松たか子主演で映画になっているんだよなあ。もうすぐ、DVDレンタルになるかなあ。楽しみだなあ。しかし、どういう構成になるかな、難しいよな、忠実な映像化は。章立てを幕に置き換えればいいのだから、舞台化なら想像がつくが。それより、この救いのない鬼心を松たか子で演れるのかな。松たか子の冷徹な狂気。観たいな。近頃出色の『告白』(湊かなえ 双葉社)のことです。どんでん返しが命の小説なので、ストーリーをばらさないように注意しますが、未読の方はこの先を読まないよう願います。
いくつか、気になったところがあります。最大の疑問は、なぜ電圧が人を殺せぬほど低かったのか? 加害者には、殺意に見合う電圧の調整が当然できたはずなのに、故意とも失敗ともつかず、電圧が低かった理由が最後まで述べられない。また、感電によって気絶して倒れたのだから、当然、頭部にコブなど外傷が残るはず。検死でも発見されず、母親も気づかず、あるべき外傷について、まったく記述がない。
理系少年の読書記憶として、理系研究者だった母の書棚にあった、トルストイやドストエフスキーを読んだとあるが、ここは理系の名著がふさわしいのではないか。たとえば、『世界がわかる理系の名著 』(文春新書)で紹介されている、ファーブル『昆虫記』、ワトソン『二重らせん』、カーソン『沈黙の春』、ガリレオ『星界の報告』、ニュートン『プリンキピア』、アインシュタイン『相対性理論』等々。
あきらかに、神戸市児童殺傷事件や光市母子殺人事件を背景に、加害者の「罪と罰」を問うことが重要なモチーフとなっている。しかし、殺人を許せぬ者が死刑という殺人を望むという矛盾を指摘しておきながら、死刑以上の復讐を果たすことへの考察が一言もなされない。著者はシナリオライター出身らしいが、安手のTVドラマのように論議がお手軽な感がする。
以上、もっと練り上げてくれていたらと、過不足を指摘したいところが少なくない、にもかかわらず、これはまぎれもない傑作です。終わらない物語として見事に完結させた。もっとも正気に思えた人間が、もっとも狂っていた衝撃のラスト。ちょっとした思い違いが、憎悪を育み、狂気を呼び寄せ、偶然のように殺意にまで高まる。その憎悪と殺意が波紋のように拡がり、その黒い水に濡れた靴先に視線を落としているような気にさせます。
(敬称略)