私が金沢から東京へ引っ越してきた1970年代末、日本でもインディーズ・シーンが萌芽し、いわゆる私家盤とは違い一般への流通を目的とする自主制作盤レーベルが登場してきた。東京ロッカーズのゴジラ・レコード、大阪のロック・マガジンのヴァニティ・レコード、吉祥寺マイナーのピナコテカ・レコードなどである。
1981年夏にリリースされたのがYLEM(イーレム)レコードのオムニバス2LP「沫 FOAM」だった。当時フールズ・メイトやマーキー・ムーンの記事で知った私は早速高円寺の貸レコード屋パラレルハウスでレンタルしてきて聴いたのだった。ここに収められたアーティストはメルツバウ、のいずんづり、Perfect Mother、R.N.A.Organism、Mad Tea Partyを除けば初めて聴くものばかりで、ポスト・パンク、テクノ、ノイズ、インプロなど雑多なアングラ・ミュージックばかりだった。装丁が凝っていてシルク・スクリーン印刷の茶封筒の中、無数のバッテン印が型抜きされた白いジャケットに透明ヴィニールのLP盤が収められていた。限定1000セットの自主制作盤だからこそなし得た作品である。
これだけ無名のアーティストのオムニバス盤がCD化されたことは奇跡的である。今聴くとこれこそ1981年の雰囲気としか言いようの無い独特の空気を強く感じる。先日紹介した、私が当時録音した多重録音カセット「Euqisumorih」の持つ感触にとても近いのに驚いた。1980年代中期のインディーズ・ブーム勃発前の"鬱の時代"のサウンドトラック。同時に現在の音楽シーンが忘れてしまった手作り感が今聴くと逆に新鮮である。とにかく時代を象徴する怪盤/奇盤であることは確かだ。
魑魅魍魎
跳梁跋扈の
地下世界
それにしても1980年代初頭のマイナー作品の復刻が続き嬉しい限りである。こうなればピナコテカの「愛欲人民十時劇場」の復刻も夢ではないかも。