さて、「Sexy Beat」だが、なんとイギリス映画である。
おもな場面は日射しの強いスペインの海岸の別荘。主演がレイ・ウインストン、共演がベン・キングスレイ。レイはイギリス映画には欠かせない名脇役、ベンは国際的な名優といってよい位置だろう。この二人の映画が「セクシービート」。金髪ビキニ娘が意味もなくうろうろ、ドンチャカ音楽に尻振って踊る場面を予想したが、そんなSexyやBeatはどこにもなかった。どうしてこのタイトルなのか、いまだにわからない。
スペインで悠々自適の隠退生活を送るギャングに、ロンドンから悪事を持ちかけに旧知のギャングが訪ねてくる。嫌がる引退ギャングのガル(レイ・ウインストン)、強引な悪事持ちかけギャングがドン・ローガン(ベン・キングスレイ)。この二人の映画を観てきた人なら、配役が逆だろうと思うはずだ。粗暴で相手を震え上がらせる役柄ばかり演じてきた傲岸な面構えの大男のレイこそ恐喝男向きだし、由緒正しいイングリッシュを駆使するインテリ役が相場のベンなら怯える男がふさわしい。ところがこの映画のベン・キングスレイ、ちょっと見にはわからない。
ガンジーを演じたインド系の黒い髪と瞳を染め変えた扮装もさることながら、英語らしいとわかるくらいの不明瞭な発音で口汚く罵り怒鳴る口調が、まったく違うのだ。ロイヤル・シェークスピア・カンパニー出身のシェークスピア役者が、ロンドンの下町の下層の下品な英語をまくしたてる。適切な例が浮かばないが、強いていえば、日本ならやんごとなき皇族の口から、河内弁が飛び出すようなものか。怒鳴り声の迫力以上に、ちょっと日本語の語彙には見当たらないと思えるほど罵倒が辛辣をきわめる。気の弱い人なら、卒倒しそうなくらいに凄まじい。
一流の金庫破りとしてギャング仲間から一目置かれていたガルも、ドンの無理強いをはねのけるどころか、自分だけでなく傍らの愛妻や親友を侮辱され、いきなり殴られ蹴られても、機嫌を損ねまいとおどおどしている。しかし、この怖ろしいドン・ローガンさえ、さらに大物のテディ・ベス(イアン・マクシェーン)の使いにしか過ぎないのだ。眩く暑いスペインで天国を楽しんでいたのに、ドンの虚ろな眼光は冷たく暗いロンドンを覗かせる。追いつめられたガルは危機を脱せるのか?
という暗黒街と犯罪計画、犯罪者をめぐる心理サスペンスなのですが、ひじょうにホモセクシャルな映画でもあります。ホモセクシャルといっても、「モーリス」のような上流階級の美少年や美声年が恋をするような耽美なゲイではありません。「カマ野郎!」という罵り言葉が日常であるような、血と汗と肉にまみれ、骨がきしむ暴力と残酷な死をやりとりする男たちの間の、ホモセクシャルとしか呼びようのない切迫した感情が、この映画の全編を流れています。そうしたホモセクシャルの典型が、ドン・ローガンに扮したベン・キングスレイなのです。
つまり、この映画は、足を洗った金庫破りが、犯罪組織によって犯罪に引き戻されようとするが抵抗するという映画ではない。少なくともガルが忌避したのは、犯罪組織という機能集団が結ぶホモセクシャルな共同体のメンバーに戻ることなのです。その男たちの世界では、sexyとは陰惨な振る舞いであり、不吉なbeatに煽られるものなのです(無理矢理かな)。CATVやスカパーを視聴しているなら、繰り返し放映されているはず。観て損はありません。
(敬称略)
おもな場面は日射しの強いスペインの海岸の別荘。主演がレイ・ウインストン、共演がベン・キングスレイ。レイはイギリス映画には欠かせない名脇役、ベンは国際的な名優といってよい位置だろう。この二人の映画が「セクシービート」。金髪ビキニ娘が意味もなくうろうろ、ドンチャカ音楽に尻振って踊る場面を予想したが、そんなSexyやBeatはどこにもなかった。どうしてこのタイトルなのか、いまだにわからない。
スペインで悠々自適の隠退生活を送るギャングに、ロンドンから悪事を持ちかけに旧知のギャングが訪ねてくる。嫌がる引退ギャングのガル(レイ・ウインストン)、強引な悪事持ちかけギャングがドン・ローガン(ベン・キングスレイ)。この二人の映画を観てきた人なら、配役が逆だろうと思うはずだ。粗暴で相手を震え上がらせる役柄ばかり演じてきた傲岸な面構えの大男のレイこそ恐喝男向きだし、由緒正しいイングリッシュを駆使するインテリ役が相場のベンなら怯える男がふさわしい。ところがこの映画のベン・キングスレイ、ちょっと見にはわからない。
ガンジーを演じたインド系の黒い髪と瞳を染め変えた扮装もさることながら、英語らしいとわかるくらいの不明瞭な発音で口汚く罵り怒鳴る口調が、まったく違うのだ。ロイヤル・シェークスピア・カンパニー出身のシェークスピア役者が、ロンドンの下町の下層の下品な英語をまくしたてる。適切な例が浮かばないが、強いていえば、日本ならやんごとなき皇族の口から、河内弁が飛び出すようなものか。怒鳴り声の迫力以上に、ちょっと日本語の語彙には見当たらないと思えるほど罵倒が辛辣をきわめる。気の弱い人なら、卒倒しそうなくらいに凄まじい。
一流の金庫破りとしてギャング仲間から一目置かれていたガルも、ドンの無理強いをはねのけるどころか、自分だけでなく傍らの愛妻や親友を侮辱され、いきなり殴られ蹴られても、機嫌を損ねまいとおどおどしている。しかし、この怖ろしいドン・ローガンさえ、さらに大物のテディ・ベス(イアン・マクシェーン)の使いにしか過ぎないのだ。眩く暑いスペインで天国を楽しんでいたのに、ドンの虚ろな眼光は冷たく暗いロンドンを覗かせる。追いつめられたガルは危機を脱せるのか?
という暗黒街と犯罪計画、犯罪者をめぐる心理サスペンスなのですが、ひじょうにホモセクシャルな映画でもあります。ホモセクシャルといっても、「モーリス」のような上流階級の美少年や美声年が恋をするような耽美なゲイではありません。「カマ野郎!」という罵り言葉が日常であるような、血と汗と肉にまみれ、骨がきしむ暴力と残酷な死をやりとりする男たちの間の、ホモセクシャルとしか呼びようのない切迫した感情が、この映画の全編を流れています。そうしたホモセクシャルの典型が、ドン・ローガンに扮したベン・キングスレイなのです。
つまり、この映画は、足を洗った金庫破りが、犯罪組織によって犯罪に引き戻されようとするが抵抗するという映画ではない。少なくともガルが忌避したのは、犯罪組織という機能集団が結ぶホモセクシャルな共同体のメンバーに戻ることなのです。その男たちの世界では、sexyとは陰惨な振る舞いであり、不吉なbeatに煽られるものなのです(無理矢理かな)。CATVやスカパーを視聴しているなら、繰り返し放映されているはず。観て損はありません。
(敬称略)
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