A Challenge To Fate

私の好きな一風変わった音楽を中心に徒然に綴ったページです。地下文化好きな方は見てやって下さいm(_ _)m  

沙無座=灰野敬二+いとうまく/JOJO広重/DFH-M3/蔦木俊二@青山CAY 2012.11.5 (mon)

2012年11月07日 01時35分37秒 | 素晴らしき変態音楽


japanoise.net presents 青山ノイズ Vol.4

世界でリスペクトを受ける日本の音、ジャパノイズ。そのアヤしくも純粋な世界を探検しに行こう!
日本のノイズ音楽・実験的電子音楽は、欧米でジャパノイズ(japanoise)と呼ばれ、日本発のエクスペリメンタル・ミュージックとして関心を集める。ジャパニメーションに続く日本発のクール・メディアとも呼ばれる。今回ジャパノイズのトップ・アーティストがCAYに集結、このチャンスを見逃がすな!

出演:沙無座:灰野敬二&いとうまく
   JOJO広重 (非常階段)+穂高亜希子
   DHF-M3:日野繭子 / JUNKO / 大西蘭子
   蔦木俊二(突然段ボール)

1981年にピナコテカ・レコードからLP「Nord」(1981)でデビューしたNord(ノール)は日本で最初にレコードをリリースしたノイズ・バンドのひとつである。それ以前からメルツバウなどがカセットはリリースしていたが、ノイズ系で12"ビニール盤をリリースしたのは大竹伸朗さんの「Juke/19」(1980)が最初だと思われる。次に非常階段/ジュラジューム/NGのオムニバス「終末処理場」。それに続いたのがNordだった。非常階段の1st「蔵六の奇病」が1982年、メルツバウのLP「マテリアル・アクション2」が1983年。この時代が日本のノイズの夜明けだと言えるだろう。

Nordは1stリリース時は及川洋氏と片山智氏のデュオで、私がバイトしていた吉祥寺ぎゃていにも何度か出演していた。しかし1983年に分裂し「及川 Nord」と「片山 Nord」に分かれる。及川氏はLP「LSD」(1984/限定200枚)、「Ego Trip」(1985/限定100枚)をリリース。片山氏はメルツバウ=秋田昌美さんのZFKレーベルからメルツバウ、KK Nullとの共演カセット「B-Semi Live: 24th May 1984」(1984)をリリースするが、そこにパートナーとして参加したのが伊藤まく氏だった。まく氏はムーンライダースの鈴木慶一さんの水族館レーベルのオムニバス盤「陽気な若き水族館員たち」(1984)でポップ・デュオChildrenとしてデビュー、慶一さんから「日本人でこんな歌聞いたことがない」と評されたとのこと。ポップとノイズの両方で活動していたことがまく氏のユニークなところ。

Nordとしてはノイズ・アーティストK2主催のKinky Music Instituteから「Electric Initiation」(1999)、まく氏が立ち上げたjapanoise.netから「December Calling」(2001年)をリリース。japanoise.netは元メルツバウの水谷聖さん、白石民生さん、美川俊治さんなど日本のノイズのオリジネーターから故・田野幸治氏(MSBR)の電子雑音周辺アーティスト、新世代ノイズ/アート/舞踏パフォーマーまで巻き込んで、世界に向けて日本のノイズ=ジャパノイズを発信する重要な存在として活動する。

前置きが長くなったが、japanoise.net presentsとして2010年8月に大友良英さん+美川俊治さん+いとうまく氏のトリオのトーク&ライヴを目玉に青山CAYで開催されたのが「青山ノイズ」である。オシャレな街、青山とノイズとはミスマッチなようだが、それまでもCAYではホワイトハウスやサーストン・ムーア+ジム・オルーク+マッツ・グスタフソンによるディスカホリック・アノニマス・トリオなどが来日公演を行ったり灰野さんと秋田さんのデュオKikuriや電子雑音主催のイベントが開催されたりして、実はノイズ・ファンには馴染みのある会場である。第1回青山ノイズはLPでリリースされ話題になり同年12月のVol.2は灰野さんといとう氏のデュオ沙無座が出演、2011年12月のVol.3ではKK NULL/Reiko. A(元メルツバウ)/美川俊治さんが出演、このイベントでしか観れないユニークな企画を実現してきた。

Vol.4となる今回は正にジャパノイズを代表するアーティスト4組の超豪華イベントとなった。内容が決まるに従いまく氏がツイッターやフェイスブックで小出しにする情報が更新される度に期待に胸のときめきが高まった。この組み合わせに実は深い縁があったことは後述する。

会場には出演ミュージシャンとそのスタッフや良くライヴで見かける顔やフェイスブックの友達の方が多くいて、とてもリラックスした雰囲気。CAYの南国風の内装が不思議と似合う。BGMのシャレたフュージョンも青山らしく違和感が無い。

女性司会者が出演者を紹介する。複数のアーティストが出演するイベントでは事前に出演順を確認しておかないとバンド名が分からない時が多々あるので、ノイズに馴染みの無いお客さんには親切な計らいだ。

