A Challenge To Fate

私の好きな一風変わった音楽を中心に徒然に綴ったページです。地下文化好きな方は見てやって下さいm(_ _)m  

灰野敬二+太田惠資@下北沢 Lady Jane 2012.2.12 (sun)

2012年02月15日 00時29分57秒 | 灰野敬二さんのこと


魚上氷 うおこおりにのぼる
例えば、灰野の炸裂音が天に飛翔する竜になる時、太田の弦音は一本の細い葦となって、地にそよぐのだ。
(Lady Janeフライヤーより)

灰野さんと太田惠資氏の初共演は2003年4月16日大泉学園in Fだった。太田氏のことは新大久保ジェントルメン、シカラムータ、渋さ知らズなどに参加しているヴァイオリン奏者ということだけ知っていて演奏を観るのは初めてだった。ユーモラスな衣装と飄々とした佇まいから想像できるようにヴァイオリン以外にもパーカッションや拡声器、おもちゃ類を駆使した演奏は面白く、灰野さんのシリアスな演奏と不思議に絡み合って普段の灰野さんのライヴからは感じられないユーモラスで楽しい演奏が繰り広げられた。余りに面白かったので休憩中の二人に「一緒にデュオ・ユニットでやっていけばいいじゃないですか」と余計な進言をしたことを覚えている。

それからほぼ9年。その間に何度かこのデュオ演奏を観てきた。最初の時のユーモア感が次第に薄れ、徐々に真面目な演奏に変わってきたのは太田氏と灰野さんの関係がより深まってきたが故なのだろう。10年近くも共演を続けるということは灰野さん自身が太田氏の演奏を相当気に入っている証拠である。かつて共演を重ねてきたアーティストでもいつの間にかご無沙汰になる場合も多いのだから。

この日はユニヴェル・ゼロの昼間の回のチケットを取っていたためラッキーにも夜のLady Janeに行くことが可能だった。予約の時にお店に頼んでおいたので、カウンター最前のベストな席に座ることが出来た。何度も通っているから可能なちょっとしたご褒美。灰野さんの場所にはSG、グヤトーンのフレットレス・ギター、フルート、たて笛、タンバリンなどが置いてあり、前回Shelterでのライヴの時に初めて使い気に入ったと言っていたエレクトロ・ハーモニクス製のエフェクターが3つ並んでいる。リング・モジュレーターが2台、リバーブが1台。

ほぼ定刻通りにふたりが登場。灰野さんのたて笛から演奏が始まる。アタックの強い鋭い笛の音に太田氏のヴァイオリンのドローンが重なり、緊張感のある静謐な世界を産み出す。内面に秘めた爆発しそうなエネルギーを抑え込み少ない音数でふたりの感情を小出しにする。それは灰野さんがSGに持ち替えても変わらないまま続く。今にも溢れだしそうな激情を敢えて貯め込むことで、空間が凍りつくようなピリリとしたテンションが会場を包み込む。灰野さんが言葉にならない呻き声を発する。第1部は無言の爆発といった雰囲気のまま50分で終了。

休憩の間にマイクの前に用意された譜面台に詩のファイルを開いて、第2部は灰野さんがタンバリンを叩き太田氏のエキゾチックなヴァイオリンのフレーズと相まって邪教的な演奏。昼間観たユニヴェル・ゼロの暗黒世界を髣髴させる。しかしこちらはふたりきり、しかも完全即興だ。灰野さんが歌う。「俺の分け前をよこせ」「意味崩し」など最近の灰野さんのライヴではお馴染みの歌詞が飛び出す。後半は太田氏もヴァイオリンの音にエフェクトをかけまるでオルガンのようなサウンドを繰り出す。次第に演奏が激しさを増して行き暴走するインプロヴィゼーションが炸裂。激情の迸りにハシゴで疲れ瞼が下がりかけた私の意識が覚醒する。最後は嵐の後の静けさを想わせる静かなギターの爪弾きで50分の演奏が幕を閉じる。



ユニヴェル・ゼロの計算しつくされた演奏も良かったが、それとは正反対の何が起こるか分からないふたりの名手のスリルに満ちた激突には心が打ち震えた。灰野さんがフランク・ザッパを嫌いでキャプテン・ビーフハートを愛する気持ちが理解できたような気がした。

異教徒が
ふたり奏でる
饗宴の夜

灰野さんは2月下旬からグラスゴー・ツアーに行くとのこと。寒いところには行きたくないんだけどね、と言って苦笑していた。


コメント
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