追悼のためにシルビア・クリステル様グッズを買い集め出した。「エマニエル夫人」関連のサントラ盤や映画パンフレット、写真集などをヤフオクで検索したり古本屋や中古レコード店で探し回るうちに出会ったのがアンヌ・アンデルセンというカナダの女性歌手による「エマニエル夫人」の日本語カヴァー・シングルだった。歌詞カードは二つ折りで広げるとエマニエル夫人=シルビア様の全身ピンナップになる。オリジナル・サントラ盤はペラジャケなのに、便乗商品が大々的に映画の写真を使っているのが不思議だ。たぶんオリジナルの男性歌手ピエール・バシュレよりも外人女性歌手が日本語で歌う方が話題になると映画会社が判断したのだろう。安井かずみ訳詞のため息混じりのつたない日本語の歌が果たして当時ヒットしたかどうか判らないが、現在は歌よりもエロジャケ・レコードとして一部のマニアに知られている。
その曲が収録されたアンヌ唯一の日本盤LPを入手した。帯には「カナダのトップ・シンガー、アンヌ...」と書かれており「エマニエル夫人」の他に石坂浩二が訳詞を手がけたアダモ「海のマリー」、グシェラ・スサーナ「サバの女王」「つめ」、ジョルジュ・ムスタキ「私の孤独」、ニコレッタ「想い出のサンジェルマン・デ・プレ」、八代亜紀さんも新作ジャズ・アルバムでカヴァーした、りりぃ「私は泣いています」など洋邦ポップス・カヴァーをカタコト日本語中心のハスキー声で披露している。大野雄二編曲の「想い出の~」以外は全曲歌謡界の大御所東海林修の編曲、唯一のオリジナル曲「アンヌのテーマ」はアンヌ作詞/東海林修作・編曲という気合いの入った力作である。このアルバムのクライマックスは何といってもA面2曲目の「あまい囁き」である。ナレーションは俳優の荻島眞一。元々イタリアの曲だが、アラン・ドロンとダリダによるフレンチ・ヴァージョンが世界的にヒット、日本でも様々な歌手がデュエット・カヴァーをしている。囁くのは女性ではなく、男性がホステスを口説くように語りかけるという腰砕け必至の迷曲。
これだけ一流どころを揃えたアルバムなのに未CD化のB級作品の地位に甘んじているのはちょっと怖いジャケット写真のせいかもしれない。ポーズが大信田礼子さんのジャケに酷似しているが意識したのか?
ライナーによるとアンヌは1946年10月22日アルジェリア生まれ。子供の頃家族でフランスに引っ越し、アルプス麓の田舎町で育つ。1969年パリに出てモデルとして活躍中にオランピア劇場のオーナーの目にとまり、期待の新人歌手としてデビューした。しかし家庭の問題でアンヌはカナダへ移り歌手活動を続けることに。1974年の「ロミオとジュリエット」がフランス語系カナダ地域で爆発的なヒットとなり、チャートの1位を数週間に渡って独走した。同年秋に日本コロムビアの招聘で来日しこのアルバムを録音した。ライナーには「独特のハスキー・ボイスがかった声、フランスのムードをそのまま感じさせてくれる様なアンニュイな歌い方はきっと日本でも数多くのファンを作るだろう」と書いてある。しかし日本でこのアルバムと「エマニエル夫人」のシングル以外出ていないところを見るとコケたに違いない。YouTubeに上がっているカナダのTV番組での「ロミオとジュリエット」の映像を観るとかの地でヒットしたのは確かである。
ディスコグラフィーのサイトを見つけた。それによるとカナダで1970~79年の間に13枚のシングルと3枚のアルバムをリリースしている。詳しいバイオが載っているサイトもある。フランス語なので殆ど判らないが、1975年に東京に行ったとか1985年にもレコードを出したとか2006年パリで再会したとか書いてあるようだ。どうやらまだご健在の様子である。3枚のアルバムがCD化されている。ジャケットはフランスらしいオシャレなデザインで写真も清楚な美人である。
現在日本では「エマニエル夫人」の日本語カヴァーがヨーロピアン・ポップス集に収録されているだけだが、幻の名盤解放同盟辺りでCD化すればフレンチ・ポップス・ファンやフェロモン・レコード・ファンにウケるに違いない。もし関係者がご覧になっていたら是非ご検討いただきたいものである。
人知れず
埋もれて行く
名盤よ
シルビア様探しが未知なる金脈を掘り当てた。