コタツ評論

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月夜見

2014-10-10 22:44:00 | 詩文

奥多摩周遊道路の随一の絶景、月夜見第一駐車場からは、眼下に奥多摩湖、旧青梅街道、遠くに雲取山など奥秩父の山々が眺望できる。月夜見(つきよみ)とはいえ、夜間には周遊道路間が閉鎖されるため、クマシカサルたち以外に見ることはない。

月の佳い晩が続いています。でも、「中秋の名月」って9月でした。もう過ぎていたんですね。

名月や池をめぐりて夜もすがら (芭蕉)

名月を詠んだ代表的な名句とされています。このとき、芭蕉43歳の男盛り。じつは恋しておりました。それで名月も池も眼に入らず、足下だけを見つめ、女のことを考えながら、うろうろと一晩中歩き続けてしまったわけです。好きな女について考えたといっても、そう真面目なものではありません。ほとんど妄想三昧でしょう。なかにはこんなのもあったのではないかと後年の詩人は書いています。

ポッカリ月が出ましたら、
舟を浮べて出掛けませう。
波はヒタヒタ打つでせう、
風も少しはあるでせう。

沖に出たらば暗いでせう、
櫂(かい)から滴垂(したた)る水の音は
昵懇(ちか)しいものに聞こえませう、
―あなたの言葉の杜切(とぎ)れ間を。

月は聴き耳立てるでせう、
すこしは降りても来るでせう、
われら接唇(くちづけ)する時に
月は頭上にあるでせう。

あなたはなほも、語るでせう、
よしないことや拗言(すねごと)や、
洩らさず私は聴くでせう、
―けれど漕ぐ手はやめないで。

ポッカリ月が出ましたら、
舟を浮べて出掛けませう、
波はヒタヒタ打つでせう、
風も少しはあるでせう。

(湖上 - 中原中也)


Myaskovsky's Cello sonata No.2 Op.81 - Mstislav Rostropovich - First movement


(敬称略)