A Challenge To Fate

私の好きな一風変わった音楽を中心に徒然に綴ったページです。地下文化好きな方は見てやって下さいm(_ _)m  

MERZBOW/スガダイロートリオ@代官山 晴れたら空に豆まいて 2012.11.21 (wed)

2012年11月23日 00時25分25秒 | 素晴らしき変態音楽


圧倒的音群!!! ~MERZBOW/スガダイロートリオ~

スガダイロー氏は今年3月にピットインで”東洋一のフリージャズ・トリオ”=芳垣安洋+広瀬淳二+井野信義にゲスト参加した時の山下洋輔さん直伝のドシャメシャ奏法を増幅した激しいピアノが印象的で一度自己のグループで観たいと思っていた。スガ氏は荻窪ヴェルヴェット・サンを本拠地にしており、同じ沿線なのでいつでも観れると高をくくっていてなかなか観れないまま半年が経ってしまった。2ヶ月ほど前何かのライヴで配布されたフライヤーにMERZBOWとの共演とあり、これは絶好のチャンスと思ったが何故かフライヤーに会場名が記載されておらず、スケジュール帳に日付を記したまま忘れかけていた。その後別のライヴで同じフライヤーを入手。良く見たら会場名がスタンプで押してあった。印刷時に入れ忘れたのか意図的なものなのかは分からない。晴れたら空に豆まいて(以下晴れ豆)ではMERZBOW/吉田達也+菊池雅晃デュオ/TADZIOの3マンやピーター・ハミル来日公演を観たことがあり、代官山というシャレオツな街にしてはディープなラインナップを聴かせるハコという印象がある。名前で分かる通り青山・月見ル君想フの系列店である。

今年はJAZZ非常階段により<ジャズ+ノイズ>が注目を集めている。歴史を辿ればやサン・ラー、デレク・ベイリー、高柳昌行さんなどフリージャズ界ではノイズ的サウンドの追求が行われてきたし、タージ・マハル旅行団、ボルビトマグース、音源は残っていないが軍楽隊(阿部薫+灰野敬二+竹田賢一)など現代音楽/ロック/ジャズ/ノイズの融和も数多い。ジャズとノイズの関係は実は親密なのである。近年目立つのはかつてはカッコつきの「ノイズ」として特殊音楽に分類されてきたアーティストが積極的に他ジャンルへアプローチするようになったことだろう。非常階段、MERZBOW、ヘア・スタリスティックス、ASTRO、マゾンナなどが多彩な異種交流試合を通し「ノイズ」の壁を突き破り幅広いリスナーにアピールしてきた。先日レポしたようにBiS階段で<アイドル+ノイズ>まで実現してしまった。今まで”雑音”と訳され音楽を阻害する存在と敬遠されてきた「ノイズ」が低迷する音楽シーンの起爆剤のひとつとなるのは間違いない。

今回の2マンのタイトルは「圧倒的音群!!!」である。MERZBOWの音圧の凄さは周知の事実だが、対するフリージャズの音群とは如何に?その秘密はスガダイロートリオ=スガダイロー(pf)+東保光(b)+服部マサツグ(ds)の演奏で明らかになった。

スガ氏の流麗なピアノでスタートする。ブルース調の美しいフレーズが次第に熱を帯びてきたところに手数の多い細かいストロークのドラムが加わる。次第にに鍵盤を破壊するような激しいピアノ・プレイが炸裂。私の無人島レコードの一枚であるアルバート・アイラー「スピリチュアル・ユニティ」でのゲイリー・ピーコックの激情プレイを髣髴させるエモーショナルなベースが駆け巡り、3人が一斉に全力疾走。最近CD化された山下洋輔トリオの1973年オープンリール・テープのみのリリース音源「山下洋輔トリオ」の凄まじさに通じる武闘派フリージャズ。スガ氏は洗足学園で洋輔さんに師事、山下洋輔トリオの代表曲「キアズマ」をレパートリーにし、さらに「山下洋輔」という曲まで作った程その影響を詳らかにしている。1970年にホールで演奏中、音が隣の大ホールで行なわれていた読響「第九」演奏会にまで響きわたり、後日読響が『小ホールの騒音のため御迷惑をおかけしました』と新聞に謝罪広告を掲載した、というエピソードを持つ山下洋輔トリオの爆音演奏。スガダイロートリオの演奏はそれを想起させる迫力で爆発する。スガ氏の両手は目に見えないスピードで88鍵の上を自由自在に走り回る。キンキンに張ったスネアのカーンという甲高い破裂音がアクセントを加え、ベースの低音がのたうつ。特に印象的だったのは3曲目のバラード。弓弾きのベースが大らかなメロディを奏でるうちにピアノから亀裂が生じ始め全体が破綻し混沌へと導かれる。崩壊する一歩手前で留まり何事もなかったようにテーマへと回帰する。これほどのカタストロフに満ちた演奏を聴くのは坂田明さんの「ちかもらち空を飛ぶ」ライヴ以来だった。

