のなか悟空&人間国宝 VS 灰野敬二
「耳栓必携!狂気のフルボリューム合戦!悟空はこの夜のために心臓手術を敢行!」
近藤直司(Sax)ヒゴヒロシ(el-B)のなか悟空(Ds)ゲスト:灰野敬二(G)
結成30数年、『のなか悟空&人間国宝』はゲストに灰野敬二を迎えて、また新たなる境地にチャレンジする。悟空は灰野敬二戦のために、わざわざ心臓手術をした。メンバー全員がアラカン(嵐勘十郎じゃないぞ!)世代。おじさんたちは負けてはいない。老兵はまだまだ黙って立ち去るわけにはいかんのだ!
70年代から活動するのなか“悟空”みつまさは、富士山頂、チベット高原、キリマンジャロ山脈、アフリカ大陸、ソマリアなどをドラムを担いで旅してきた「野蛮ギャルド」ドラマー。上半身裸の野人的な風貌は、共演歴も多いトランぺッター庄田次郎に通じる。なんとなく一匹狼のイメージが強い悟空が80年代から30年以上に亘り率いているグループがのなか悟空&人間国宝。渋さ知らズにも参加するサックス奏者・近藤直司と、筆者的には元ミラーズ/チャンス・オペレーションのヒゴヒロシ(b)。初代ベースは不破大輔だったという。
⇒のなか悟空公式サイト
天衣無縫を絵に描いたような悟空の豪快なドラムと近藤とヒゴの激流プレイのフリーフォームジャズを武器にする彼らと、演奏に於いて一切の妥協を許さない灰野敬二の邂逅は、ある意味で必然だと言える。のなか悟空はもちろん、40年来の知人のヒゴヒロシとも初共演だという(近藤直司とは20年以上前に豊住芳三郎とのトリオで共演したことがあるらしい)。灰野より1歳年上の悟空が昨年秋に心臓手術を受けたのは事実らしい。
イベントタイトルは「ボリューム合戦」だが、百戦錬磨のベテラン同士だけあり、音のデカさを競い合う自己主張の張り合いになる筈もなく、隙間の多い弱音アンサンブルで実在性を確かめ合いながら、徐々にお互いを高めるクレッシェンドなエモーションが、生存本能剥き出しの咆哮し合う野人の愛の駆け引きとなりジャズクラブを広大な大自然の最高峰へとワープさせる。
トライバルなドラミングが煽動する2ndセットでは、椅子に座った灰野がプリペアドギターで鳴らす非楽音のプリズムの中、近藤のバリトンサックスが「ロンリー・ウーマン」のひび割れたメロディを奏でる。いわずと知れたオーネット・コールマンのフリージャズスタンダードだが、アミニズムとシャーマニズムが同居する4者の交歓により、別次元の生き物に生まれ変わった。悟空によれば「泣く女」ではなく「泣き寝入りしない女」だとのこと。
お互いのリスペクトとシンパシーに溢れた初共演は、演奏者にとってもオーディエンスにとっても、意外性に満ち新鮮で、その一方で懐かしさを感じ安心させる、即興演奏の楽しさを最大限に味わえる歓喜の歌であった。
野蛮でも
心があるから
味がある
悟空がこの日の為に用意したのは道路工事の圧搾ドリルであった。