
高校のブラスバンド部の同級生にYさんがいた。笑顔が可愛い小柄な女子で、密かに憧れていた。彼女はアルトサックス、筆者はバリトンサックス。サックスパートで唯一の同級生なので一緒に練習することも多かったが、奥手な筆者は、告白するどころか、気軽に話すことも出来なかった。ン十年前の丁度今頃、高3の文化祭のあと、打ち上げ会場の荻窪の喫茶店に向かって歩きながら、初めて二人だけで話が出来たことが唯一の甘い想い出である。その後どちらも受験に失敗し同じ予備校に通っていたが、コースが違うので会うことは少なかった。ある日、偶然帰り道に見かけた時、ドキドキしながら声を掛けたら、駅で同期の男子が待っていた。
そんな想い出と関係あるのかないのか分からないが、サックス女子には無性にトキメイてしまう。ギター女子もいいけれど、艶かしいカーヴを描く金色のボディに優しく添えた指と、マウスピースを銜える濡れた唇に、「嗚呼!サックスになりたいいいい」と悶える男子は少なくないに違いない。しかも清楚な深窓のお嬢さんが、いきなりビビビギュイギュイピーピーギーギーと驚天動地のフリークトーンを吹きはじめたらどうだろう。驚喜の叫びをあげる暇もなく、LOVEずっきゅんとハートを射抜かれて、よだれを垂らしてそのまま昇天間違い無し。そんな魔性のサックス女子が続々登場する極端音楽シーンの実りの秋を召し上がれ。
●吉田野乃子『Lotus』

北海道出身ニューヨーク在住のアルトサックス奏者吉田野乃子の初のソロアルバム。1年前から取り組んで来た、ループステーションを使ったソロ演奏の完成型。分厚いサックス・アンサンブルは、多重録音ではなく、生演奏でのソロパフォーマンスの一発録音。家族への想いや生まれ育った北海道や現在棲むニューヨークでの生活をテーマにした哀感たっぷりのメロディーと、雪崩か猛吹雪にように荒々しいフラジオの嵐が交錯する音世界は、何処か和む包容力に満ちていて、トボケた中に味のある「ののこ」という名前の響きに相応しい。幼少期を函館で過ごした筆者にとっては「Uru-kas(うるかす)」という北海道弁が溜まらない。
Nonoko Yoshida - Sax Solo Album "Lotus"
●小埜涼子『Alternate Flash Heads』

吉田達也とのSAX RUINSでお馴染みの名古屋育ちのフリースタイルサックス奏者小埜涼子の2ndアルバム。不勉強で前作は未聴だが、竜巻太郎をドラムに迎えて制作されたこのアルバムは、全99曲収録のマキシマリズム(最大限主義)故に、単独作として聴かれるべき作品である。短い曲を沢山収録した作品といえば、JUKE『19』45曲、レジデンツ『コマーシャル・アルバム』(50曲)、ゲロゲリゲゲゲ『Tokyo Anal Dynamite』(75曲)、坂田明『108 DESIRES』(108曲/2枚組)など少なくないが、CDプレスの限界に挑戦した今作はそれらとはかなり趣が異なる。吉田のアルバムとは異なり、2年半かけてサックスを多重録音したという。演奏はスポンテニアスなフレーズが多用されるが、構成はコンセプチュアルの極めつけ。ランダム再生するとドツボにハマりそう。ジャケットセンスはアルケミーレコードならでは。
小埜涼子- Ryoko Ono - (saxruinsalone) - Improvisation in Nagoya , Japan
●纐纈雅代『Band of Eden』

鈴木勲や板橋文夫、スガダイローや渋さ知らズと活動するアゲアゲサックス女子纐纈雅代の初のリーダー作。纐纈雅代(sax)率いるEden Bandのメンバーは、、内橋和久(g & daxophone)、伊藤啓太(b)、外山明(ds)+ゲスト:スガダイロー(pf)。分かり易く言えばフリージャズ経由のプログレ(コン)フュージョンという感じで、80年代のカーラ・ブレイを思わせる部分もある。しかし纐纈の作曲と指揮はサックス奏者らしくアンサンブルのハーモニーよりも、トロピカルな狂乱状態を求めている。纐纈自身によるジャケットアートの世界を可聴化したイマジネイティヴな刺激に満ちており、何処かヤサぐれた楽器の音色には、此処に集いし者たちのバックグラウンドに隠されたヤクザな生き様が滲み出ている。激情カンニバリズムのオンパレード。
板橋文夫 FIT!+ 纐纈雅代 at すぺいん倶楽部 / 祝!
サックスで
女子がばびゅれば
世界は変わる