10年ほど前から「ハードコア・ジャズ」という名でフリージャズの再評価が進んでいる。サン・ラー、アルバート・アイラー、セシル・テイラー、ドン・チェリー、デレク・ベイリー、ミルフォード・グレイヴス、阿部薫、高柳昌行・・・。60~70年代フリージャズの闘士の演奏はまさに「ハードコア」そのものであった。この日のスガダイロートリオの演奏は「ハードコア」時代のジャズの香りが濃厚に漂っていた。和風のステージ意匠も相まって強烈に昭和の匂いを感じた。この演奏が「インスピレーション&パワー14」に収録されていても何の違和感もない。「21世紀の日本でただ一人のフリージャズピアニスト」の真髄が漲った演奏に完全にノックアウト。



続いてMERZBOW。8月のFREEDOMMUNE 0<ZERO>の演奏も強烈だった。この日は最前列スピーカーの真ん前で聴いたのでその大音量のシャワーを全身に浴びた。Macがセットしてあるがサウンドの殆どは無数に並んだエフェクター群により生成される。丸い金属板に針金やスプリングを付けたオリジナル楽器をヴァイオリンの弓や空き缶で擦ってガギギギギという爆音を発する。ペダルで音色を変化させ空間を捩じ曲げワープさせるサウンド・ストーム。インキャパシタンツやマゾンナのように視覚的要素がある訳ではないし、ヘアスタのユーモアもない。ひたすらシリアスに轟音を放出するだけの純正ピュアノイズ。一見(一聴)同じように聴こえるノイズも聴けば聴くほど多彩な世界を発見し味わいの豊かさが判るようになる。MERZBOWが何百種類も作品をリリースし続けるのはその枚数分の多様性を表現しているからに他ならない。光のスピードで放出されるエネルギーに身を委ねていると次第に魂が離脱して浄化されていく。





最後にスガダイロー氏とMERZBOWのセッション。電気増幅されたノイズにアコースティック・ピアノで太刀打ち出来るのだろうか。MERZBOWがジャズメンとセッションするのは初めてではなく、昨年ピットインで坂田明&ちかもらちとの共演を観た。しかし会場がジャズクラブだったのでいつもの大音響ではなかった。晴れ豆なら何の遠慮も要らないので最大音量の轟音セッションが期待できる。スガ氏が鍵盤を叩くように弾き始める。MERZBOWがギアをトップに入れてノイズを奏でる。それにお構いなく細かいパーカッシヴな連打を重ねるスガ氏。両手がまたもや霧散してしまうハイスピード。ピアノから発する音の弾幕で襲いかかるノイズの壁を突き破る勢い。無表情のままひたすら叩き続けるスガ氏。空中でぶつかり合い火花を散らす二つの音。楽器は違うがこれはまさに「解体的交感」=阿部薫+高柳昌行の現代版である。寄り添うことなく絡み合い反発しあう音の中に生まれる魂の交感。張り詰めた緊張感のめくるめくスリルに酔い痴れる。15分間譲り合うこと無く走り続けた果てに拓かれた新天地。満員の客席から大歓声と拍手が沸き上がる。一歩も引かず闘い抜いたスガ氏に心から拍手を送りたい。死闘だったのか、とスガ氏に尋ねたら「相手の音を聴かないのもひとつの方法だと思って」との答え。なるほど。手前味噌になるが私が30年前にやっていたOTHER ROOM(遠い部屋)のコンセプトは"別々の部屋での演奏を同時に聴かせる"というものだった。スガ氏の返事にそれを思い出した。

物販で志人とスガダイロートリオの共演アルバム「詩種」を購入。蓮の花のように開く特殊パッケージ。PCに入れるとジャンルはRapになっている。しかし"チェケラ!"のラップではなく吟味した言葉を時にゆったり時に高速で連射する歌はジェンル分け無用のオリジナリティに溢れている。NHKのアナウンサーのような真面目一徹の語りはやはり極めて昭和っぽい。<詩+ジャズ>は1950年代から模索されて来た歴史がある。このCDは原点に戻り真面目に両者の並走を突き詰めた作品。その不器用なまでの生真面目さは昭和的としか言いようがない。



今回のイベントは2010~2011年にスガダイローの「即興八番勝負」として様々なミュージシャンとプロレス的な硬派なバトルを展開して来たスガ氏の新たなる挑戦の始まりと言えるだろう。

タイマンで
向かって来いよ
敵に不足なし

ピアノの闘士スガダイロー氏に音楽の将来を賭けてみたい。

コメント (2)
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