極東極楽 ごくとうごくらく

豊饒なセカンドライフを求め大還暦までの旅日記

ダイズ工場巡礼の明日

2013年05月07日 | 開発企画

 

 

 

 

  ただひとつ趣味といえばいいのだろうか、多崎つくるが何より好きなのは鉄道駅を眺めるこ
 とだった。なぜかはわからないが、物心ついてから今に至るまで、彼は一貫して鉄道駅に魅了
 されてきた。新幹線の巨大な駅であれ、田舎の小さな単線駅であれ、実用一筋の貨物集積駅で
 あれ、それが鉄道駅でありさえすればよかった。駅に関連するすべての事物が彼の心を強く惹
 きつけた。
 
  小さい頃はみんなと同じように鉄道模型に夢中になったが、彼が実際に興味を惹かれたのは、
 精巧に造られた機関車や車両ではなく、複雑に交差しながら延びる線路でもなく、趣向を凝ら
 したジオラマでもなく、そこに添え物のように置かれた普通の駅の模型だった。そのような駅
 を電車が通過し、あるいは徐々に速度を落としてプラットフォームにぴたりと停止するのを見
 るのが好きだった。行き来する乗客たちの姿を想像し、構内放送や発車ベルの音を聞き取り、
 駅員たちのきびきびとした動作を思い浮かべた。現実と空想が頭の中で入り混じり、興奮のあ
 まり体が震え出すことさえあった。しかしなぜ自分が鉄道駅にそれほど心を引きつけられるの
 か、まわりの人々に筋道立てて説明することはできなかった。それにもし仮に説明できたとし
 ても、変わった子供だと思われるのがおちだろう。そしてつくる自身、自分にはひょっとして
 何かまともではない部分があるのかもしれないと考えることもあった。

 
  目立った個性や特質を持ち合わせないにもかかわらず、そして常に中庸を志向する傾向があ
 るにもかかわらず、周囲の人々とは少し連う、あまり普通とは言えない部分が自分にはある
(らしい)。そのような矛盾を舎んだ自己認識は、少年時代から三十六歳の現在に至るまで、人
 生のあちこちで彼に戸惑いと混乱をもたらすことになった。あるときには微妙に、あるときに
 はそれなりに深く強く。自分がその友人グループに加えられている理由が、つくるには時々よ
 くわからなくなった。
 自分は本当の意味でみんなに必要とされているのだろうか? むしろ自分かいない方が、あと
 の四人は心置きなく楽しくやっていけるんじやないか? 彼らはたまたまそのことにまだ気づ
 いていないだけではないのか? それに思い至るのは時間の問題ではないのか? 考えれば考
 えるほど、多崎つくるにはわけがわからなくなった。自分自身の価値を追求することは、単位
 を持だない物質を計量するのに似ていた。針がかちんと音を立ててひとつの場所に収まること
 がない。

  しかし彼以外の四人は、そんなことは気にかけてもいないようだった。つくるの目には、彼
 らは五人全員で集まり、共に行動することを心から楽しんでいるように映った。これはちょう
 ど五人でなくてはならないのだ。それ以上であっても、それ以下であってもならない。正五角
 形が長さの等しい五辺によって成立しているのと同じように。彼らの顔は明らかにそう語って
 いた。
  そしてもちろん多崎つくるも、自分かひとつの不可欠なピースとしてその五角形に組み込ま
 れていることを、嬉しく、また誇らしく思った。彼は他の四人のことが心から好きだったし、
 そこにある一体感を何より愛した。若木が地中から養分を吸い上げるように、思春期に必要と
 される滋養をつくるはそのグループから受け取り、成長のための大事な糧とし、あるいは取り
 置いて、非常用熱源として体内に蓄えた。しかしそれでも、自分がいつかその親密な共同体か
 らこぼれ落ち、あるいははじき出され、一人あとに取り残されるのではないかという怯えを、
 彼は常に心の底に持っていた。みんなと別れて一人になると、暗い不吉な岩が、引き潮で海面
 に姿を現すように、そんな不安がよく頭をもたげた。

