1月のライヴが悉く他のライヴと重なり伺えず、この日が今年初めての坂田さんのライヴとなった。喫茶茶会記は情緒ある佇まいの落ち着いた古風な喫茶店。お店に入ると奥の部屋からサックスの音が聴こえてくる。坂田さんが練習している。カウンターでコーヒーを飲んで待っていると他にぱらぱらとお客さんがやってくる。
開演時間になると坂田さん自ら部屋から顔を出して「お待たせしました。どうぞ」と呼び込む。20畳くらいの四角い部屋でアップライト・ピアノが置いてある。その前にアルトとクラリネット。「あけましておめでとうございます」と遅すぎる新年の挨拶をすると「あ、そうだっけ」と坂田さん。観客は私を含め5人だけ。デジカメで撮影するスタッフがひとり。坂田さんのヨーロッパ・ツアーにも同行しライヴを撮りだめていて、そのうちに作品化する予定だというから楽しみだ。
坂田さんが前へ出て用意してきたベル/金物の説明を始める。数々のベルや鈴に加え小さな銅鑼もセットしてある。一通り説明を終えると「そろそろ始めますか」とサックスを構える。朗々とした艶のある音色がサックスのベルから流れ出す。坂田さんの音は本当に美しい。1曲目は比較的バラードっぽいメロディアスな演奏。続いてクラリネットで1曲、再びサックスで1曲。今度はかなり激しくフリーキーな演奏。小さい木造の部屋だから自然なリバーブがかかり快いサウンドだ。45分演奏したところで休憩。
第2部は譜面台を置き椅子に座って「平家物語」の実演。しゃがれた声の語りと詠唱に加えサックスとクラリネットとベル類、さらにピアノも演奏。物語が山場を迎えると立ち上がって身振り手振りを交えて演じる。CDでは多重録音されているのをひとりで再現しようというのだから忙しい。坂田さん自身初の試みでどうなることかと思っていたようだが、見事にストーリー性のある感情豊かな演奏を披露、ひとときの夢物語に酔い痴れた。50分の演奏。
2月8日(水)には秋葉原Club Goodmanで<坂田明 平家物語 実演会>と銘打ったライヴがある。出演は坂田明(朗読、サックス) / 田中悠美子(三味線) / 石井千鶴(小鼓) / 山本達久(パーカッション) / ジム・オルーク(ギター)。バンドで繰り広げられる平家物語はソロとはひと味違って面白いだろう。
坂田さん
平家の亡霊
取り付いた
最近映画「エンドレスワルツ」の初DVD化もあり再び阿部薫への興味が高まっている。もし阿部さんがまだ生きていたなら、坂田さんとのデュオ演奏も聴けたかもなあ、とふと考える。