【塗る環境発電】
旧聞になるが、NECと東北大学は2012年6月18日、塗布プロセスを用いて温度差から電流を取り出す手法で
ゼーベック効果を用いた熱電変換モジュールの制約を解き放つ技術を開発した報じた。小型の素子を大量
に並べる既存の手法と比べて、塗布プロセスでは製造がたやすく、塗布面積を増やすだけで取り出す電力
を増加させることができる他、パイプなどの曲面や凹凸面に沿った形状にも対応しやすくなる。今回は液
体を基板上に垂らして均一な膜を形成するスピンコート法を用いたが、今後、研究が進めば、ペンキのよ
うに塗ったり、スプレーで塗布するといった方法で発電層を形成できる可能性があるという。電流は、電
子の持つ電気の性質を使うが、実は電子は、電気だけではなく「スピン」と呼ばれる磁気の性質も併せ持
ち、従来のエレクトロニクスは、電子の持つ電気の性質しか使っていなかったが、スピン、つまり磁気の
性質も積極的に取り入れようとする試みが、約10年前からで盛んに行われてきた。このスピンを使うエレ
クトロニクスを「スピントロニクス」と呼ばれている。
ところが、エレクトロニクスの場合、既に物理は全部わかっている。例えば、電流をどうやって使えば良
いのかは全部わかっているし、それを支配している物理法則もわかっているから、どうやって小さく集積
化していくかとか、そういうところなのだがスピントロニクスの場合、それを支配している物理法則すら
わかっていないのだ。エレクトロニクスが、電気の流れである電流によって駆動されるように、スピント
ロニクスは、電子スピンの流れである「スピン流」という磁気の流れによって駆動され、電流については、
いろいろな生成法が既にわかっているが、スピン流については、生成法があまり明らかでない。具体的に
は、磁性体―磁石にくっつく金属(磁性金属、Nature, 2008)や絶縁体(磁性絶縁体、Nature Materials,
2010)、冷蔵庫にくっつくありふれた磁石(焼結体磁石、Applied Physics Letters, 2010)といった磁
性体というものに温度差をつけることでスピン流が生じることを発見。温度差から電流をつくる現象は「
ゼーベック効果」と呼ばれているので、そのスピン版として温度差からスピン流をつくる現象を「スピン
ゼーベック効果」と呼ばれる。
例えば、一般的に電流は当然、金属には流れて、絶縁体には流れない。実はスピン流に関しては、そうで
はないことが明らかになる。電流に対し絶縁体であっても、スピン流に対しては絶縁体ではないという物
質がある。加えて、最近の成果として、東北大学金属材料研究所の内田健一氏により、温度差からスピン
流をつくる現象・スピンゼーベック効果が、金属だけでなく絶縁体でも出ることを明らかにした。つまり
温度差をつけた絶縁体から電気・磁気エネルギーを取り出す新しい手法を発見する。この成果はセンセー
ショナルに、2010年「Nature Materials」に掲載される。
特開2012-109367|熱電変換素子
【符号の説明】
1 熱電変換素子 2 磁性体 3 起電体 4 導電体 5 出力端子 6 出力端子 7 基板 8バリア層
応用面では、電気は通さないけれども、スピン流は通すという絶縁体の性質を使うことにより、今日のエ
レクトロニクスにおけるデバイスの設計原理を根本的に変える可能性があり、特に、スピンゼーベック効
果の応用研究は、環境に優しい電力技術開発への貢献が期待されている。そんな中、コスト的にも性能的
にも絶縁体を使う方が良いということで注目されている。つまり、身近にありふれた材料でもスピンゼー
ベック効果が出ることが、コスト面で非常に優位な点だ。スピンゼーベック効果を観測するのに、基本的
には磁石なら何でも良く、例えば冷蔵庫に付いている永久磁石に金属(プラチナなど)の薄膜を付けるだ
けで良い。
次に、スピンゼーベック効果は、例えば熱電変換技術にも応用でき、温度差をつけるとスピン流を生じる
のがスピンゼーベック効果。スピン流は電気にも変換できるから、熱から電気を取り出す、例えば排熱な
どから電気を取り出すような省エネデバイスなどにも応用できる。この時、絶縁体を使う理由は、電気を
取り出すためには温度差をキープする必要があるが、絶縁体の方が熱伝導率は低いので、温度差をキープ
しやすいため、熱から発電機をつくる場合でも、熱伝導率が低い絶縁体が大変有利なのだ。金属を使った
熱電素子はいろいろあるが、熱伝導率を低くしようとすると発電効率も下がる物理的な制限があり、絶縁
体を使うことで従来の制約を回避することができる。
こう考えていくと、エネルギー問題は解決したのではという「確信レベル」に乗り上げているという感じがしないでも
ない。これって、楽しいね、実に!
【Jon Lord has sadly passed away】
【たまには熟っくりと本を読もう】
じっくりと読書する余裕もなくしこれではいけないと毎日を過ごしていると駄目になると思って、ネット検索している
と偶然、故吉本隆明と茂木健一郎共著が発刊されていることを知る。これまた、“過剰適応症”でネット通販で購入
する。
ぼくはいま、おサルさんと分かれたときからの歴史をやる以外にないよと考えているわけで
す。そうすればはっきりと見通しがきくというか、これから未来のことについてもわりあい
誤解・誤用が少なく観測できるはずです。それ以外のやり方では、世界がどう展開するか、
ちょっとわからないのではないでしょうか。〈中略〉つまり精神の問題として、あるいは精
神活動の問題として、人間の歴史をぶっ通しにわかっていなければ多分間違えるだろうと思
います。
『「すべてを引き受ける」という思想』
吉本隆明 茂木健一郎 著
さて、読書感想は後日ということで今夜はこの辺で。