 「そんな小さな頃から駅が好きだったのね」と木元沙羅は感心したように言った。
  つくるは肯いた。いくぶん用心深く。彼は自分のことを、工科系の学校や職場でしばしば見
 かける専門馬鹿のおたくだと彼女に思ってほしくなかった。でも結局はそういうことになるの
 かもしれない。「うん、小さい頃からなぜか駅が好きだった」と彼は認めた。
 「かなり一貫した人生みたいね」と彼女は言った。いくぶん面白がってはいるものの、そこに
 否定的な響きは聞き取れなかった。

 「なぜそれが駅なのか、駅でなくちゃいけないのか、うまく説明できないんだけど」
  沙羅は微笑んだ。「それがきっと天職というものなんでしょう」
 「そうかもしれない」とつくるは言った。
 どうしてこんな話になってしまったのだろう、とつくるは思う。それが起こったのはもう大昔
 のことだし、できることならそんな記憶は消し去ってしまいたかった。でも沙羅はなぜかつ
 くるの高校時代の話を間きたがった。どんな高校生で、どんなことをしていたのか? そして
 気がついたときには、話の自然な流れとして、彼はその五人の親密なグループについて語って
 いた。カラフルな四人と、色を持たない多崎つくる。



  
  二人は恵比寿の外れにある小さなバーにいた。彼女が知っている小さな日本料理の店で夕食
 をとる予定だったのだが、遅い昼食をとったせいであまり食欲がないと沙羅が言うので、予約
 をキャンセルし、どこかでカクテルを飲みながらとりあえずチーズかナッツでもつまもうとい
 うことになった。つくるもとくに空腹は感じなかったから、異議はなかった。もともとが小食
 なのだ。

  沙羅はつくるより二歳年上で、大手の旅行会社に勤務していた。海外パッケージ旅行のプラ
 ンニングが専門だ。当然のことながら海外出張が多い。つくるは西関東地域をカバーする鉄道
 会社の、駅舎を設計管理する部署に勤務していた(天職だ)。直接の関わりはないが、どちら
 も運輸に関連した専門職ということになる。つくるの上司の新築祝いのホームパーティーで紹
 介され、そこでメールアドレスを交換し、これが四度目のデートだった。三度目に会ったとき、
 食事のあと彼の部屋に行ってセックスをした。そこまではごく自然な流れだった。そして今日
 がその一週間後。微妙な段階だ。このまま進めば、二人の関係は更に深いものになっていくだ
 ろう。彼は三十六歳で、彼女は三十八歳。当たり前のことだが、高校生の恋愛とはわけが違う。
 最初に会ったときから、つくるは彼女の顔立ちが不思議に気に入っていた。標準的な意味での
 美人ではない。頬骨が前に突き出したところがいかにも強情そうに見えるし、鼻も薄く少し
 尖っていた。しかしその顔立ちには何かしら生き生きしたものがあり、それが彼の注意を引い
 た。目は普段は細かったが、何かを見ようとすると急に大きく見聞かれた。そして決して臆す
 るところのない、好奇心に満ちた一対の黒い瞳がそこに現れた。

  普段意識することはないのだが、つくるの身体にはひどく繊細な感覚を持つ箇所がひとつあ
 る。それは背中のどこかに存在している。自分では手の届かない柔らかく微妙な部分で、普段
 は何かに覆われ、外からは見えないようになっている。しかしまったく予期していないときに、
 ふとした加減でその箇所が露出し、誰かの指先で押さえられる。すると彼の内部で何かが作動
 を始め、特別な物質が体内に分泌される。その物質は血液に混じり、身体の隅々にまで送り届
 けられる。そこで生み出される刺激の感覚は、肉体的なものであると同時に心象的なものでも
 ある。
 
