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日本野鳥の怪名

2021-03-05 19:37:00 | ノンジャンル
駒鳥の 声ころびけり 岩の上 /園女

コマドリの学名はエリスカス・アカヒゲ( Erithcus akahige) 。赤髭=akahige という日本語が入っている。由来はじっさいに見てみればすぐにわかる。昼酒を飲まされたように顔が真っ赤なのだ。

日本人発見者が命名権を得て、ちょうど黒澤明の時代劇映画「赤ひげ」が公開された1965年頃の発見だった?

もちろん、コマドリがそんな近年の発見なわけはない。伊勢の園女が上の句を詠んだのは元禄3年(1690年)6月と記録されている。

akahige を例外に、鳥類の学名は難解なラテン語で統一されている。一種一名なのでラテン語学名さえ示せれば、世界中どこでもそれと違わぬ鳥について語り合うことができるわけだ。

パッセル・モンタヌスーPasser montanusとギリシャの哲学者のような立派な名前の持ち主は、スズメである。スズメ自身がそう名乗ったわけではないが。

ちなみに、もっとも有名なコマドリ名は、英語名の robin だろう。あのバットマンの相棒の身軽で可愛いロビン少年だ。

さて、akahige 。欧米の権威ある鳥類学者がコマドリを登録したのが、映画「赤ひげ」が公開された1965年頃で、ベネチア映画祭で三船敏郎が主演男優賞を受賞したクロサワ映画を由来に、西洋人には珍しくない赤髭をコマドリの学名としたのではないか。

だとすれば、けっこう軽薄である。全然、違っているかもしれないが。

日本の野鳥(春・夏編)鳴き声 小鳥 癒し


この動画には野鳥の姿と鳴き声にくわえ、コマドリー駒鳥ーErithcus akahige と名前情報が添えられている。

日本名の多くは、キマユホオジロー黄眉頬白、キガシラセキレイー黄頭鶺鴒、ズグロチャキンチョウー頭黒茶金鳥、コホオアカー小頬赤、マミジロー眉白など、その毛色や模様などから名づけられている。

ラテン語学名以上に難読の鳥名も多い。画数がやたら多いので、たいていの人は書けないだろうし、書き写すことさえ難しいのではないか。ブログ記事には反映されないのではと心配になる。

黄鶲ーキビタキ、鷦鷯ーミソサザイ、鶫ーツグミ、小瑠璃ーコルリなどはほっとするくらいだ。嘴から尾まで真っ赤なアカショウビンー赤翡翠などは、(あかひすい)以外には読めまい。

アカショウビンの Halcyon coromanda という学名の Halcyon /ハルシオンは、カワセミー翡翠! という意味より、現代では、ベンゾジアゼピン系睡眠導入剤ハルシオンとして、密売事件などで知られている。

誰がいつどんなときにどうして、こんな命名をしたのだろうか。

十一ージュウイチなんて3画の鳥名もある。仙台虫喰ーセンダイムシクイなんて、名は体を表すのではなかったのかと、仙台虫喰が怒り出しそうなのもある。

カッコウー郭公、ブッポウソウー仏法僧くらいは当て字の想像はつくだろうが、コノハズクー木葉木菟、アカゲラー赤啄木鳥あたりの鳥名は知っていても、漢字は思い浮かばないのではないか。

渋い名前もある。ヤブサメー藪雨はやはり雨の日の景色に溶け込むような、地味な灰色の鳥だ。ノジコー野路子は、見たことはもちろん名前さえ聞いたことがないのに、ピンときた。

たぶん、歌手の野路由紀子という芸名はノジコから取ったのだろう。1970年頃までは、福井の魚屋に生まれた少女歌手に、野の鳥の野路子を重ねる人がいたわけだ。

音だけを拾って字を捨てた鳥の名前たち。草花も魚も虫の名前も、人の名前以外はすべてそうだ。命名に伴う人間の恣意/思惟を捨てた、ということでもある。

(止め)

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