コタツ評論

あなたが観ない映画 あなたが読まない本 あなたが聴かない音楽 あなたの知らないダイアローグ

告白

2010-10-25 00:31:00 | ブックオフ本


松たか子主演で映画になっているんだよなあ。もうすぐ、DVDレンタルになるかなあ。楽しみだなあ。しかし、どういう構成になるかな、難しいよな、忠実な映像化は。章立てを幕に置き換えればいいのだから、舞台化なら想像がつくが。それより、この救いのない鬼心を松たか子で演れるのかな。松たか子の冷徹な狂気。観たいな。近頃出色の『告白』(湊かなえ 双葉社)のことです。どんでん返しが命の小説なので、ストーリーをばらさないように注意しますが、未読の方はこの先を読まないよう願います。

いくつか、気になったところがあります。最大の疑問は、なぜ電圧が人を殺せぬほど低かったのか? 加害者には、殺意に見合う電圧の調整が当然できたはずなのに、故意とも失敗ともつかず、電圧が低かった理由が最後まで述べられない。また、感電によって気絶して倒れたのだから、当然、頭部にコブなど外傷が残るはず。検死でも発見されず、母親も気づかず、あるべき外傷について、まったく記述がない。

理系少年の読書記憶として、理系研究者だった母の書棚にあった、トルストイやドストエフスキーを読んだとあるが、ここは理系の名著がふさわしいのではないか。たとえば、『世界がわかる理系の名著 』(文春新書)で紹介されている、ファーブル『昆虫記』、ワトソン『二重らせん』、カーソン『沈黙の春』、ガリレオ『星界の報告』、ニュートン『プリンキピア』、アインシュタイン『相対性理論』等々。

あきらかに、神戸市児童殺傷事件や光市母子殺人事件を背景に、加害者の「罪と罰」を問うことが重要なモチーフとなっている。しかし、殺人を許せぬ者が死刑という殺人を望むという矛盾を指摘しておきながら、死刑以上の復讐を果たすことへの考察が一言もなされない。著者はシナリオライター出身らしいが、安手のTVドラマのように論議がお手軽な感がする。

以上、もっと練り上げてくれていたらと、過不足を指摘したいところが少なくない、にもかかわらず、これはまぎれもない傑作です。終わらない物語として見事に完結させた。もっとも正気に思えた人間が、もっとも狂っていた衝撃のラスト。ちょっとした思い違いが、憎悪を育み、狂気を呼び寄せ、偶然のように殺意にまで高まる。その憎悪と殺意が波紋のように拡がり、その黒い水に濡れた靴先に視線を落としているような気にさせます。

(敬称略)
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降参した歌 

2010-10-24 00:58:00 | 音楽
ベニー・ゴルソン(sax)とシダー・ウォルトン(piano)の「クリフォードの思い出」です。NYで沖仲士をしていた頃を思い出すなあ(ウソ)。NYで沖仲士をしないかと声かけられた頃を思い出すなあ(ホント)。クリフォードとは、クリフォード・ブラウンのことです。

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フィリップ、きみを愛してる!

2010-10-22 00:50:00 | レンタルDVD映画


ジム・キャリーとユアン・マクレガーが素晴らしい映画をつくりました。「フィリップ、きみを愛してる!」。この映画を紹介する映画ブログの多くが、「ブラボー!」と快哉を上げているのも無理はありません。

原題は、「I love you Phillip Morris」。IQ169という天才詐欺師スティーブン・ラッセルが、その恋人フィリップ・モリスに逢うために脱獄を繰り返す話しです。これに比べれば、S・キング作品の映画化としては珍しい上出来と好評の「ショーシャンクの空に」など小粒に思え、これに比べれば、実際の詐欺事件を映画化した、スピルバーグ監督の「キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン」の詐欺師など、小物に思えます。

