ジム・キャリーとユアン・マクレガーが素晴らしい映画をつくりました。「フィリップ、きみを愛してる!」。この映画を紹介する映画ブログの多くが、「ブラボー!」と快哉を上げているのも無理はありません。
原題は、「I love you Phillip Morris」。IQ169という天才詐欺師スティーブン・ラッセルが、その恋人フィリップ・モリスに逢うために脱獄を繰り返す話しです。これに比べれば、S・キング作品の映画化としては珍しい上出来と好評の「ショーシャンクの空に」など小粒に思え、これに比べれば、実際の詐欺事件を映画化した、スピルバーグ監督の「キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン」の詐欺師など、小物に思えます。
冒頭のタイトルロールには、「ほんとうの物語である」と出てきますが、「ガープの世界」のようにスティーブンのへんてこな生い立ちが滑稽に語られ、服役中に一目惚れした青年の名前が、タバコのブランド名として有名なフィリップ・モリスでは、とても真に受けられません。
スティーブンの詐欺の数々も、スーパーマーケットの床にサラダ油をこぼしておいて滑って怪我をしたと補償金を騙し取るセコイ手口から、大企業の財務担当重役に転職して巨額の横領にいそしむまで変幻自在、数え切れぬほどの脱獄も手を変え品を変え、しかしけっして人を傷つけない騙しのアイディアのオンパレード。これに比べれば、P・ニューマンとR・レッドフォードのスティングなど、水増しと思えるほどです。
例によってジム・キャリーのハイテンション大車輪の活躍、かと思えば、その動機がすべてフイリップとの純愛に賭けたもので、露骨なゲイセックスはハリウッドにしては大異色にしても、やっぱり「愛こそすべて」と涙する納得のエンデイング、かと思えば、大どんでん返しの「高笑い」のハッピーエンド、かと思えば、やはりそうはうまくいかず勧善懲悪で振り出しの刑務所に戻る、実によくできた脚本、かと思えば……。
なんとなんと、実在の実名の実話でした。スティーブン・ラッセルは、脱獄を繰り返したために、現在、懲役167年23時間監視の服役中。一足先に刑期を終えたフィリップ・モリスと文通しているそうです。そして、ハリウッド映画ではなく、「レオン」の監督というより、プロデューサーとして大物になったリュック・ベンソン製作のフランス映画でした。「ブロークバック・マウンテン」の貧しく美しい美青年愛までならともかく、ホモの脱獄映画では、とてもハリウッドでは受け入れられない企画でしょう。
観終わってから実話だと知ったわけで、そんな背景を知らずとも、映画として愉快無比です。とはいえ、実話と知れば、「事実は小説より奇なり」という月並みな言葉の真実を味わえます。異性であれ、同性であれ、愛し愛されること以上の人生の目的はない。嘘つきスティーブンの八面六臂によって、ほんとうにそんな人生があるんだと驚きます。ジム・キャリーの七変化の演技によって、ほんとうに天才がいるもんだとやはり驚きます。
(敬称略)