ドラマのとびら

即興の劇や身体表現で学ぶ、教える、浮き沈みの日々とその後

「A子さんの決断」

2015-11-06 20:59:11 | 授業・教育
このプログラムは、ずっと以前、高山昇先生のワークショップに触発されて創ったものです。ずいぶん洗練されてきました。

応用ドラマ教育論では、毎回取り上げています。

「A子さん、35歳。大阪の中学の社会科教員。非常勤講師を何年もして苦労して30歳で正採用。大学の同級生のB男さんと結婚して、小学校1年生と3年生の子どもがいる。
保育所通いから解放されて、仕事に乗っている。

夫B男さんは中学校の理科の教員。お母さんは九州で一人暮らし。最近、病弱になっている。

ある日、B男さんから『自分の出身校の中学の先生から、理科の教員として来ないかと言われた。九州へ引っ越したい』と言われた。B男さんは九州の有名私学中・高等学校の出身。A子さんはどうするか」
この内容は、学生のアイデアを取り入れつつ、少しずつ変化するのですが。

先日の応用ドラマ教育論。この日の出席も2人。
「A子さんをやってくれる人」というと、男性のMが手を挙げてくれました。
「A子さんは、このことを誰に相談すると思いますか?」とMに聞くと、同僚で先輩のC子さんに相談するということになりました。

もうひとりの学生H(女性)がC子さんとなって、A子さんの相談にのりました。
「仕事を辞めたら、経済的に大変じゃないの?」
「B男さんだけ行ってもらったら?」と、C子さんは単身赴任を勧めています。

C子さんのHに「これをまた誰かに相談するとしたら?」と聞くと、後輩で知り合いの九州で教員をしているD男さんということになり、私がD男さんに。
D男さんは「こちらでは、長男が親の面倒をみるものだ」
「物価は安いし、仕事を辞めても何とかなると思うよ」とA子さんの気持ちなどお構いなしの返答。

そのあと、「もし自分がA子さんだったら」と話し合い。
Mは、「家族が一緒に暮らすことを大事にしたい」と、仕事を辞めてでもB男さんと九州へ行くことを選択。
「もし大阪にいるA子さんの親の面倒を見なければならなくなったら、どうする?」と聞くと、「そのときはまた考えるけれど、とりあえず今は元気なのでB男さんの親を優先する」そうです。
Hは、B男の単身赴任を選択。子どもと一緒にA子さんは大阪に残り働き続けます。
そうしながら、A子さんが九州へ転勤することや、B男さんとお母さんが一緒に大阪に来れないかを探ってみるそうです。

「実はA子さんが男で、B男さんが女だったとしたら、判断が変わるか」と訊ねたら、迷ったものの、ふたりとも判断は変わりませんでした。
Mは、「男が専業主夫をしても良いと思う」。
Hは、「自分の生き方は大事にしたい。しばらく離れていても家族は家族」
「子どもはお父さんと大阪に残るの?お母さんと九州に行くの?」と訊くと
「お父さんと大阪に残ったほうが、転校のストレスがなくて良いのでは」ということでした。

授業をふりかえって、
Mは、女性の役をやってみて「女性だったらどう思うかな?」と考えられた。
Hは、A子さんのことをただ読んだり聞いたりしただけでなく、C子さんとして話を聞くことで、考えが違ってきたように思ったそうです。

それぞれの経験や考えから、それぞれの決断が出てきます。
「人生には、決断の時がある。正解はないけれど、納得する選択を」
「男だから、女だからと決めつけないで考えてみよう」
という授業でした。

この授業をすると、学生は他のジェンダーの授業について話してくれることが多いです。
その授業で初めてジェンダーについて考えたという人が多いようです。
中には「ジェンダーという言葉を聞くと、男性が責められているようで嫌だ」という人もあれば、「あまり自分のこととして考えてこなかった」という人もあり。
ジェンダーを考えるには、ドラマの技法は適しているかもしれません。
コメント
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