CHARLES HAYWARD presents V4 VICTORY
クワイエット・サン~ディス・ヒート~キャンバーウェル・ナウとカンタベリー系、ポストパンク、レコメン系バンドを渡り歩いてきた名ドラマー、チャールズ・ヘイワードがニュー・バンドで来日するという情報は実は3月上旬に知っていた。招聘元のVinyl Japanの中谷さんとはFacebookの友達で、中谷さんから「チャ―ルズ・ヘイワードのニュー・バンドの来日公演を7月にやるのだが、いい対バンはいないか?」との問い合わせをいただいたのである。それは素晴らしいとばかり、灰野さんは勿論、吉田達也さんのルインズ・アローンやROVO、PARAなど山本精一さん関係、ウンベルティポ、アルタード・ステイツ、ヘア・スタイリスティックス、パニックスマイル、狂うクルー、ZENI GEVAなど思いついたバンドを動画と共に紹介した。
その後忘れかけていた頃にTwitterやネット・ニュースで「チャールズ・ヘイワード来日決定」と発表された。東京公演は二日間で初日のサポート・アクトは吉田達也さん、ナスノミツルさん、鬼怒無月さんの是巨人だという。私の情報が少しは役に立ったのかどうかは分からないが、彼らはユニヴェル・ゼロのサポートも務めたので妥当な線ではある。私はサポート未定の二日目に行くことにした。
二日目は開場が17:00と早めである。予想通りTAKE’s Home Pageのタケダさんが来ている。初日も”当然”観たそうで、大阪から観に来たという女性を紹介された。初日はかなりの動員だったらしく、この日は客の出足が遅いとのこと。タケダさんは”当然”整理番号一桁。私は37番だったので前列は無理かなと思ったが、ステージ右手柵前の隙間に潜り込み最前列を確保。予想外に30~40代のニューウェイヴ世代が年配のプログレ・ファンより多かったのはディス・ヒート・ファンが多勢だった故か。この手のライヴにしては女性客の姿も多い。
チャールズ・ヘイワードは1996年以来4度目の来日公演だが、過去3回がソロ+日本のミュージシャンとのセッションだったので、バンドを率いての来日は初めてである。私は観るのは初めてだが、初来日時の灰野さんやペーター・ブロッツマンと共演したライヴ盤「Double Agent(s)~Live in Japan Volume Two」は愛聴している。そこで聴かれる丁々発止のインタープレイは緊張感とスリルに溢れていて素晴らしい。また、歌モノのソロ作品はカンタベリーらしい独特の幻想感があり味わい深い。
告白すると個人的にはディス・ヒートの1stはイマイチのめり込めなかった。リリース当時プログレ/オルタナティヴ系のメディアやレコード店では大絶賛で青と黄色の印象深いジャケットと共にポストパンクを象徴するアルバムと評されていたので、日本盤が出た時には狂喜して購入したが、そのサウンドは、悪くはないのだが当時好んでいたレジデンツやポップ・グループ、スロッビング・グリッスル、キャバレー・ヴォルテール、ペル・ウブなどに比べると比較的地味で難解で、それほど革新的だとは思えなかった。2ndの「偽り(Deceit)」はヴォーカル中心のロック・アルバムでカッコいいと思った。その印象は今聴いても変わらない。
この日のサポート・アクトはジム・オルークだと中谷さんから聞いていたが、一般にはギリギリまで発表されず、2,3日前になってVinyl Japanのサイトに「ジム・オルークとタイムスリッパーズ」と発表された。ステージに登場したのはジムと男性メタル・パーカッション奏者、ヴァイオリンの男女、フルートの女性の5人で全員サングラスなので顔が分からない。ジムは渦巻状の金属を叩きエフェクターを弄りながらぼそぼそと唄う。彼が関わっていたイギリスのドローン・ノイズ・ユニット、オルガナムや古くはタージマハル旅行団、7年くらい前にアストロ氏がやっていたAstral Travelling Unityなどを想わせる幻惑的なドローン/アンビエント演奏が45分続く。これはスタンディングとはいえ睡魔との闘いだった。立ったまま何度も意識を失いかけバランスを崩して倒れそうになった。Astral Travelling Unityと灰野さんの共演を観た時も大半眠ってしまい、目が乾いてコンタクトが外れて辛い思いをしたことを思い出した。家でリラックスして聴く分にはいいが、この手の音のライヴは厳しい。決して悪いということではなく、個人的な趣味&体調の問題であるが。メンバーは不明だが、パーカッションの男性は山本達久氏、ヴァイオリンの女性はtriolaの波多野敦子嬢だったことは判明した。石橋英子嬢は参加していたのかどうか?
タイムスリッパーズの機材が少なかったのでセットチェンジはスムーズ。15分くらいでV4 VICTORYの4人が登場。左から紅一点のカテリーヌ(DJ BPM)(pc,cdj,key)、ヴァーン・エドワーズ(g)、チャールズ・ヘイワード(ds)、ニック・ドイン=ディトマス(b,フリューゲルホーン)。カテリーヌのアンビエントな電子音にニックの深いリバーブのフリューゲルホーンが絡み、まったりとスタート。チャールズが8ビートを叩き出しヴァーンのスライド・ギターがフリーキーなフレーズを奏でる。幻想的なホーンが北欧フューチャー・ジャズのニルス・ペッター・モルヴェルを想わせる演奏。ニックがベースに持ち替えファンキーなチョッパープレイを繰り出しチャールズのドラムと相まってタイトなファンク・ビートを産み出す。グラクソ・ベイビーズやサートゥン・レイシオ、EP-4など80’sアヴァン・ファンクを髣髴させるノリにあわせて観客も身体を揺する。時々ドラム・パターンが変わり曲調が変化するが、基本はファンク+音響系インプロである。チャールズのヴォーカルがない代わりにカテリーヌがPCでヴォーカル・トラックを乗せたり、鶏の鳴き声を出したりユーモラスな要素もある。ディス・ヒートともキャンバーウェル・ナウともソロとも違う新しいスタイルを模索していることを実感する。先日アルトー・ビーツで来日した小柄なクリス・カトラーに比べ大男のチャールズだが、クリスと同じように「過去の演奏の再演ではなく、常に新しいサウンドに挑戦する」という前向きな姿勢がビシビシ伝わる演奏が素晴らしい。80分余りの本編に続くアンコールでは、ROMPというバンドで初来日時に対バン歴のある大阪のギタリスト豊永亮氏がゲスト参加、DNA時代のアート・リンゼイばりの破壊的なノイズ・ギターでエキサイティングに絡む。2回目のアンコールではチャールズがバナナを持って現れ「バナナ、ピアニカ」と紹介してピアニカを吹く。ダブ風のビートにデニス・ボーヴェルやニューエイジ・ステッパーズを思い出すが、なかなか斬新な演奏を聴かせてくれた。のべ100分に亘る熱演だった。しかしバナナは何だったんだろう?
ディス・ヒート
キャンバーウェル・ナウ
過去にして
中谷さんが、ニックがポスト・パンクの隠れた名バンドPinski Zooのメンバーだと教えてくれた。検索してみてもPinski Zooのメンバーに彼の名は無く真偽のほどは不明だが、30年ぶりにPinskiの名前を聞いて懐かしかった。翌日はメンバーを浅草観光に連れていくとのこと。
▼フライヤーと物販で購入したバッジ