創刊38年を誇る音楽誌「フールズ・メイト」が休刊になった。HPには「リニューアルのお知らせ」として編集統括の羽積氏の文章が掲載されているが「音楽雑誌としての"形態"を止める」とは事実上の休刊/廃刊に違いない。1990年代以降はヴィジュアル系専門誌に変わってしまったが、元々は1977年に故・北村昌士氏が創刊したプログレ専門誌だったことは本ブログ読者には説明するまでもないだろう。誌名がピーター・ハミルの1stソロ・アルバムのタイトルから採られたことは現在の読者には知る由もないしその必要も無かろう。キング・クリムゾン、ヴァン・ダー・グラーフ・ジェネレイター、ゴングなどの亜流(?)プログレ~ヘンリー・カウを中心とするR.I.O./レコメン系~スロッビング・グリッスルをはじめとするインダストリアル/オルタナティヴ(90年代以降の「オルタナ」とは別モノ)~キュアーやエコバニなどのニューウェイヴ系と時代の変遷と共にマニアックに音楽性を変えた「フールズ・メイト」の影響は非常に大きく、現在日本の非メジャー・シーン(「アン○ラ」とは呼びたくない)で活動するアーティストの殆どは多かれ少なかれこの雑誌にインスパイアされている筈である。
羽積氏の文章にあるように情報の自由化に伴ってマスコミの在り方が変わったのは事実だし、CDやDVD等の流通メディアの存在意義も大きく変化している。オリコン最新号ではCDアルバム週間ランキングの1位が推定売上枚数32656枚。おそらく90年代のCD全盛期と一桁違うセールスだと思われる。10位になると8205枚。5桁にも届かない。あくまでひとつの指標に過ぎないが日本全国で1日平均1000枚売れればチャートの上位にランクインする訳だ。このブログで取り上げるアーティストの多くはセールス云々とは関係ないかもしれないが、世の流れとして気に留めておいた方が良い。個人的には「フールズ・メイト」の休刊はひとつの時代の終焉を意味しているような感慨がある。
それをつらつら考えていたら「音楽を聴く」とは一体どういうことなのか、という疑問に辿りついた。最近知り合いから「灰野さんのギターのいい作品を教えてくれ」と尋ねられた。その時は「不失者の最新作から聴いてみては」と答えたが、あとで「ギターがいい」とはどういうことなのか、と考え込んでしまった(決して尋ねた方が悪い訳ではないので誤解なきよう)。思い返すと灰野さんを聴く時に「ギターがいい」と思ったことは無い、と言うと語弊があるので補足すると灰野さんのギターだけを取り出して聴く訳ではなく、ギターも歌もアクションもファッションも空気感も全てひっくるめて灰野さんの存在を"感じて"いるのである。灰野さんに限らず、私の音楽の聴き方は常にそうだった。例えばきゃりーぱみゅぱみゅをルックスや声だけで気に入っている訳ではなく、中田ヤスタカ氏を始めとするスタッフの役割や原宿KAWAII/アキバカルチャーなどの社会現象を包括した"象徴=アイコン"としての彼女の存在に興味があるのだ。BO NINGENやアーバンギャルド、非常階段や坂田明さんにしても同様である。オーネット・コールマンやアルバート・アイラーや阿部薫さんは好きだが、彼らをサックス奏者として評価しているのではない。彼らの演奏に満ちた熱狂的な極端さ、音に潜んだ殺気に陶酔するのである。好きなバンド/ミュージシャンは誰ですか、と訊かれることが良くあるが、答えに窮することが多い。一番好きなアーティストは灰野さんに間違いないのだが、それが相手が求める答えなのかどうか迷ってしまうのである。単純に「灰野敬二」と答えても通じない場合が多いこともあるが。
記憶違いだったら失礼だが、最近チューバ奏者の高岡大祐氏がツイッターで「ライヴの物販で『どのCDが一番おススメですか?』と尋ねられるのが一番困る」というような発言をしていてなるほどと思った。アーティスト=制作者にしてみればどの作品も一生懸命作ったのだからひとつ選べと言われても困るに違いない。私も時々灰野さんのライヴの物販でCDの内容について訊かれることがある。その作品の物理的な内容、例えば使用楽器が何か、歌モノか演奏中心か、参加メンバーが誰か、ということは答えられる。しかし「どれが一番いいの?」と訊かれるとおいそれとは答えられない。その人が灰野さんの音楽に何を期待しているのか判らないし、いくら好きでもあくまで他人の制作物に優劣をつけることは出来ないからだ。そんなときは灰野さんの活動の中で重要な位置を占める作品、すなわちデビュー・アルバム「わたしだけ?」かその時点の最新作を薦めることにしているが、突き詰めていくと自分が灰野さんに何を期待しているのかが曖昧模糊としていることに気づく。灰野さん本人が映画「ドキュメント灰野敬二」の中で語っているように「好きだから」としか言いようがない。
そんな五里霧中の頭に的確な情報を与えるのがメディアの存在意義だと思うが如何だろうか。10代で音楽を聴き始めた頃、雑誌やラジオが何よりも重要な情報源だった。音楽評論家の言葉は金言だった。それが今やネットにより誰でもあらゆる情報に自由にアクセス出来る時代になり、メディアの新しい在り方を模索したい、というのが「フールズ・メイト」休刊の理由である。商業誌の変容を目の当たりにしてブログのようなミニメディアに何が出来るのかを考えていきたい。
マスメディア
自由の前で
瀕死状態
見つめる前に跳んでみようじゃないか!
おススメライヴなら任せなさい。
【青山ノイズ Vol.4】
11月5日(月)開場18:30/開演19:00
会場:青山CAY(スパイラルB1F/東京都港区南青山5-6-23)03-3498-5790
出演:沙無座:灰野敬二&いとうまく/JOJO広重 (非常階段)+穂高亜希子/蔦木俊二(突然段ボール)/DHF-M3:日野繭子+ JUNKO + 大西蘭子
▼青山通りのゴージャスな会場で極上のノイズを!
【灰野敬二ソロライブ ~研ぎすまされた 『愛している』 という響き~】
11月12 日(月)開場18:30 開演19:30
会場:南青山MANDALA(東京都港区南青山3-2-2 MRビル B1)03-5474-0411
▼昨年4月ロンドンでのソロライヴ。まさに研ぎすまされた魂の歌。