灰野敬二 ~生誕記念公演~
この たった今が 燃え尽きて
次の今 に
捧げているのを
見続けて いたい
正確な記録は無いが灰野敬二生誕記念公演に初めて行ったのは2003年の筈だから今年で11年目。正月に家族の誕生日や結婚記念日と一緒にカレンダーの5月3日の欄に「灰野誕生日ライヴ@ShowBoat」と記入するのが年中行事になっている。毎年夏フェスや贔屓のアーティストの誕生日やクリスマス・コンサートなどに通っている人も多いだろうがそれと同じである。初めての生誕ライヴの時意を決して楽屋に押し掛け挨拶をしたのが灰野と直接話した最初だと思う。緊張感はあったがそれ以上に灰野に自分の思いを伝えたいという気持ちが大きかった。吉祥寺GATTYのことや前年の新宿ロフトでの山崎マゾとのデュオの感想を話した。「前衛とかアヴァンギャルドとかどうでもいい。僕がやっているのはロックだから」と力説していたのを覚えている。そこで知己を得てライヴの度に挨拶を交わすようになった。翌年の生誕ライヴでは終演後スタッフの誕生会に参加させてもらった。差し入れのギター型ケーキが印象に残っている。
毎年毎年5時間以上に及ぶロングセットを観てきたがこの日ライヴを観ながらこれはやっぱりミラクルな体験だとつくづく思った。10年前とは客層がガラッと変わり若いオーディエンス、特に女性の姿が増えた。初めて観る人も多いだろうが果たして通常のコンサートの倍以上の長時間のステージだと知っているのだろうか?
(写真・動画の撮影・掲載に関しては出演者の許可を得ています。以下同)
変化の少ない電子アンビエント音響が50分に亘って続く冒頭部で既に陶酔とも睡魔ともつかない幻覚的な精神状態に陥る。様々な民俗楽器、ギター、パーカッション、エアシンセと次々に持ち替えて演奏し歌う灰野の姿がビデオ・ライティングに滲んでいく。2時間過ぎた頃からいつまで続くのかという不安で客席が落ち着かなくなる。お尻が痛くなりもぞもぞ身体を動かす人、トイレに立つ人、スマホで時間を確認する人・・・。演奏が一段落し灰野が楽屋の方へ向かうとそろそろ終わりかと期待するがその度に別の楽器を持ってくるので嗚呼まだかと思う。永遠と思える時間の果てに最後の一音が消えて終焉を迎えるが観客は解放された安堵感に拍手をする気力もなく呆然としたまま。これがもう一回繰り返されるかと思い暗澹たる気持ちになる人もいるだろう。数人はもう十分と会場をあとにするが大多数は最後まで付き合おうと覚悟を決めたらしい。
第2部は轟音ギター中心だが大音量が眠気を誘い舟を漕ぐ人が続出。演奏が途切れた一瞬の静寂にハッと目を覚ますがまた始まる爆音が子守唄に。時間の感覚が麻痺したせいか第1部に比べ第2部は長さを苦痛に感じない。気力を取り戻した客席からアンコールの拍手が起こり本編でやらなかった代表曲「おまえ」のリフで舞踏を思わせる激しいアクションを見せる灰野。これを最後に灰野の魔術から解放されて安心して時計を見ると夜の11時。計ったように正味丁度5時間。
61歳という年齢でこれだけ長時間に亘って濃厚な演奏が出来ることはもちろん驚異的だがむしろ特筆すべきは灰野が何十年もこれと同じことを続けてきたという事実である。気が遠くなる程の精神力または狂気? 以前も書いたがこんな人間は世界中いや歴史上どこを探しても存在しないだろう。これほどの奇蹟を体験出来ることこそ奇跡的というしかない。トム・ヴァーレイン(ヴェルレーヌ?)を観た時「もう死んでもいい」と思ったが灰野を観ると「まだ死にたくない。長生きしてもっともっと灰野の演奏を聴きたい」と強く願う。この日の演奏を観た限りでは灰野は相変わらず精神・肉体共に充実の極みにあるので来年の生誕記念公演まで密度の高い活動を続けるのは間違いない。こちらが健康でいれば引き続きミラクルを味わえる筈だ。そのために心と身体の鍛錬を怠らないようにしようと堅く決意した。
生誕の夜
燃え尽きることは
あり得ない
「孤高」のひとことで灰野敬二を語ることはできない。
<灰野敬二ライヴ・スケジュール>
5.17(fri)国立地球屋 「ドラマー、サミーに捧ぐ」
doronco (bass play)/灰野敬二+三浦真樹/LAPIZ TRIO (LAPIZvo,g+横山玲b+中村清ds)/らりは/ヨシノトランス+川口雅己
5.30(thu)六本木Super Deluxe
リシャール・ピナス (エルドン)/灰野敬二/メルツバウ/吉田達也
5.31 (fri) Mt.RAINIER HALL SHIBUYA PLEASURE PLEASURE「真夜中のヘヴィロック・パーティー」
頭脳警察/外道/灰野敬二/ROLLY/非常階段/キノコホテル/騒音寺/ザ・シャロウズ