A Challenge To Fate

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百鬼夜行の回想録~80'sインディーズ特集 第5回「ナゴムレコード編」

2012年07月16日 01時38分04秒 | 素晴らしき変態音楽


嬉し恥ずかし80's特集も佳境を迎え、今回はちょっと赤面しつつナゴムレコードの思い出を。

ナゴムレコードは後にインディーズ御三家として活躍する有頂天のケラリーノ・サンドロヴィッチ(ケラ)氏主宰のレーベルだが、調べてみると名前を決めたのは岸野雄一氏と故・川勝正幸氏であり、先鋭的な活動をするからレーベル名くらいは「和む」がいいというのが、その理由だという。

最初に買ったのは1983年の有頂天の1stソノシート。当時ほぶらきんやK.D. & the Moonlight Band(後述)などコミカルで奇矯なバンドを好んでいたので、ゲルニカの作詞&ヴィジュアル担当の太田螢一氏によるあやとり姉弟のロゴを全面にあしらったジャケットと「おすもうさんの唄」「脳なしメガネ」「やくざなビリカメノコ」「せつくす」「ゲロ」という曲名に惹かれたのだ。内容はそれほど変態的ではなかったが「せつくす」は仲間内で大ウケで早速バンドでコピーした。



1stの豪華ピクチャーLP「土俵王子」を購入するが下世話なコミックソングばかりで特に魅力は感じなかった。その後暫く存在を忘れていたが、1985年に突如チューリップのヒット曲「心の旅」のカヴァーが話題に。ラフィン・ノーズの「ゲット・ザ・グローリー」と同じ頃ヒットし、インディーズ・ブームの幕開けとなった曲である。有線でもしばしば流れた。



その頃坂本龍一さんか佐藤薫さんのFM番組で自主制作音源を紹介するコーナーがあり、ナゴムの音源もよく紹介された。中でも印象的だったのが、ケラ氏がケラリーノ・サンドロヴィッチ名義でレコーディングしたソロ音源だった。無伴奏ソロ歌唱でメチャクチャな言葉を連発するセンスに仰天した。一般には販売されていない未発表音源とのことだった。1986年有頂天はメジャー・デビュー。同時期にラフィンやブルーハーツもメジャー・デビューしており、インディーズのメジャー進出の始まりだった。その頃私は大学を卒業し就職。取引先の女の子に熱烈な有頂天ファンがいて、宝島のカセットブックをダビングしてくれたり、ライヴやリリース情報を教えてもらったりしたのが懐かしい。ライヴは一度だけ埼玉の大学にパール兄弟との対バンを観に行ったことがある。メジャー2ndの「AISSLE」までは追っかけたが、それ以降は聴いていない。久々に聴いてみたらバブル直前の狂乱時代を象徴する馬鹿バカしいノリのロックで聴いてて恥ずかしくなってしまった。



特に意識した訳ではないが、大学の頃はナゴムの作品を良く聴いていた。ケラリーノ・サンドロヴィッチ氏がおおつきモヨ子(大槻ケンヂ)氏、ハヤブサのユウ(内田雄一郎)氏と組んだテクノ・ユニットが空手バカボン。普通の7インチ(17cm)よりひと回り大きい20cmソノシートでリリースされた「バカボンのススメ」には友人達と腹を抱えて笑った。彼らの曲も自分のバンドのレパートリーに加わった。そのバンドはサークルの合宿のお遊びバンド「まよねえず」で、フランク・ザッパ、レジデンツ、ほぶらきん、有頂天、空手バカボン、即興演奏から細川たかし、ディープ・パープル、泰葉などをレパートリーにしたふざけた傍迷惑バンドだった。空手バカボンは解散した訳ではなく、現在もイベントなどで活動しているらしい。



テクノ系では人生(ZIN-SAY!)というバンドもいた。メンバー表記が石野卓球、畳三郎(ピエール瀧)、おばば(EX分度器)、若王子耳夫、グリソン・キム、越一人、王選手とふざけており、ライヴではピエロやドラえもんのコスプレでコピコ・サウンド&ギャグ連発のイロもの丸出しで正にナゴム・カラーのど真ん中だった。電気グルーヴの前身バンドである。



ここまで紹介してきて恥ずかしいバンドばかりなのではっきり言って止めたくなってきたが頑張って続けよう。

他にもPicky Picnic、ミンカパノピカなどテクノ系はナゴムを象徴していた。一方でバンド系でもユニークなキャラクターを産み出す。以前特集したばちかぶりもそのひとつである。田口トモロヲ氏の強烈なパフォーマンスと前衛的なハードコア・サウンドに衝撃を受けた。CD化された全曲集「ばちかぶりナゴムコレクション」では1曲目の「only you(唯一人)」の次に12インチの曲が収録されているのに違和感を覚える。やはり、オリジナル通りの曲順で再発してもらいたかった。



