、読み出したら面白くて、座れない急行には乗らず、座って読める各駅停車に乗ってしまった。もちろん、金融財政の知識は皆無、証券も債券も金利も為替も、そこいらの中学生と変わらぬほど知らないが、面白く読める。「プラザ合意」の円高から内需拡大の「バブル経済」へ、そして「失われた10年」、一人の経済記者の眼に映った、この15年間の日本の金融界の有為転変を「そういうことだったのか」と思い出せるのである。

「為替は円高に推移」とか「日銀が利下げに」といった、断片的な経済記事を読んでも、その意味や影響について、私にはわかったためしがない。ところが、その記事を書いている記者も、わかって書いているわけではなさそうなのだ。日本経済新聞のベテラン記者だった著者も、いたるところで、「無知だった」と認め、「そうなるとは想像もしなかった」と語っている。

新聞記者の内実についても、よく知ることができる。スクープ記者として自信を持てるようになっても、「いまこうなっている」だけでなく、「これからこうなる」と提示できなければジャーナリストではないのではないかと、折々の葛藤を率直に語っている。誰よりも早く特ダネを書くスクープ記者をプロとすれば、つまりできることを最大限にするのがプロとすれば、できないことをなぜできないかと考え続けるのは、アマチュアということになる。現役時代、そんな葛藤はおくびにも出さなかった著者の仕事ぶりは、以下の書評に活写されている。

産経ニュース 書評
http://sankei.jp.msn.com/culture/books/081019/bks0810190938009-n1.htm

日経の敏腕スクープ記者で、自社の社長スキャンダルの内部告発者、といえば、筋金入りのジャーナリスト、あるいは信念の正義派というイメージを抱くが、本人の語るところによれば、「でもしかジャーナリスト」として日経に入社し、「ジャーナリズムを標榜する会社の禄を食む以上、ジャーナリストじゃなくては、まずいんじゃないだろうか」と思い出すのはずっと後年、スクープ記者として名を馳せてから。また、新聞記者を辞めたことも、「敵前逃亡した」と総括している。つまり、ジャーナリストになれなかった(と思っている)ジャーナリストのジャーナリスト論でもある。

(敬称略)


コメント
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