コフィン・ダンサー(ジェフリー・ディーヴァー 文芸春秋)
人気も評価も高いジェフリー・ディーヴァー。寝たきり科学捜査官リンカーン・ライムが最先端技術を駆使した検査機器を武器に、たとえば微量なガラス粉の断面の形状から、犯人の行動やその心理までピタリと推理する。たぶん膨大な取材に基づく、圧倒的なデティールを交錯させた謎解きと、二転三転どころか五回転くらいの息もつかせぬどんでん返し。電車の行き帰りに読んでしまったほど、大変おもしろいのだが、犯人から渡された指紋が付いているかもしれないジョーディの携帯電話をなぜ調べなかったか、標的に先回りされているのに事務所の電話盗聴をなぜ気づかなかったか、基本的な捜査の怠慢が不思議。
タオ 老子(加島 祥造 ちくま文庫)
これが道(タオ)だと口で言ったからって
それは本当の道(タオ)じゃないんだ。
これが道(タオ)だと名づけたって
それは本物の道(タオ)じゃないんだ。
なぜってそれを道(タオ)だと言ったり
名づけたりするずっと以前から
名の無い道(タオ)の領域が
はるかに広がっていたんだ。
という老子の現代語訳。
美しき日本の残像(アレックス・カー 新潮社)
外人の日本印象記。1952年生まれで1964年初来日というから、「印象記」というには失礼な、年季が入った日本観察者だ。エール大学日本学部卒業、ローズ奨学生としてオックスフォード大学で中国語を学ぶ。京都亀岡天満宮に庵を結び、書画骨董と歌舞伎を愛す。著者がハンサムなのが気に入った。来日した大学生の頃の野暮ったいTシャツにジーンズ姿が、いまでは洗練されてシックな中年男になっている。未読。
ホモセクシャルの世界史(海野 弘 文春文庫)
裏表紙の紹介文は以下の通り
世界史の中で封印され続けてきたタブー、「同性愛」。古代ギリシャから、ルネサンスの禁欲、<世紀末>の愛の迷宮、帝国主義と2つの世界大戦、そして、性意識の増大した20世紀に花開いた美と多様な価値観。その裏側には、知られざる壮大なホモセクシャル・ネットワークがあった。今、明かされる、前人未到の裏世界史。
著者は、『陰謀の世界史』『スパイの世界史』をものしているが、際物ではなくアカデミックな文献資料を渉猟したホモセクシャル通史。
といっても、
十九世紀の性科学(セクソロジー)の誕生によって、<同性愛>というレッテルがあらわれた。性を分類したので、<同性愛><異性愛>という区別も登場したのである。(中略)
皮肉なことに、性科学が名前をつけ、分類したことで、同性愛はアイデンティティの問題となり、性によって人格が支配され、差別され、牢獄に入れられることになった。(プロローグ 19頁)
ということなので、十九世紀以前は、ホモセクシャルの前史となるか。昔は両性的で男女の区別もあいまい、自由でおおらかな性意識だったが、近代化による学問と知識の権力化によって、嫌悪と差別につながっていった、という。正常が定められ、そこからはみ出すものを異常としたのではなく、分類整理されることで異常が決められたというわけだ。このあたり、フーコーが「監獄」や「狂人」について書いていたっけ。
また、キリスト教の宗教的な抑圧がホモフォビア(ホモ恐怖症)を助長はしたが、その原因ではないとする。ほんとうに歴史上の著名人の誰も彼もがみなホモばかり。つい最近までホモフォビア政策を行っていたのは、先進民主主義国だったはずの英仏だったなど、実におもしろい。
どんな視点からでも、通史を読むのはおもしろいものだが、著者の前著である「陰謀」や「スパイ」のネットワークとホモセクショナル・ネットワークを強引に結びつけようとするきらいがあるように思う。まだ、途中のオスカー・ワイルド事件の箇所。
イスラーム文化-その根底のあるもの (井筒 俊彦 岩波文庫)
名著の誉れ高い講演記録。岩波文庫らしい折り目正しく格調高い筆致。ムハンマドは砂漠の民出身ではなく、都市の商人で砂漠の民ベドウィンを嫌悪していたなど、こちらの予断や臆断を修正してくれる。たしか大川周明の「イスラム論」も100円書棚で見かけたので、読後挑戦してみたい。
ブラック・スワン(クリストファー・ホープ 福武書店)
なんだかよくわからないまま、100円だったのでつい。アフリカの少年の話らしい。子どもと動物が主要な役割を演じる本や映画は避けている。つまり子どもと動物に演じさせるという作為性が鼻につく場合が多く、それは、自分が子どもや動物であったことを、思い出せないからかもしれない。未読から積ん読、拾い読みまでいくには時間がかかりそう。
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