コタツ評論

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なぜ、この時期に、このスクープ?

2010-10-05 02:59:00 | ノンジャンル
政府、60年代に核保有を検討 西独と秘密協議
出席者明かす 前原外相「調査する」

2010/10/4 1:45

先日のNHK「スクープ・ドキュメンタリ」は、本当にスクープだった。1969年、佐藤栄作首相時代に、政府部内でひそかに核保有を検討していたというもの。驚いたの第一は、日本の外務省官僚が西ドイツの外務官僚に呼びかけ、日独で核開発してアメリカに対抗しようという秘密会議を持っていたこと。出席した西ドイツの元官僚が、「日本側の考えを聞いて、恐ろしくてその夜は眠れなかった」と語っていたのが印象的だった。

アジア初の核実験を成功させた中国やインドなどの核開発に対する危機感が背景にあったようだが、佐藤首相がノーベル平和賞を受賞する理由となった非核三原則の国会決議前、核拡散防止条約(NPT)発効の前という時期である。東西冷戦のさなか、東西ドイツは米ソの核ミサイルを配備して対峙していた。「西ドイツには、独自の核開発をする決定権がない」と西ドイツ側がしり込みした結果に終わったという。

驚いたの第二は、その後、日本は国連で発議された500余の核軍縮・核実験禁止について、アメリカの意向を汲んで、その動議の過半に反対に回り続けたこと。「核軍縮・核実験禁止について、世界の中でも率先して賛成すべき国は日本しかない。本当に、日本には、がっかりさせられた」と当時から活動している西ドイツの反核政治家はコメントしていた。いずれも、まったく知らなかった。狭い日本に少なからぬ原子力発電所があるのは、いざというときに核兵器開発に転用するためだとは、さすがに知っていたが。

よく、「反米とか、独立とか、勇ましいことを言うが、じゃ、アメリカの核の傘を出て、日本の核武装まで視野に入れているのか」という人がいる。「じゃ、君は核武装すべきだというのか」と聞けば、「もちろん!」という答えが用意されているわけだ。勇ましいのはどちらかね、といいたい脅かしなのだが、こういう日本人でありながら日本人を脅かすために核武装を口にする人と、当時の外務官僚はまったく違う人だろう。だから、言葉は人に付いてくるものなのだ。その逆はありえない。

日本側の外務官僚の一人として日独秘密会議に出席したのは、現在も国際問題評論家としてTVなどにもよく登場する岡崎久彦元駐タイ大使らしいが、昔の官僚や政治家は偉かったなどといいたいのでは、もちろんない。現在の核武装論者と当時の人たちとの大きな違いは、彼らが戦争経験者であることだろう。「原爆許すまじ」と何万回唱えようと、いったん開発された兵器は、必ず使われる。そう考えるリアリストだった。

いま、核武装を口にする人の多くは、核兵器は使われっこない、日本が核武装しっこない、とたかをくくった上で、つまり核戦争は起きない、通常戦争に日本が巻き込まれることもない、という夢想的な現実を前提としているのである。いや、もっと率直にいえば、実は日本も眼中にはなく、自分は安全無キズだと思いこんでいるのだろう。憲法9条があるから、日本は戦争に巻き込まれることはない、と思いこもうとしている護憲派の夢想的な現実とほとんど選ぶところがない。

どんな夢想を抱こうが、その人の勝手であるが、そんな手前勝手な夢想を根拠に、核武装を口にして脅かそうという子ども相手に、本気で怒ってしまった今日この頃。だって、子どもじゃなくて,50歳過ぎのおっさんだったんだもの、このバガヤロ様は(いがらしみきお、どうしてるかな?)。