坂田さんが昨年11月にリリースしたソロ・アルバム「平家物語」はJOJO広重氏がライナーを書いていることから分かるように、単なるフリージャズの枠に収まらず、古典からノイズまであらゆる音楽のダークサイドを凝縮したようなヘヴィな作品だった。リリース前後から坂田さんはライヴの中で平家物語のさわりの部分「祇園精舎の鐘の声……」の部分を吟唱し、節々にこの物語のエッセンスを散りばめてきた。2月4日のソロ・ライヴでは後半の50分をまるまる「平家物語」にあてて、ひとりで語り・吟唱・サックス・クラリネット・ピアノ・ベル類を操ってこの物語の世界を描き出すという無謀にも思える試みを敢行した。それがいかに素晴らしかったかについてはそのライヴレポで書いたとおりである。
この日は正式に「平家物語 実演会」と銘打って坂田明(朗読、サックス) /田中悠美子(三味線)/石井千鶴(小鼓)/山本達久(パーカッション) /ジム・オルーク(ギター)という和洋折衷クインテットによるコンサート。まず驚いたのはお客さんの数。4日のソロ・ライヴではわずか5人だったのに、この日は椅子を並べてあったが立ち見も出る超満員。共演者の人気による動員ではないだろう。きちんと宣伝・告知すればそれなりの動員が見込めるという証明である。年配の客もいるが20代前後の若い人の姿も目立つ。私は何とか最前列の椅子を確保できた。
ステージには楽器と椅子が並んでいて室内楽的雰囲気。4日後に迫ったユニヴェル・ゼロのステージを想像させる。15分押しで坂田さんをはじめ五重奏団のメンバーが登場。ジムはスチール・ギターを使用。まず坂田さんが独特の語り口で前口上を述べる。「適当に聴いてればそのうち必ず終わりますから」と笑わせる。
坂田さんの語りから演奏スタート。三味線や小鼓の和楽器の響きが何の違和感もなく溶け込む。ジムのスチール・ギターは目立つことはないが通奏低音のように演奏全体の流れを包み込む。特筆すべきは山本氏のドラミングで、リズム楽器ではなくメロディ楽器としてのドラムスの可能性を極限まで追求したプレイは、この壮大な物語のダイナミックな展開を生み出す上で非常に効果的だった。今まで何度も山本氏のドラムは聴いたことがあるが、ここまで“歌う“ドラミングを聴いたのは初めてだった。
第2部はさらに激しく坂田さんのブロウが炸裂する。いわゆるジャズのグルーヴとは全く異質のいわく言い難いうねりが会場を包み込む。最後は坂田さんがバス・クラリネットを吹き荘厳な雰囲気のまま終了。鳴りやまぬ拍手に応えてアンコールに登場した坂田さん、MCでこの作品の誕生秘話を明らかにした。最初は発売元のdoubt musicの沼田社長から民謡のソロ・アルバムを作らないかとの打診があった。しかし坂田さんは過去に「フィッシャーマンズ・ドット・コム」というアルバムで民謡を録音し、自ら語るには「誰にも相手にされなかった(苦笑)」とのことで、別のアイデアを考えたら20分で「平家物語」を思いついたという。あとから2012年の大河ドラマが平清盛であることを知ったらしく「作品を作った意味なんて後付けでいいんだよ」と言い放った(笑)。
ひとりで多重録音で制作したCDの禍々しさとは全然違う、豊饒な世界が現出した素晴らしいライヴだった。やはりバンド編成は面白い。今月21日新宿ピットインでのバースデイ・ライヴ(しかも芳垣安洋氏とのダブル・バースデイ)がとても楽しみだ。
坂田さん
五人で奏でる
平家ストーリー
たまたま同じテーブルに座った「TAKE's Home Page」のTAKEDAさんから6月に元ヘンリー・カウのクリス・カトラー(ds)、ジョン・グリーヴス(b,p)、ジェフ・リー(sax)等が来日公演を行うとの情報をゲット。しかも会場は渋谷Bar Issheeで20人限定の超プレミア・ライヴとのこと。ちょうど会場に来ていた店長のイッシーさんにその場で予約し何とか観ることが出来ることになった。なんともラッキー。因みにTAKEDAさんはユニヴェル・ゼロは全公演行くとのこと。スゲーッ!
かくなる私は日曜日はユニヴェル・ゼロ→灰野さんという暗黒巡りツアー。