コタツ評論

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陰翳礼賛

2014-01-04 01:02:00 | レンタルDVD映画
これは映画館で観るべき映画でした。光と影の奥行きが深いのです。



トニー・レオン、チャン・ツィイー、チェン・チェンの輪舞する影絵のような格闘シーンがすべてです。闘いの前後、静対しているときも、墨画です。トニー・レオンは剛直な太筆で、チャン・ツィイーは、極細の筆先で優美に一筆書きされます。

同じ動画のなかにいるのに、 棟方志功と藤田嗣治くらい輪郭線が違うのです。男が深い皺を刻む渋い笑みを湛え、女の柳眉を引いた瓜実顔が白く輝くのも、やはり陰翳のおかげです。凝った照明とカメラワークを駆使したウォン・カーウァイ監督の手柄ばかりではありません。

男優たちの悠揚迫らぬバリトンテノールもまた、映画館の重低音スピーカーで響くべきものでした。ならば、チャン・ツィイーのメリハリの効いた高い調子の台詞まわしも、さらに際だって耳に届いたことでしょう。

拳と蹴りが回り続けて止まらない万華鏡アクションに、呆けたように眼を奪われるばかり。リアリズムなんてどこ吹く風、様式美なんて上の空、映像美なんて頭でっかち。ただただ、男と女の色気を撮りたい。そういう率直な映画です。

出自は香港映画なのでしょうが、これこそ中国映画でしょう。日本と日本映画の影響が濃いからです。決戦の舞台を中国東北部(満州)としながら、そこには行き着かない。戦前戦中の舞台となる本土に比べて、戦後の舞台となる香港描写に生彩がない。拳法家とその弟子たちが一様に禁欲的に寡黙、などを指してのことです。

かつてハリウッドが、あるいはフランスが、イタリアが、これぞ映画という作品を次々に送り出していた時代がありました。もちろん、日本にもソ連にも短いながらそんな隆盛期がありました。それぞれがユニークな映画でした。たぶん、いまは、これからは、中国なのでしょう。そう認めざるを得ない映画です。

(敬称略)
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平成二十六年 正月

2014-01-01 15:22:00 | 音楽
新たな年を迎えました。皆様によい一年となりますように。

エレーヌグリモー - オオカミとの生活、2008


(敬称略)


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