  最初に沙羅に会ったとき、どこかから延びてきた匿名の指先によって、その背中のスイッチ
 がしっかり押し込まれた感触があった。知り合った日、二人でけっこう長く語り合ったのだが、
 どんな話をしたのかろくに覚えていない。覚えているのは背中のはっとする感触と、それが彼
 の心身にもたらした、言葉ではうまく表現できない不思議な刺激だけだ。ある部分が緩み、あ
 る部分が締め付けられる。そういう感じだ。それはいったい何を意味するのだろう? 多岐つ
 くるはその意味について何日か考え続けた。しかし形を持たないものごとに考えを巡らすこと
 は、彼のもともと不得手とするところだった。つくるはメールを送り、彼女を食事に誘った。
 その感触と刺激の意味を確かめるために。

  沙羅の外見が気に入ったのと同じように、彼女の身につけている服にも好感が持てた。飾り
 が少なく、カットが自然で美しい。そして身体にいかにも心地よさそうにフィットしている。
 印象はシンプルだが、選択にけっこうな時間がかけられ、少なからぬ対価がその衣服に支払わ
 れたらしいことは、彼にも容易に想像できた。それに合わせるようにアクセサリーも化粧も上
 品で控えめだった。つくる自身は服装にあまりこだわる方ではないが、着こなしの上手な女性
 を見るのは昔から好きだった。美しい音楽を鑑賞するのと同じように。
  
  二人の姉も洋服が好きで、彼女たちはデートの前によくまだ小さなつくるをつかまえて、着
 こなしについての意見を求めたものだ。なぜかはわからないが、かなり真剣に。ねえ、これど
 う思う? この組み合わせでいいかしら? そして彼はそのたびに、人の男として、自分の意
 見を率直に述べた。姉たちは多くの場合弟の意見を尊重してくれたし、彼はそのことを嬉しく
 思った。そういう習慣がいつの間にか身についてしまった。




  つくるは薄いハイボールを静かにすすりながら、沙羅の着ているワンピースを脱がせるとこ
 ろを頭の中にひそかに思い浮かべた。フックを外し、ジッパーをそっとおろす。まだ一度の体
 験しかないが、彼女とのセックスは心地良く充実したものだった。服を着ているときも服を脱
 いだときも、彼女は実際の年齢より五歳は若く見えた。肌は色白で、乳房は大きくはないがき
 れいな丸い形をしていた。時間をかけて彼女の肌を撫でるのは素敵だったし、射精を終えたあ
 と、その身体を抱きながら優しい気持ちになれた。でももちろんそれだけでは済まない。その
 ことはわかっていた。人と人との結びつきなのだ。受け取るものがあれば、差し出すものがな
 くてはならない。


                                      PP.14-20                         
                村上春樹 『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』

 


【太陽光か人工光か】

昨夜のダイズ工場構想のつづき

 従来、屋内で水耕栽培などの人工的な植物栽培には、植物は光合成による成長に、植物の地上部(茎
と葉)に、太陽光または太陽光に代わる人工光を照射する。人工光を用いる場合、その光源としては、電
熱灯、放電ランプ、蛍光灯、発光ダイオード(LED)などが用いられるが、植物が生育するのに必要な波
長の光のみを放射する、消費電力が小さくかつ電力、光変換効率がよく、寿命が長い、小型の特徴をもつ
LEDが好適とされる。植物の生育には、波長400~500nmの青色系の光と、波長600~700nmの赤
色系の光が
必要であることが知られている。そこで、LEDを用いた植物の栽培の照明板に、赤色系の光
を発光するLED(赤色系LED)と青色系の光を発光するLED(青色系LED)を複数配設し、赤色系LED
と青色系LEDを同時または交互に点灯することにより、植物の地上部に、赤色系の光と青色系の光を照
射する例もある。しかし、植物の生育促進には顕著な効果が得られていなかった。水耕栽培などの人工
栽培での生育を促進する方法が課題だった。

