「威厳ある形で人生を終えるには、こうするしかない。ごみ箱をあさるようにはなりたくない」
余りにも無防備だった年金生活者の死。厳しい財政緊縮策が続くギリシャで4日朝、通勤ラッ
シュの時間帯に悲劇は起きた。首都アテネの中心部にある国会議事堂前のシンタグマ広場。70
代の元薬剤師の男性が銃で頭部を撃ち抜き命を絶った。「未来のないこの国の若者たちはいつ
か武器を手に取り、国家の裏切り者をシンタグマ広場で吊るし上げにするだろう。1945年にイ
タリア人がムッソリーニを吊るしたように」。その後シンタグマ広場で激しい抗議活動が勃発。
事件のわずか数時間後、数百人の市民が広場に集結して抗議デモを展開。デモ隊は火炎瓶を治
安部隊に投げつけ、治安部隊が催涙ガスで応酬する事態となった。アテネ・ニュースによれば、
抗議活動はSNSなどを通じて組織された。参加者は「死に慣れてはだめだ」と書かれたスロ
ーガンを掲げて行進したと報じた(ニューズウィーク日本版 2012.4.4)。
それににてもクレジットデフォルトスワップ(CDS)とはなかなか巧く考えた債権取り立て方
法だ。サラ金の取立て業者と似つかぬ躰ではあるが、やっていることは同じ。「金返せ!」さ
もなければ「格付けを下げるぞ」と恫喝し、保険金をつり上げ、ギリシャ国債をてこに利ざや
を稼ぐという図式に世界中の衆目が集まる。元薬剤師が辿ってきた「ギリシャ事情」や「欧州
共同体事情」の解説はネット上で賑わっているので省略する。有り体に言えば、ソ連型社会主
義経済が破綻し、欧州連合・欧州共同体に乗り換えたものの自律的な経済成長を果たせぬまま、
米国発金融危機→欧州経済危機の大津波に飲み込まれてた犠牲者のひとりということになる。
この自らの死であがなう抗議に対し、わたし(たち)はどのように答えるのかが問われている。
だからこそ重い気分に支配されるのだ。
アップル製品の主力製造工場を運営する鴻海精密工業が、シャープの10%の株を取得し、筆頭
株主になった。鴻海精密工業は、1974年に台湾でテレビの部品をつくる小規模の企業として誕
生した。その後、パソコンや携帯電話などIT関連機器の組み立てを受託する業務分野に注力し、
それが徐々に成功を収めていく顧客選別の経営戦略があったといわれている→特定分野の1位、
あるいは2位を占める大手企業を顧客として選び、その大口顧客に対しては“献身的”と言わ
れつほどのロイヤリティを示す戦略だ。シャープは、液晶生産に関して、世界で最も優秀な技
術を持ったトップメーカーの1だったが、薄型テレビの値崩れや円高の影響によって、2012年
3月期に2900億円あまりの損失計上。しかも、国などから多額の補助金を受けて国内に大規模な
最新鋭の工場を作ったものの、サムスンなどの韓国企業(国による民族資本支援で、急速に技
術水準を高める)との競合に敗れてしまうという、経営陣に、あるいは国家政策に「油断」が
あったのだが、このことにより従業員の賃金切り下げやさらなるリストラが待ち受けている。
そのサムスン電子は、今年1-3月期の営業利益が過去最高を記録。サムスン電子が6日に発表
した今年1-3月期の売上高(連結ベース)は、暫定集計で45兆ウォン(約3兆2700億円)、営
業利益は5兆8000億ウォン(約4216億円)に達し、売上高は前年同期比21.65%増、営業利益は
96.61%増。前四半期比で売上高が4.9%減少したが、営業利益は9.4%増加。1-3月期はIT関連の
非需要期に当たるが、携帯電話端末の売り上げが好調で莫大な営業利益を上げたとみられる。
とはいえ、世の中はうまくいったもので「満つれば欠くる兆し」(易経)ということもあり予
断なきようにと思う。
ところで、ギリシャと日本が「公的支出/高齢者向け公家族・子供向け的支出」vs「合計特殊
出生率」の相関図から似ており、老人バイアス(高齢者階層への受益偏重)だからとの批判が
ある(池田信夫blog part2「強い社会保障より効率的な社会保障を」2010.7.4)無理矢理、ギ
リシャ、イタリアに似ているというのも変な話で出生率に社会的なバイアスを掛けているフラ
ンスはバイアスをなくすと日本と同じレベルなると容易に想像できるし、社会保障もしっかり
としたドイツもむしろ似ているわけで、年金支給条件が飛び抜けて良いギリシャと同一に扱う
のもどうしたものかと思う。年金が高すぎるというのであれば、同級生が1人当たり月8万円
+α(バイト)で都会で借家住まいで年金暮らししているのだが、賃労働ができなくなればど
うするのだろう心配している。財務規律・市場原理主義的な考える「効率的な社会保障」とい
うのも気になるところで、介護制度(政策)は無駄だから規制を緩和し市場原理(民間化)を
働かせよと主張する。民間化は良いとして「無駄を省く」「効率的に」と簡単にいうがそう簡
単に割り切れるものでもない。特別養護老人ホームなどの設備什器、職員の教育なども含めた
事業システムなどの技術水準は相当高く、空調衛生1つでもおろそかにすればホーム内感染拡
大してしまうのだ。規制緩和といえども遵法あるいはその背景の法の精神を生かさなければな
らない。「社会のごみ屑」扱いに貶めてはならない。
高齢と介護、身障と介護、医療と介護などに要するトータルの社会的費用は馬鹿にならないが、
誤解を恐れずに問題提起すると、そこに投入される技術・技能・教育レベルの高さ、投入され
る設備什器や介護用品、食事、医療薬品、雑貨消耗品の品質の高さ、さらに、投入された人的
資源は、雇用促進や国民の人生設計制度の高品位化という意味において、決して「不採算事業」
(負債分門)ではなく、巡り巡って社会の活力増進いう「富の源泉事業」だと位置づけ、国の
政府が、積極的産助すべきものだと考える。そう考えたとき、ギリシャの元薬剤師の抗議の自
殺の意味は、先ずは救済されるべきは「困窮した国民」であるべきで、その上に立った国家財
政再建策であることを教えてくれる(ドイツもギリシャで算段儲けてきたのだから、ここは積
極的に支援し、行き過ぎた金融行動を戒め「支配の経済」ではなく「贈与の経済」の力を発揮
すべきだと思うと同時に、過剰な投資金融関連の就労者をごっそりと社会福祉事業に自律的に
シフトさせるのも悪くない。そして、改めて大胆な問題提起をしたい。
チープな政策議論はもうやめにしよう。そして、いったん国家会計の負債をリセットして、新
規事業の仕事を開拓する国債をあらたに発行することで、「第三の敗戦」からの復興に立ち上
がろうではないか。その力は日本にあるはずだと。