ばちかぶりに続けとばかりに出てきた変態ロック・バンドが筋肉少女帯である。空手バカボンの大槻モヨコのパンク・バンドというだけで興味を惹かれた。デビュー・シングルが「高木ブー伝説」。何も出来ない情けなさをドリフに於ける高木ブーさんに喩えた歌詞にドリフターズ所属の事務所を名乗る者から苦情の電話が寄せられ(後に悪戯と判明)自主回収された問題作である。メジャー・デビューしてこの曲が「元祖高木ブー伝説」としてリリースされたとき事務所は反発したがブーさん自身が「若い奴がバカやって頑張ってるんだから許してあげようよ」とイケメンな対応でリリース可能になったという美談が残っている。



ナゴムで個人的に忘れられないバンドがオレンジチューブである。ケラ氏が「ナゴムで一番売れなかったレコード」と語った唯一の20cmEP「ORANGE TUBE」はFMで聴いた時からお気に入りだった。ナゴムにしてはマトモ過ぎるサウンドだったが、B級好きの私にはよく出来た曲作りとポップなメロディが印象的だった。彼らがEPをリリースした半年後に自分のバンドで渋谷屋根裏に出演した時、観にきていたオレンジチューブのヴォーカルの人から声を掛けられ「ハードロック・バンドをやりたいのだがギターを弾いてくれないか」と誘われたが、当時は"アンチ・ハードロックのニューウェイヴ派"とツッパっていたので断った思い出がある。セッションだけでもしてみれば良かったな~。さすがに彼らの音源はYouTubeにないだろうと思って探したら、何と2010年の再結成ライヴの動画がたくさん上がっていた。しかも客席は満員である。調べてみると、80年代初期千葉方面では爆風スランプの前身スーパースランプと並ぶ人気バンドだったらしい。



ナゴムで一番成功したのはやはりたまだろう。丁度「イカ天」でたまとマルコシアス・バンプが一騎打ちをしていた頃自分のバンドで「イカ天」に出演したのでとても印象に残っている。「さよなら人類」が大ヒットし紅白にも出演した彼らだが、90年代半ばにインディーズに戻ってからもユニークな活動を続けた。2003年の解散後もカルト的な人気を誇り、2010年末「たまの映画」が公開され現在も活動を続けるメンバーの姿がクローズアップされた。知久寿焼氏と石川浩司氏はアコースティックなごった煮バンド、パスカルズで活動中。



2000年に「ナゴムの話―トンガッチャッタ奴らへの宣戦布告」という単行本が発売された。それ以前からサブカル誌「クイック・ジャパン」にナゴムレコード所属バンドの異常に詳しい特集記事が連載されており、その集大成と思われる。amazonでは"1980年代、バンドブームよりもちょっと前、コケティッシュな集団が顔にペンキを塗り独特のスタイルでティーンの女の子達に人気を呼んだ。その異端ミュージシャン達の巣窟「ナゴムレコード」について語る。"と紹介されている通りの力作だが現在は絶版。その中で「ナゴムギャル」という一群の熱狂的な女性ファンの存在が度々語られ、90年代半ばに篠原ともえ嬢が出てきた時、皆がナゴムギャルの再来だ、と思ったとあるが、私はばちかぶりと有頂天しかライヴは行ったことがないので生のナゴムギャルは目にしていない。ただし「宝島」などには髪をお団子にして小学生のようにリュックを担いだ派手なファッションの少女のグラビアが毎回紹介されていたのであれがナゴムギャルだったのだろう。



ナゴムにはもうひとつガール・アーティストの流れがあるが、余り聴かなかったのでバンド名を挙げるに止める。ロシアバレエ団、ミン&クリナメン、クララサーカス、マサ子さんなど。皆ナゴムならではのユニークなサウンドを聴かせるので興味があれば動画検索して欲しい。

ナゴムではないが、それに近いバンドを紹介しよう。楽しい音楽というテクノ・ユニットが1983年に「やっぱり」というEPをリリースしている。当時吉祥寺ぎゃていで活動していた私のインプロ・ユニットOTHER ROOMにドラムで一時参加していた大学の同級生のM君のお気に入りで何度も聴かされた覚えがある。謎のユニットだったが、ググったところYAPOOSのキーボードで現在作曲家/プロデューサーとして活動する吉川洋一郎氏やあがた森魚さんが関わっていたらしいとの情報を見つけたが未確認。初期ナゴムと共通する"真面目にふざけた"空気感が名前通り楽しい。



もうひとつは殆ど誰も知らないであろうK.D. & the Moon Light Band。1983年頃高円寺のパンク・バーBOYで飲んでいた時、カウンターのお兄さんから「売り込みで貰ったんだけどウチじゃかけられないから」とアセテート盤を貰った。聴いてみるとギャグ満載のローテク・テクノで大いに気に入った。さっそく「まよねえず」のレパートリーに加えた。お兄さんから事務所の連絡先を教えてもらったが連絡せずに終わった。以来どこでも名前を聞かないところを見ると一般には発売されず、数枚のアセテート盤が存在するのみのある意味超レア盤なのではなかろうか。ググってみると唯一2チャンネルの【横浜】横浜ロックの歴史【神奈川】というトピに名前だけリストアップされているのを発見した。実在のバンドではあったようだ。

ナゴムギャル
きゃりーぱみゅぱみゅ
聴いてみな

「ナゴム」と聴くだけで恥ずかしい青春時代を思い出す方も多いだろう。

★読者限定特別付録:幻のK.D. & the Moon Light Bandの音源がココで聴けます。




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