そこで、培養液を用いた水耕栽培による植物の栽培方法で、可視域の波長範囲にある光を照射す
ることを特徴とした場合
、波長が600~750nm範囲にある赤色系の光α、波長が435~500nmの範囲
にある青色系の光βや570~600の範囲にある黄色系の光γが最適であるという。下図の新規考案
の光αの光合成有効光量子束密度[μmol/m2/s]が1~200の範囲にあり、光合成有効光量子束
密度が1未満であれば、根域への光照射効果に乏しく、200を超えると植物の生育が阻害されるこ
とがある。また、
光βの光合成有効光量子束密度[μmol/m2/s]が、同様に1~200の範囲にある。
さらに、光γの光合成有効光量子束密度[μmol/m2/s]も同じである。尚、栽培種は、野菜類、
花卉類および穀類、
葉菜類、根菜類および果菜類、小松菜、ホウレン草、レタス、ミツバ、ねぎ、
ニラ、サラダ菜、パセリ、青梗菜、春菊、ペパーミント、甘草およびバジル、また
根菜類には、
大根、二十日大根、人参、朝鮮人参、わさび、じゃがいも、サツマイモ、カブおよび生姜、さら
果菜類は、トマト、イチゴ、胡瓜、メロン、茄子、ピーマン、記花卉類には、バラ、シクラメ
ン、チューリップ、キンギョソウ、ダリア、キク、ガーベラ、ラン、
穀類には、イネ、コムギ、
オオムギ、トウモロコシ、マメおよび雑穀が可能であり
植物の根域に可視域の波長範囲の光を照
射手段を備えたことを特徴としている。
 特開2012-196202

【符号の説明】

10植物の栽培装置、11第一空間、12容器、13仕切部材、14第一光源、15第一遮光部材、16第二空
間、17第二光源、18第二遮光部材、19基板、20光源、40植物、41根域、42地上部、50培養液。

 




このように人工光の電源にLEDを採用することで多種類の「植物工場」による生育が可能とな
るととも、太陽光との最適化を測りながらコストと収率と品質の最適化が実現できるようになっ
てきている。

さらに、下表は大豆栽培方法で、粒肥大始期、粒肥大盛期あるいは成熟始期の発育時期に、0.04
~3質量%のグルタミン酸カリウムと水を含む液体肥料を、1回につき10アール当たり30~500
リットルの散布量で、葉面散布し、原料として使用した豆乳、豆腐、がんもどき、油揚げ、湯葉
等の大豆加工食品で味の良好な大豆加工食品を得ることができる大豆加工食品提供の新規考案で
ある。
 

   特開2011-200155

これまで、大豆を原料とする豆乳、豆腐、油揚げ等の大豆加工食品の風味を改善のため、例えば
豆乳の製造工程では、グルコース、グルコースオキシターゼ、及びカタラーゼを添加して風味の
良い豆乳を製造、豆腐の場合、豆腐の製造工程において、片栗粉、トウモロコシ、苦汁、及びグ
ルコノデルタラクトンを添加して風味の良い豆腐を製造あいている。
大豆加工食品の製造工程に
おいて何らかの物質を添加する方法は多く開発されていたものの、大豆の育成過程で与える肥料を改良
して大豆を栽培し、かかる栽培により得られた大豆を使用することで、大豆加工食品の風味を改善すると
いうことはあまりなかったという。

一方で、植物の育成過程において各種肥料を与えることで、病気を予防して植物の育成を促進し
たり、得
られる葉や果実等の栄養素を改善(→炭酸カルシウムまたは炭酸マグネシウム1に対し
てグルタミン酸
を2~3の割合で混合した植物散布用組成物や、茶葉中のテアニンの含有量を増
加させるために、テア
ニン、グルタミン、グルタミン酸等のアミノ酸を有効成分を含有する葉面
散布剤や、農作物のアミノ酸類を
増加させて味覚を向上させるグルタミン酸に対してイノシン酸
ナトリウム及びグアニル酸ナトリウムを特
定量配合した肥料)開発されてきた。これに対し上表
の考案は、特定量のグルタミン酸カリウムを葉面散
布することで風味の良好な大豆加工食品が得
られるという。




「ダイズ工場」構想を考察のため作業を終えてみて、初期投資政策さえ確立させてしまえば、連
作可能
であることが理解できた。コスト削減も継続生産していくなか実績を得ることができるだ
ろう。これは大変
面白いことだ。従って、この残件は今夜解消した。
 

コメント
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