冒頭のタイトルロールには、「ほんとうの物語である」と出てきますが、「ガープの世界」のようにスティーブンのへんてこな生い立ちが滑稽に語られ、服役中に一目惚れした青年の名前が、タバコのブランド名として有名なフィリップ・モリスでは、とても真に受けられません。

スティーブンの詐欺の数々も、スーパーマーケットの床にサラダ油をこぼしておいて滑って怪我をしたと補償金を騙し取るセコイ手口から、大企業の財務担当重役に転職して巨額の横領にいそしむまで変幻自在、数え切れぬほどの脱獄も手を変え品を変え、しかしけっして人を傷つけない騙しのアイディアのオンパレード。これに比べれば、P・ニューマンとR・レッドフォードのスティングなど、水増しと思えるほどです。

例によってジム・キャリーのハイテンション大車輪の活躍、かと思えば、その動機がすべてフイリップとの純愛に賭けたもので、露骨なゲイセックスはハリウッドにしては大異色にしても、やっぱり「愛こそすべて」と涙する納得のエンデイング、かと思えば、大どんでん返しの「高笑い」のハッピーエンド、かと思えば、やはりそうはうまくいかず勧善懲悪で振り出しの刑務所に戻る、実によくできた脚本、かと思えば……。

なんとなんと、実在の実名の実話でした。スティーブン・ラッセルは、脱獄を繰り返したために、現在、懲役167年23時間監視の服役中。一足先に刑期を終えたフィリップ・モリスと文通しているそうです。そして、ハリウッド映画ではなく、「レオン」の監督というより、プロデューサーとして大物になったリュック・ベンソン製作のフランス映画でした。「ブロークバック・マウンテン」の貧しく美しい美青年愛までならともかく、ホモの脱獄映画では、とてもハリウッドでは受け入れられない企画でしょう。

観終わってから実話だと知ったわけで、そんな背景を知らずとも、映画として愉快無比です。とはいえ、実話と知れば、「事実は小説より奇なり」という月並みな言葉の真実を味わえます。異性であれ、同性であれ、愛し愛されること以上の人生の目的はない。嘘つきスティーブンの八面六臂によって、ほんとうにそんな人生があるんだと驚きます。ジム・キャリーの七変化の演技によって、ほんとうに天才がいるもんだとやはり驚きます。

(敬称略)
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降参した歌 n

2010-10-16 00:48:00 | 音楽
「かもめ食堂」や万城目学の世界と、どこか近い気がする。

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かもめ食堂

2010-10-14 01:24:00 | レンタルDVD映画



おれ:「かもめ食堂」を観た。

かれ:ハリウッドのアクション映画か、ホラー映画、イギリスの犯罪映画を好む君としては、邦画とは珍しいね。

おれ:レンタルDVDとはいえ、金払ってみるわけだから、「史上空前の製作費」でなくても、それなりに予算がかかった映画を優先するのは人情だろう。

かれ:世界市場を相手にする欧米の映画に比べると、低予算の日本映画は見劣りするな、たしかに。

おれ:セットとか衣装がちゃちだよな。もう、AVがラブホで撮影するのと見分けがつかないこともある。かと思うと、そんな家どこにあるんだと思うような、縁側にガラス戸の昭和初期みたいな家が、わざとらしく出てきたりして失笑することもある。

かれ:俳優は誰が出ているの

おれ:小林聡美、もたいまさこ、片桐はいり。
かれ:これまた、君らしくない。

おれ:うん、俳優としてもだが、女性としても誰一人興味がない。

かれ:ふーん、君は女優をまず女性として見るわけだ。それも自分の彼女あたりに置き換えて。

おれ:そうだよ、悪いかい。

かれ:まあ、いいけど。少なくともセクシーとはほど遠い面々だな。

おれ
:たしかにそうだが、小林聡美はだんだんキレイに見えてくるよ。もたいまさこ、片桐はいりが横にいるせいかもしれないが。

かれ:一言でいうと、どんな映画なの? 

