「台湾有事」狂騒曲を聴きながら
右派メディアを中心に、中国が台湾に対して軍事的に侵攻する、その場合米国は台湾を援護するだろう、そうなると同盟関係にある日本も米国とともに中国と戦うことになるだろう、という言説が流布している。平和ボケしているタカ派の連中の空想が、メディアに躍っていて、一般メディアもそれに歩調をあわせる記事を載せている。
まずこのような想定が現実化すれば、言うまでもないことだが、日本は破滅する、ということだ。
2020年の日本の貿易相手国の第一位は中国で23・9%、第二位がアメリカで14・7%、そのあと韓国、台湾、タイと続く。そのなかで、日本の中国に対する貿易収支は119億8297万ドル、4年連続の黒字を維持している。中国との戦争ともなれば、この数字は一瞬にして消えるのだ。
それに、日本には米軍基地が沖縄始め点在するから、米中戦争が始まれば日本に対する攻撃も行われるだろう。中国は核兵器を持つ軍事大国である。中国からの攻撃によって日本は壊滅的な打撃を受けるであろう。
さらに、もう一つ。近代日本は中国に対して、南京虐殺事件、三光作戦、「満洲国」建国など、取り返しのつかない蛮行を無数に行った。加害者は忘れるが、被害者は忘れずに子孫に確実に伝えていく。
冷静な判断を
まず指摘しておかなければならないことは、アメリカも日本も、台湾は中国の一部であることを前提に国交を維持していることである。したがって、中国と台湾との間に紛争が起きた場合、それは「内戦」というしかない事態なのである。米日がこの紛争に関与するとなると、それは国際的には「内政干渉」となる。
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【資料 ニクソン米大統領の訪中に関する米中共同声明 1972年】 米国は、台湾海峡の両側のすべての中国人が、中国はただ一つであり、台湾は中国の一部分であると主張していることを認識している。米国政府は、この立場に異論をとなえない。米国政府は、中国人自らによる台湾問題の平和的解決についての米国政府の関心を再確認する。
【資料 日中共同声明 1972年】 中華人民共和国政府は、台湾が中華人民共和国の領土の不可分の一部であることを重ねて表明する。日本国政府は、この中華人民共和国政府の立場を十分理解し、尊重し、ポツダム宣言第八項に基づく立場を堅持する。
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次に果たして中国は台湾を軍事的に制圧することが可能かということである。軍事的に制圧するためには、大量の兵力を台湾に上陸させなければならない。台湾海峡は幅約150km,最も狭い所は135kmである。軍事的に大量の兵力を運ぶことはとても難しく、台湾政府自体も中国の上陸はないと見込んで、陸軍兵力を大幅に減らしている(32万人から8万人へ、海兵隊が1万人、そして徴兵制度も廃止している)。また台湾の防衛ミサイル網はハリネズミのようだといわれている。
また中国と台湾の経済関係は密接である。例えば中国の輸入相手国は、第一位が韓国(9・6%)、次いで日本(9%)、そして台湾(8・4%)、アメリカ(8・4%)となっている(2020年)。台湾への軍事侵攻は台湾経済を破壊することとなり、中国にとってメリットはないし、国際的な関係においてもマイナスになる。
中台関係は「現状維持」が共通認識
独立志向をもつと言われる台湾・蔡政権は、今まで独立を宣言したこともなく、「現状維持」を図っている。またバイデン米大統領も、11月に行われた習近平とのネット会談で、「一つの中国」政策は両国関係の基礎で、「現状を変更したり、台湾海峡の平和と安定を損なったりする一方的な試みに(アメリカは)強く反対する」と述べ、習は「平和統一が前提」とし、「もし独立の分裂勢力が挑発的に迫り、レッドラインを突破すれば、我々は断固とした措置をとらざるを得ないだろう」と述べた。つまり、米中も、台湾も「現状維持」政策なのである。
「台湾危機」と「壊憲」
「台湾危機」が報じられるなかで、着々と進められていることがある。沖縄県における自衛隊基地の建設ラッシュである。「尖閣諸島」の問題も含めて、日本政府は危機を煽りながら、自衛隊員を沖縄県の離島などに派遣している。2022年、沖縄は選挙の年である。名護市、石垣市など自治体の首長選挙、県知事選が行われる。自民党・公明党などは県知事選の勝利により、沖縄県民の反戦平和の意思を押し潰そうとしている。自衛隊員の票は確実に保守票となるはずだ。
また中国との戦争を想定することによって、自衛隊の軍備強化を正当化しようとしている。『東京新聞』(12・24付)は、「2022年度予算案で、防衛費は前年度当初予算から583億円増(1・1%増)の5兆4005億円に上り、8年連続で過去最大を更新した。先の臨時国会で成立した21年度補正予算への計上分と合わせ、今夏に概算要求した主要装備品を全て取得可能にする異例の予算編成となった。第2次安倍政権から続いてきた軍備増強路線が、岸田政権でもさらに加速する。」と報じている。米軍と自衛隊の協力関係も強化されるだろう。日本国の米軍への隷属が完成する。
そしておそらく、このあとに続いてくるのは、憲法改悪(壊憲)の動きである。