一番手はJOJO広重さん+穂高亜希子嬢のデュオ。穂高嬢はベースを演奏。今まで何度も広重さんのソロ・ライヴを観てきたが、完全なソロ演奏の時以外は必ず細身の可憐な若い女性ミュージシャンがバックを務める。以前はエンジェリン・ヘヴィ・シロップやドゥードゥルズのメンバーだった。広重さんは埋火、とうめいロボ、中山双葉嬢など若手女性ミュージシャンのプロデュースをしているし、自己のブログを抜粋した文庫本「みさちゃんのこと」でも少女漫画や女性シンガーへの愛情を綴っている。そもそもパートナーがSleeping Beauty=JUNKOさんなのでスリム&ロングヘアーの清純派女性への傾倒ぶりが判る。これ以上の妄想精神分析は辞めておくが。。。穂高嬢とはこの2年ほど一緒に活動することが多い。そのクリスタル・クリアーな歌は広重さんならずとも陶酔してしまう魅力があるが、今回のようにノイズ・ギター弾き語りのバックで観るのは初めて。広重さんが立ってギターを掻き鳴らして歌い、穂高嬢が座ってベースを弾いた。7年くらい前、毎日のように灰野さんと広重さんのソロばかり交互に聴いていた時期がある。広重さんの耳に突き刺さるギターと「死」「地獄」「死神」といった絶望感溢れる歌詞を怒声で歌う曲に逆に心を癒された。精神的にかなり参っていた時期で、広重さんの歌に生きる希望をもらったのである。1曲目「ソングス」でその頃の気持ちが湧きあがる。非常階段や最近のカヴァー中心のソロとはひと味違い、以前のソロ作で聴ける”怒り”を内包した演奏。2曲目はINU「メシ喰うな」のカヴァーだが、完全に自分のものに消化している。穂高嬢も細腕に似合わぬブンブンしたベース・プレイで弦を切ってしまう程の熱演。3曲目「神を探しに」の鬼気迫る歌に圧倒される。25分の演奏だったが、気合いの入りまくったプレイはこのイベントの幕開けに相応しかった。あとで尋ねたら穂高嬢は人前でベースを弾いたのは初めてとのこと。



2番手は女性ノイズトリオDFH-M3=日野繭子さん+JUNKOさん+大西蘭子さん。日野さんは長谷川洋氏=ASTRO、長久保隆一氏(現・宇宙エンジン)、コサカイフミオ氏(現・非常階段、インキャパシタンツ、宇宙エンジン)と共に1989年に結成されたノイズ・バンドC.C.C.C.のメンバーで、JUNKOさん、元メルツバウのReiko. Aさんと並ぶ女性ノイジシャンのオリジネーターである。大西さんは演劇実験室・天井桟敷~田中泯主宰・舞塾出身の舞踏パフォーマーで日野さんとのデュオ「Mne-mic」としてCDもリリースしている。JUNKOさんについては本ブログ読者には説明するまでもないだろう。このブログを少し読めば私が女性アーティスト愛好家(女好きともいう)であることはバレバレだが、このトリオも女子3人というだけで惹かれてしまう。しかも”ノイズバンド”というのだから堪えられない。実は夏に彼女たちのライヴを観る機会があったのだが所用で行けなかったので待望のご対面である。ステージ左手に置かれた木の樽の上で大西さんが踊りながら金属のたらいの中に小石を落とすパフォーマンスでスタート。石が落ちる音が拡大されてカキーンと鳴り響く。
[11/7追記:日野さんからのご指摘。大西さんが落としていたのは小石ではなく釘108本だとのこと。108の煩悩ならぬ釘とはこれまた象徴主義的コンセプチュアル・パフォーマンスである]
日野さんとJUNKOさんが登場して電子ノイズと金切り声が始まり大西さんもヴォイスで加わる。サイケデリックなビデオ映像がバックスクリーンに投射され演奏と同期する。大西さんのディアマンダ・ギャラスのような「ドスの効いた(by まくさん)」ヴォイス&アクション、JUNKOさんの唯一無比の高周波シャウト、日野さんのテルミンを使った少林寺拳法のような動きで奏でる電子音。バンド名は「Divas From Hell - Monju3=地獄の歌姫~文殊トリオ」の意味だが、私には天国の調べに思えた。3人の産み出すサウンドが聴き手を包み込み、子宮の中にいるような温かい安らぎを感じる。30分弱の演奏が終わると日野さんがMC。C.C.C.C.のラスト・ライヴが突然段ボールとの対バンだったこと、12/22に渋谷Bar IssheeにDFH-M3が出演するが、スペシャル・ゲストとしてASTRO=長谷川洋氏と14年ぶりに共演すること、それが実現できたのが広重さんとJUNKOさんのおかげであること、そのことを蔦木さんと広重さんが揃うこの日に発表したかったと語る。さらにその日は大西さんの誕生日でもある。曰く付きの3者が一同に会したことはまさに必然だったのかもしれない。



