最も興味を惹かれるのは(c)である。ファン層が限定され先鋭化する地下シーンからは抜け出したが未だ全国区の人気を得るには至らず知名度獲得のための細かい無料イベントを積み重ねる女の子たち。上を目指す意欲とひたすら前向きな姿勢に父性本能がチクチクしちゃうのである。
そんなももクロ予備軍の新譜が集中する5月は今年のアイドル勢力図を占う重要な季節なのかも知れない。Aprilならぬ"May is the cruellest month"(5月は最も残酷な月だ)なのである。この季節に出揃う作品はいくつかのスタイルに分類出来る。
■メタル/ギターロック派
メタルの祭典Ozz Festに出演したももクロが人間椅子の和嶋慎治とCoalter Of The DeepersのNARASAKIをゲストに迎え大喝采を得たことに象徴されるようにヘビメタをはじめとするギターロックはアイドルとの親和性が高い。メタル+アイドルをテーマにするBABYMETALやガールズロックユニットを名乗るPASSPO☆は勿論元祖ヲタ系アイドル中川翔子(しょこたん)までロックギターを取り入れた佳曲が登場。
James BrownをはじめJeff Beck、Jackson Browne、Jeff Buckley、Jim Black、Jack Black、James BlakeなどJBというイニシャルには一癖ある才人が多いがその系譜にJake Buggという若きシンガーが加わった。世代交代の著しいUKロック界で昨年から吹き荒れるティーンエイジャー旋風の急先鋒が先日来日したストライプスとこのジェイク・バグである。彼らがユニークなのは自分の父親世代の愛聴した音楽を引き継ぎつつ生々しい新世代の讃歌を歌っていることだろう。こうしたルーツロックの復活はこれまでも草の根ラベルでは時代を問わず繰り返されてきた。ロックの原点たるブルース、R&B、ブリティッシュ・ビート、フォーク、ソウルへ立ち返ろうという動きは70年代末のパンク・ムーヴメント以来ネオサイケ~マッドチェスター~オルタナ~ブリットポップと変遷するインディーロックの流れの根底に常に流れる地下水脈である。
常にあるだけにその動きが新機軸として顕在化することは余りなかったのも事実。ルーツロック趣味を打ち出しすぎると懐古的だとかオリジナリティ欠如だとか批判される傾向もあった。だいたいメディアの中核を成すオヤジ世代にとってガキがオヤジの世界を真似ることは近親憎悪的な反感を買いやすい。「オヤジをなぞってはいけない」という定理はパンクから30年後のテン世代までは不文律として存在していた。しかし30年を超えた頃からパンクがひと回りした'90年代に青春を過ごした世代がトップの座についた。Back To Basicを声高に宣言したオルタナティヴロック/ブリットポップ・ムーヴメントで育った彼らにとって過去のサウンドに倣うことは尊敬に値する方法論だった。故に自分達の子供世代=ティーンエイジャーがオヤジロックのエッセンスを抽出したスタイルを打ち出しても賞賛こそすれディスる気持ちはない。ボブ・ディランやニック・ドレイクといった往年のシンガーソングライターを彷彿させる19歳のジェイク・バグを現在のUKロック界の重鎮ストーン・ローゼズやリアム・ギャラガーらが絶賛するのは当然である。
自他ともに認めるマイナー志向なので王道にからきし弱い。レコード・コレクションを改めて見直して「ロック名盤100」などガイドブックに紹介される所謂定盤が少ないのに気づいた。例えばキング・クリムゾン。リアルタイムで聴いたのは'80年代再結成クリムゾンだが遡って'70年代黄金期も聴いていた。大学時代バンドで散々コピーもした。愛聴盤は「新世代への啓示(A Youg Persons Guide To King Crimson)」と題された2枚組ベスト盤。大判ブックレット付の原題通りクリムゾン初心者用ガイドだが超定番曲「21世紀の精神異常者」が収録されていない。ロバート・フリップ自身の選曲だがこの曲を外した意図は?深読みしたくなるがそれは本稿の論旨とは異なるので割愛。問題は「21世紀の精神異常者」をアナログ盤で所有していないという事である。早速レコードを探しに街へ出た。ベストセラーだから二束三文で転がっているだろうと中古アナログ売り場を探すとUKオリジナル盤が数万円。近年マニア市場でオリジナル盤や国内盤帯付が高値を呼んでいる。特にビートルズやストーンズといった人気アーティストのレア盤は驚く程の値で取引される。コレクターにとってプレミアは必ず直面する試練である。
プログレ好きといっても所謂5大プログレ・バンドで多少なりとも聴いたのはクリムゾンとジェネシスだけ。ピンク・フロイドはシド・バレットがいる1stのみ、イエスとEL&Pは1枚も所有していない。イエスはジョン・アンダーソンのハイトーンヴォイスが苦手、EL&Pはギターがいない、という言い訳は出来るが実際はマイナー志向の結果の聴かず嫌いである。クリムゾンとジェネシスを聴いたあとはヴァン・ダー・グラーフ・ジェネレイターやジェントル・ジャイアントやゴングを齧りそれもまだメジャー過ぎるとばかりヘンリー・カウのレコメン系やキング・イタリアン・ロック・シリーズに手を出した。後述する西新宿のバカ高いレコ屋に相当つぎ込んだ。これじゃいかんという訳でスルーしていたイエスを入手。「ラウンドアバウト」収録の「こわれもの」が欲しかったが見つからず「危機(Close To The Edge)」を購入。ヒプノシスと並び'70年代ブリティッシュ・ロック名盤のジャケット・アートで有名なロジャー・ディーンによる「こわれもの」の地球はLPサイズで持っていたいがBORISがパクった「危機」の緑ロゴも迫力満点。内ジャケのSFファンタジー・イラストも素敵。朝妻は日本の音楽業界の大物だけありメンバーの発言や活動歴を紹介しつつイエスの成長ぶりとアルバムの素晴らしさを平易な言葉で語るライナーは流石。執筆時に邦題が決まってなかったようで「危機」ではなく「Close To The Edge」と書かれている。あくまで想像だがこの邦題は朝妻がライナーでビル・ブラッフォード脱退に関し他のメンバーとの間に「"危機に近い(Close To The Edge)"という雰囲気があったのに違い」ないと書いたのをヒントにした(パクった)のではなかろうか?