『愛媛新聞』のコラム、「地軸」。県も市もどうしようもないが、メディアは健全のようだ。
なかったことに
2017年5月30日(火)(愛媛新聞)
太平洋戦争が日本の負け戦となる分岐点となった、75年前のミッドウェー海戦。事前の図上演習で大敗との結果が出たが、ルールを変えて勝利を導き出した。最初の演習は「なかったこと」にしたわけだ▲
安倍政権も旧日本海軍と同様「なかったこと」にしたいようだ。今治市への獣医学部新設を巡る「総理のご意向」などと記された文書▲
真偽が注目される中、前文部科学事務次官が断言した。「あったものをなかったことにはできない」。疑わしい点が出てくれば、確認するのが筋だが、政権はこの発言を受けた調査を拒否。逆に疑問が募る▲
愛媛県や今治市も国と同じ姿勢かと思わせたのが、調査で来県した民進党国会議員への対応だ。担当者が不在などとして、当日はゼロ回答。「調べられたらまずいのか」と要らぬ疑いをかけられかねない▲
報道の際に欠かせないのが、いわゆる「裏取り」。次官経験者の発言があれば十分、裏を取ったといえるが、政権は信憑性(しんぴょうせい)を認めなかった。一方、前次官を中傷する報道は即座に「事実」と採用。真偽を判断する基準は、自分たちの都合の善しあしのよう▲
後に虚偽発表の代名詞となる大本営発表は、損害を過小報告したミッドウェーが最初のうそ。当初は信じられていた軍部の発表だが、国民は徐々に疑うようになった。今の政権が文書問題で否定を貫いても、根拠がなければ、国民は「なかったこと」と納得してはくれまい。