3番目に蔦木俊二さん。最近突然段ボールを聴き返して気に入っていたのでこれも待望のライヴである。俊二さんがリーダーの突段は1度だけ観たことがある。昔に比べロックっぽくなっていて驚いたが、CDを聴くと突段らしいシュールさが健在で安心した。俊二さんのソロを観るのは初めて。アコギの弾き語りで「ノイズじゃなくてスミマセン」とひと言。1曲目がライヴ盤「東京ロッカーズ」収録のミラーズの「Situation」だったのでビックリ。ミラーズは東京ロッカーズの中で一番好きだったバンド。彼らの曲のカヴァー、しかもアコースティック・ヴァージョンなんて聴いたことがない。確かに原曲に忠実な演奏で改めてミラーズの曲のメロディの良さに気がつく。「酔っ払っているので間違えるかも」と言いながらケヴィン・エアーズとビートルズの曲を歌い、最後2曲はオリジナル。1曲は新曲、ラストが何とデビュー曲の「ホワイトマン」。「バンドだとソラで歌えるんだけどソロだと間違えるので」と言いながら歌う。30年前の曲とは思えない新鮮なメロディ。80年代の曲は当時どんなに過激に聴こえてもちゃんとしたいいメロディを持っていたことが判る。ノイズ演奏が2つ続いたところで弾き語りが入り、いいアクセントになった。この出演順は正解。妖艶な舞いを踊る二人の女性ダンサーが蔦木さんの歌を空間的に引き立てていたのも良かった。



最後が灰野さんとまくさんのデュオ沙無座。このユニット名では3度目の共演だと思う。その前にも共演歴はあるが「沙無座」という名前になったのは2008年12月のjapanoiseイベントから。基本的に灰野さんがギターとヴォーカル、まく氏が電子楽器という秋田さんとのKikuriと同じ編成だがサウンドの感触はかなり違う。まく氏のプレイは前面に出ず灰野さんの背景に隠れながらも確実に演奏の流れを作っている。前回は「カモミン」というカモメ型テルミンを使い視覚的に楽しませてくれたが、今回はステージ奥でのキーボード演奏が多く傍目には灰野さんのソロのように見えるが、音を聴くと間違いなくまく氏のバックアップが活きているのが判る。彼のポップ・センスが強靭な灰野さんの演奏に柔軟なポップ感を付加しているのは間違いない。灰野さんはいきなり轟音ギターからスタートし、途中から静かな爪弾きに渾身のヴォーカル、後半はハーディーガーディーの弾き語り、最後に再びギター、とストーリー性のある演奏。地元川越の映画館でのミニ・ライヴ、ジョン・ケージのイベントへの出演はあったが、日本での正規のパフォーマンスとしては9月27日の不失者以来5週間ぶりなので気合いの籠った演奏を聴かせる。素晴らしいヴォーカルもたくさん聴けて充実した50分間だった。沙無座は音源がCD化されていないので灰野さん関係のプロジェクトの中では余り知られていないが、もっと評価されるべきユニットだと思う。是非とも作品のリリースを望みたい。



物販コーナーを覗くと出演者のCDやCDRに交じって前述のNordのピナコテカのデビューLPが販売されていてビックリ。今や初期ノイズのレア盤として国内は勿論、海外のコレクターが血眼になって探しているブツである。5000円と高めだったので買う人は余りいなかったがe-bayに出せば250ドル(約20000円)は下らないレアもの、投資として購入しようかと思ったほどだ。日野さんが在庫を持って来たという。何故まくさんじゃなく日野さんが?と思ったが尋ねるのを忘れた。

会場には丁度来日中のサーストン・ムーアが新バンドのメンバーを連れて観に来ており、灰野さんや広重さんと歓談していてちょっとした先端ミュージシャン・サミットの様相を呈していた。

胸を張れ
日本が誇る
ジャパノイズ

いとうまく主催イベント<Stoned Soul Picnic Vol.50>
12/18(火)高円寺 ShowBoat 出演:向井千恵+いとうまく+工藤冬里/Maher Shalal Hash Baz/ソルジャーガレージ and more

<灰野敬二ライヴ情報>
11.12(月) 南青山 MANDALA <研ぎすまされた『愛している』という響き> 灰野敬二ソロライブ
11.18(日) 渋谷公園通りクラシックス 「肉体と肉声」灰野敬ニ(ギター・パーカッション・ダンス)+原田雅嗣(ピアノ・声)
11.22(木) 心斎橋 島之内教会 「肉体と肉声」灰野敬ニ(ギター・パーカッション・ダンス)+原田雅嗣(ピアノ・声)
11.24(土) 和歌山市OLDTIME 裸族×お還りなさいpresents 「裸に還りな祭 vol.4」
11.27(火) 岡山 パダンバダン
12.15(土) 新大久保EARTHDOM BIGスパゲティ企画 「雑煮音鍋セッション祭VOL.3
12.21(金) 六本木SuperDeluxe SDLX十周年記念ワンマンLIVE 不失者
12.24(月・祝) 秋葉原CLUB GOODMAN 「静寂」 Last Live ブラック・クリスマス
12.30(月) 高円寺ShowBoat 灰野敬二 ワンマンライブ
コメント (2)
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