アルケミーレコードからChe-Shizu(シェシズ)のアルバム2作が再発された。現在は関西を拠点に即興表現ワークショップを主宰する二胡奏者・向井千惠を中心に工藤冬里(g,p)、西村卓也(b)、高橋朝(ds)により1981年に結成されたシェシズは、日本民謡と抒情歌謡と無国籍民族音楽(ワールドミュージックやエスノと呼ばれる以前)の要素を備えたエキゾチックな歌とサウンドで、当時のアンダーグラウンド・シーンを象徴する存在だった。今回の再発を報じるナタリーの記事になぜか筆者が2011年大震災直後に撮影しブログに載せた写真が無断使用されているのもご愛嬌。
⇒向井千恵率いるシェシズ、1984年発売の「約束はできない」ほか復刻
⇒シェシズ/マヘル・シャラル・ハシュ・バズ@八丁堀 七針 2011.3.21(mon)
しかし今回の主役は彼らではない。筆者が初めてシェシズを聴いたとき、なんだか似てるな、と頭に浮かんだのがカレリア(KARELIA)というグループの『SUOMI POP2』というLP。購入したのは浪人時代1981年5月14日予備校近くのディスクユニオンにて480円。当時レコメン系ユーロロックに心酔していたが、新品のヨーロッパ盤は3000円以上の高値で販売されており、貧乏予備校生には手が出せなかった。そこでキング・ヨーロッパロック・コレクション1800円などの国内廉価盤を買うか、中古盤を漁ることになる。エサ箱で見知らぬ国のレコードを見つけたら興味津々、ジャケ買いすることが多かった。ただのフラメンコやタンゴやフォルクローレの肩透かしも多かったが、中には想定外の奇抜なサウンドに心トキメくこともあった。
カレリアはまさに後者の最好例で、運動会のBGM風の軽快なフィドルのフォークダンスチューンとブルージーなファズギターが交互に現れる謎展開と、酔っ払ったオヤジの素っ頓狂な歌声の狂気の凶器サウンドに驚喜し狂喜した。友人のアパートの空き部屋で拾ったティラノサウルス・レックスのレコードで聴いて驚いたマーク・ボランのビブラート・ヴォイスの1万倍凶悪だった。勿論当時はインターネットなどなく、『Fool's Mate』や『マーキームーン』のレビューやユーロロック・カタログに掲載されることもなかったので、スプートニクス「霧のカレリア」や「スオミ」がフィンランドを意味することを辞書で調べた程度で、正体不明の謎のまま早30余年が経過した。
シェシズの再発のニュースに、レコード棚の奥でユニヴェル・ゼロとプラスティック・ピープル・オブ・ザ・ユニヴァースに挟まれていたカレリアのLPを取り出して数十年ぶりにターンテーブルに乗せてみた。流れ出す脱力泥酔ポップサウンドは、記憶と異なりシェシズに似ても似つかぬ笑撃破壊力。さっそくググってみた。
|アーティスト| KARELIA
|タイトル| SUOMI POP
|商品情報| ROCKET RECORDS (FIN) / FIN / CD / PGL-22743 / 2013年03月05日 / 2,500円(税込)
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元BLUE SECTIONのPekka Sarmanto(b/vln:本作ではPedri Sirmakka名義)をはじめ、幻の名作である'71年作『PLASTIC MAAILMA』を発表、後にUNISONO/HURRIGANESで活躍するParoni Paakkunainen(vln/flu/sax/key:本作ではArmas Nukarainen名義)、APOLLOやTomasz Stańk/Raoul Björkenheim等Jazzシーンで活躍した故Edward Vesala(dr/per:本作ではIivana Nyhtänköljä名義)、後にPIIRPAUKEで活躍するIlpo Saastamoinen(g:本作ではAslak Nunnu名義)等、錚々たるメンバーにより結成された幻の覆面Psyche Trad/Folk Rockグループ、70年代初期に発表した公式音源三作品から編纂された'13年コンピ盤が登場!同国の民謡/童謡からJoiku等Trad/Folkloreまで土着音楽をPolka/Blues/Folkrock調にre-arrangeしたPsyche Pop作。管/弦楽器を多用したFolkタッチならではのシンプルさと、一貫して軽妙かつユーモラスなストレンジPop arr.が素晴らしく小品中心の構成とも相まって、シンプルなサウンドにも関わらずToy Music的なカラフルでチープな小粋さが埋まった、味わい深いコンピ盤に仕上がっています!!(Disk Union HPより)
固有名詞はチンプンカンプンだが、70年代初期の由緒正しい北欧ミュージシャンの覆面プロジェクトらしい。主要メンバーはジャズ畑なので、こづかい稼ぎのアルバイトかもしれない。中世農夫姿のジャケ写は子供向けのコスプレか、はたまたフランク・ザッパ&マザーズへのオマージュか。泥酔ヴォイスがフィンランド民謡の特徴なのか、ただの悪ふざけなのかは未解明のまま。おそらくフィンランドでも知る人ぞ知るレアな存在なのだろう。だからと言ってプレミア盤ではなかろうが。何処から流れて御茶の水のレコ屋に辿り着いたか知らないが、さもしい浪人生に拾われて30余年を共に過ごしたからには、何かの所縁があるのだろう。シェシズ『約束はできない』と一緒にそっと並べておくことにしよう。
お百姓さん
鍬を担いで
酔っ払う