100ページほどの薄い本である。人類学者の松村が、人類学を研究していて考えたこと、発見したことを、現在の社会状況を思い浮かべながら書いたものである。
文化人類学は、一般的に言えば、「わたし」と異なる生活をしている「人類」を対象にして研究する学問だ。しかし、ではその「わたし」とはなんであるのか。それについて考えた本である。
といっても、私には既知のものが多かった。「わたし」とは様々な関係性の集積であること、「わたし」とは関係のなかで様々に変容する存在であること、「わたし」とは固定的なものではなく、流動的で開放的で柔軟な存在であること。
しかしその「わたし」が、境界線を引くことによって、自らと異なる存在と認めたものに対して「敵対」したりする。しかしその境界線とは固定的なものではなく、様々に境界線は引くことができるものだし、また消し去る(消える)ものでもある・・・・・そういうことが記されている。
ほんとうは統一教会党=自民党の政治家やネトウヨという方々が読むべき本だと思うが、そういう人こそ読まない。みずからを固定的にとらえ、また自己の認識も不動のものとする。なんとまあ、貧しき精神の持ち主だこと、と私は呆れてしまうのだが・・・
松村は、こう書いている。なるほどである。
周囲の変化に身体を開き、その外側に広がる差異に満ちた世界と交わりながら、みずからが変化することを楽しむ。いきあたりばったりの歩みのなかで「わたし」に起きる変化を肯定的にとらえる。そういう姿勢は、まさにさまざまに異なる他者と共に生きる方法です。そしてそれは変化がいっそう激しくなるこれからの時代にこそ必要とされるのだと思います。