おれ:女性映画だね。この3人が、フィンランドはヘルシンキで「かもめ食堂」という和食屋をやるというだけの話し。山なし落ちなし意味なしのやおい映画でもある。

かれ:よかった?

おれ:うん、わるくなかった。清澄なフィンランドの空気感に3人がなじんで、心地よい微風がそよいでいるようだった。東京の街やマンションが舞台だったら、この3人がちょっと妖精的に見えるなんて考えられないからな。

かれ:君らしくなく健全な映画を観たようだね。以前、ベルギーだかの「変態村」シリーズに感心していたのにな。

おれ:僕も意外だった。丁寧な言葉づかいで、いつも淡々としていて、食堂が舞台だから、美味しそうな料理が出てくる。といっても、肉じゃがや卵焼き、豚肉の生姜焼き、トンカツ、鳥の唐揚げ、おにぎりといった家庭料理。そして、シナモンロール。そう、お母さん映画でもあるな。

かれ:ますます君らしくない。君は、母物嫌いだったろ。

おれ:そう、母親みたいな女はイヤだからね。しかし、この映画に息子は出てこない。というか、男というのがほとんど出てこない。日本かぶれの少年が「かもめ食堂」のはじめての客となるが、彼もいわゆるオタクであって、ゲイとかと同じ位置づけだな。「かもめ食堂」の前にあった潰れたレストランの店主が入ってきて、美味しいコーヒーの入れ方を小林聡美に伝授するけど、ロマンスが生まれることはなく、二度目の出会いはドロボーに間違えられて消えていくだけ。どこまでも3人の日本女や夫に逃げられたフィンランド人の中年女の心の淡い交流が描かれるだけ。男と関係なく生きていく女たちの物語なんだよ。

かれ:しがらみのない異国で、気の合う友だちと男にわずらわされず、小さな店を切り回して、美味しいものをつくって食べる、平凡な女性の夢なんだろうな。

おれ:癒しの映画というわけだ。心地よいことだけを差し出した。

かれ:ふーん。

おれ:わかるよ、ちょっと反発したいよな。でもね、どのような意味でも、プロパガンダ色を排した、こんなストイックなくらい平明な映画というのも珍しいぜ。ネットをみれば、破壊と暴力と激情、それに冷笑に満ちて、うんざりさせられるばかりだ。のんびりゆっくりといえば、嘲笑されるだろうが、個人に帰ってみれば、そう珍しいありようでもないよな。そういう普通の人生を映画にできる日本映画界の立ち位置は、わるくない気がするんだ。少なくとも、フィンランドのような田舎国で、ありふれた日本女性のささやかな日常を映画にしようという作り手は、ハリウッド進出とか、カンヌ映画祭受賞を狙う映画づくりより、志しが高い気がする。

かれ:ははは、やっぱり志しは高くなくちゃダメなのか。

おれ:まあ、志しとか関係ない映画だろうな。そういう考え方の枠組みが終わった後に出てきた物語だから。いや、物語ともいえないな。何かを伝えるということは、あまりしてないからな。できるけれどやらない、そういう意味では贅沢な映画かもしれないな。ただな、もたいまさこが空港で紛失して戻ってきた、カバンの中味の意味がよくわからなかったな。彼女の狂気の一端を示したつもりだろうが、蛇足に思えた。そのくらいしか、首を捻るところはなかったよ、お勧めだね。

かれ:わかった。映画史的な位置づけというか、映画ジャンル分けに困っているようだね。

おれ:お勧めといえば、『鴨川ホルモー』に続いて読んだ、万城目学の『鹿男あをによし』が前作に勝るとも劣らない出来でね。今度は、奈良が「愛と精霊の家」になるんだ。グリコのポッキーが好きな奈良公園の鹿が重要な役割を果たすという、口あんぐりの展開。次回は、この小説の話しをしよう。

(敬称略)










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