昔、司法記者20年という人と知り合ったことがある。警察や検察取材なら、「あの人」と一目置かれていた。彼が笑いながら、私にこういった。「僕、検事の名刺を何枚持っていると思います?」。当ててみろ、というわけだ。こういう質問の場合、その答えは、極端に多いか、少ないかに決まっている。何百枚、何千枚なら、単純な自慢になるから、たぶん、「極端に多い」はあり得ない。
「極端に少ない」ほうだろうと読んだが、「極端に少ない」名刺の数の見当がつかない。「まさか、一桁?」。司法記者20年氏は、背広の内ポケットから名刺入れをとりだし、トランプのように名刺を扇形に広げて見せてくれた。名前は読み取れないが、肩書きは読める。「たった4枚?」。ニヤリとして彼は頷き、すぐに名刺入れを懐にしまった。20年間、毎日のように検察庁に顔を出して、20年間で4人しか名刺をくれないほど、取材が難しいところなのだという自慢である。
「4枚は、多いほうですか?」「少ないほうではないですね」と、彼は苦い顔をした。名刺さえ渡さない人間が、取材に応じるわけがない。口さえ利いてくれないのだろう。リークというのは、職務上知りえた極秘情報を漏らすことだから、検事のリークなどあり得ないわけだ。検事に比べれば、警察はかなり喋ってくれる。それでも、捜査情報を漏らすなんてことは、懲戒免職ものの「不正」である。
今回の「小沢事件」について、検察のリークによって報道がつくられていると問題になっているが、検事が取り調べ内容や供述内容をマスコミに漏らすことは、直ちに守秘義務違反になるのだから、とても信じられない。検事以外に、取り調べ内容や供述内容を知りうる立場にあるのは、逮捕された石川議員や小沢秘書たちの弁護士だが、弁護すべき被疑者に不利なリークをするとは、これもあり得ない。
だとすれば、いったい誰がリークをしたか? それを知っているのは、リークした本人と、リークされたマスコミの記者たちだけである。中井国家公安委員長や原口総務大臣まで、検察のリークを問題にし始めているのに、取材した記者やメディアが、「検察のリークなどではなく、独自の取材源から得た確度の高い情報である」とは、誰もどこも言わないのも、不思議なことだ。
報道の自由によって、情報源の秘匿は担保されているから、そういったとしても、誰にも、「どこの誰からの話だ」と聞かれる恐れはない。たとえ、聞かれたとしても、「答える必要はない」と突っぱねることができる。しかし、どの記者も、メディアもそうはいわない。そもそも、一人二人の記者に囁くからリークといえるのであり、記者全員が知っているのはリークとはいわない。
もうひとつ考えられるのは、検察のリークを偽装した、偽情報に踊らされているという見方である。マスコミ記者とは、「こんにちは」の挨拶さえかわさない検事の鉄壁の沈黙を考えると頷きたくなるが、全マスコミが騙されているということは、これもあり得ない。しかし、取り調べ内容や供述内容が連日のように、紙面や画面を賑わしているという、あり得ない事実がある。
もうひとつ、これだけはあり得ないという可能性があるが、いくらなんでも、それはあり得ないだろう。民主党に政権が交代してから、事業仕分けや普天間問題、亀井「徳政令」、最近では日本航空の事実上の倒産など、自民党政権ならあり得ないことが起きたが、鳩山民主党があり得ないことをしたおかげで、そんなあり得ない状況を招いたとしたら、自業自得である。まさか、記者会見の席で、検察上層部が発表したなど、絶対に、あり得ないことである。
さて、正解は、真相は、どれだろうか。あるいは、どれも「あり得る」とする複合なのか。それとも、まったく違う「あり得ない」ことがあるのか。私も20年間生きてきて、いまほど政治が面白かったことはございません(なぜか、村西とおる口調)
(敬称略)
「極端に少ない」ほうだろうと読んだが、「極端に少ない」名刺の数の見当がつかない。「まさか、一桁?」。司法記者20年氏は、背広の内ポケットから名刺入れをとりだし、トランプのように名刺を扇形に広げて見せてくれた。名前は読み取れないが、肩書きは読める。「たった4枚?」。ニヤリとして彼は頷き、すぐに名刺入れを懐にしまった。20年間、毎日のように検察庁に顔を出して、20年間で4人しか名刺をくれないほど、取材が難しいところなのだという自慢である。
「4枚は、多いほうですか?」「少ないほうではないですね」と、彼は苦い顔をした。名刺さえ渡さない人間が、取材に応じるわけがない。口さえ利いてくれないのだろう。リークというのは、職務上知りえた極秘情報を漏らすことだから、検事のリークなどあり得ないわけだ。検事に比べれば、警察はかなり喋ってくれる。それでも、捜査情報を漏らすなんてことは、懲戒免職ものの「不正」である。
今回の「小沢事件」について、検察のリークによって報道がつくられていると問題になっているが、検事が取り調べ内容や供述内容をマスコミに漏らすことは、直ちに守秘義務違反になるのだから、とても信じられない。検事以外に、取り調べ内容や供述内容を知りうる立場にあるのは、逮捕された石川議員や小沢秘書たちの弁護士だが、弁護すべき被疑者に不利なリークをするとは、これもあり得ない。
だとすれば、いったい誰がリークをしたか? それを知っているのは、リークした本人と、リークされたマスコミの記者たちだけである。中井国家公安委員長や原口総務大臣まで、検察のリークを問題にし始めているのに、取材した記者やメディアが、「検察のリークなどではなく、独自の取材源から得た確度の高い情報である」とは、誰もどこも言わないのも、不思議なことだ。
報道の自由によって、情報源の秘匿は担保されているから、そういったとしても、誰にも、「どこの誰からの話だ」と聞かれる恐れはない。たとえ、聞かれたとしても、「答える必要はない」と突っぱねることができる。しかし、どの記者も、メディアもそうはいわない。そもそも、一人二人の記者に囁くからリークといえるのであり、記者全員が知っているのはリークとはいわない。
もうひとつ考えられるのは、検察のリークを偽装した、偽情報に踊らされているという見方である。マスコミ記者とは、「こんにちは」の挨拶さえかわさない検事の鉄壁の沈黙を考えると頷きたくなるが、全マスコミが騙されているということは、これもあり得ない。しかし、取り調べ内容や供述内容が連日のように、紙面や画面を賑わしているという、あり得ない事実がある。
もうひとつ、これだけはあり得ないという可能性があるが、いくらなんでも、それはあり得ないだろう。民主党に政権が交代してから、事業仕分けや普天間問題、亀井「徳政令」、最近では日本航空の事実上の倒産など、自民党政権ならあり得ないことが起きたが、鳩山民主党があり得ないことをしたおかげで、そんなあり得ない状況を招いたとしたら、自業自得である。まさか、記者会見の席で、検察上層部が発表したなど、絶対に、あり得ないことである。
さて、正解は、真相は、どれだろうか。あるいは、どれも「あり得る」とする複合なのか。それとも、まったく違う「あり得ない」ことがあるのか。私も20年間生きてきて、いまほど政治が面白かったことはございません(なぜか、村西とおる口調)
(敬称略)