DAYS OF ABANDON/The Pains of Being Pure at Heart
ブルックリンのシューゲイス/インディーポップ・バンド、ザ・ペインズ・オブ・ビーイング・ピュア・アット・ハートのサード・アルバム。マイ・ブラッディ・バレンタインの復活作『mbv』を手掛けたアンドリュー・サヴールをプロデューサー/エンジニアに起用。
21世紀に入って沸き上がったマイブラ礼賛とシューゲ人気については、当初ちょっと醒めた目で見ていた。個人的90年代ロック史に於いては、マイブラやシューゲは、マンチェ/インディダンスとブリットポップの狭間に咲いた徒花のような一過性のブームという位置づけだった。しかし、2000年以降多くの新世代バンドがシューゲやマイブラの影響を公言して憚らない状況を目の当たりにすると、過去ブームとして葬り去ることは出来なくなる。特にCD不況に苦しむ音楽業界で、シューゲの名の下にメディアが踊り、バンドが団結し、ファンが盛り上がる現象は、アイドルブームに通じるプラス要因として評価すべきであろう。
といった言い訳がましい前置きをしなければならないほど、筆者の心の中には、正面切ってシューゲを語ることに対する蟠(わだかま)りがあるのかもしれない。ましてや、90年以前のロック体験を記憶から紐解くことは、相当な苦行ではかなろうか?80年代の黒歴史の暗闇に何が隠れているのか暴き出すことが、リハビリ中毒を助長することになるまいか?---そんな躊躇いをこの「純心苦痛」バンドが払拭してくれた。
The Pains Of Being Pure At Heart(純な心でいる為の苦しみ)という詩的なバンド名は、長変名(長くてヘンテコなバンド名)の系譜であると共に、筆者の80年代マイフェイバリットのひとつAnd Also The Trees(そしてまた木々が)に通じる。毎回女子力発揮アートワークで目を惹くペインズの3rdアルバム『諦めの日々(Days Of Abandon)』も韓国釜山出身の新進画家ジンユ・リー(Jinju Lee)の作品を用いた印象的な女子ジャケ。シューゲ色の強かった前2作から、ファズのスイッチを切り、フローするメロディーを全面に浮き上がらせた作風は、決して斬新なものではないが、齢40以上の英国ロック愛好家には堪えられない秘密のスパイスを振り掛けてある。そのスパイスは、愛国心に燃えるブリットポップがマスキュリンなメロディー主義を打ち出す以前の、内気で自信無さげな英国人のフェミニンな歌を聴いて育った継木の嫡子に違いない。
UKロックのフェミニン度数が最大値を観測したのは1986年。有力音楽誌NMEがリリースした『C86』というカセットテープに収録されたインディーバンド群に象徴されていた。『C86』という言葉は、初期UKインディーポップを表すカテゴリーとして使われる。別名「ジャングルポップ」とも呼ばれるサウンドの感触は「60年代のザ・バーズに象徴される12弦ギターにパワーポップの覚え易いメロディーを乗せたもの」と説明される。個人的には「サイケ感覚のドリームポップ」と呼ぶのがしっくりくる。まあ、大方のカテゴリー同様に、全部同じ名称で括ること自体無理があるが、このカセットに収録された楽曲は、女子ボーカルものは圧倒的に少ないにも拘らず、男臭さよりも女性的な繊細さを感じてしまう。女々しいとかひ弱という意味では無く、例えば一曲目のプライマル・スクリーム「ヴェロシティ・ガール」を、後の「ローデッド」や「ロックス」と聴き比べれば明らかな「夢見る乙女性」の発露である。
暇ついでにようつべの動画を集めて『C86』を再現しようかと思ったら、当然ながらプレイリストが既に作成されていた。
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28年前に思いを馳せながらペインズの新作を聴いているのだが、残念ながら推しメンの紅一点ペギー・ワン(key)が脱退してしまった。新作にはA Sunny Day in Glasgowというバンドのシンガー、ジェン・ゴマがゲスト参加し、2曲でリードヴォーカルを取っている。今年のフジロックで来日が決まったが男子4人ばかりでは華がない。ペギーじゃなくてもいいので、素敵な女子メンを探すことが急務であろう。
ロックでは
筋肉よりも
子宮が強い
▼リクエスト可能なら、元アソビ・セクスのユキ・チクダテをキボンヌ。
【急報】「JAZZ非常階段+JAZZBiS階段」2014年4月22日(火)新宿Pit InnのライヴレポートをJAZZTOKYO最新号に書きました。写真28点掲載!⇒コチラ