日本フィル 「ショスタコーヴィチ:交響曲第5番」他 6/30

日本フィルハーモニー交響楽団 第581回定期演奏会2日目

バーバー 弦楽のためのアダージョ
グリーグ 4つの交響的舞曲
ショスタコーヴィチ 交響曲第5番「革命」

指揮 ネーメ・ヤルヴィ
演奏 日本フィルハーモニー交響楽団

2006/6/30 19:00 サントリーホール

日フィルの定期へ行ったのは何年ぶりでしょうか。ここ最近では聞いた記憶がありません。客員首席指揮者の父・ヤルヴィが振る「革命」を聴いてきました。



ヤルヴィのショスタコーヴィチはとても無理がありません。あまり大きくない振りの指揮にて最小限の指示を与え、他はオーケストラの自発的な呼吸感に任せていく。基調となるテンポ感は実にスムーズです。さすがにラルゴ楽章では幾分テンポが遅くなり、各フレーズを丁寧になぞっていく演奏となりましたが、他は総じて小気味良く進みました。オーケストラを縛るような指揮者ではありません。

第1楽章の冒頭の主題はあっさりと入っていきました。その後、徐々に暗雲が漂って不気味な金管が強烈に咆哮し、さらには陰鬱ながらもいささか弱々しいピアノが入ってくる。行進曲調の展開部のリズム感は抜群です。むやみにテンポをあげることはありませんが、迫力満点に音楽を畳み掛けていく。ここでヤルヴィは、オーケストラに持てる限りの響きを要求しました。アクセルを全開での猛烈なフォルテッシモです。久々に聴いた日フィルは驚くほど力強い。特にコントラバスを初めとする低弦群と、トロンボーン、チューバの金管。もの凄い迫力でした。ホールが割れます。予想以上の鳴りっぷりです。これには参りました。

ラルゴ楽章が一番優れていました。祈りとも死とも、また孤独とも言われるこの楽章が、半ば違和感さえ与えるほどに爽やかに響きわたります。これがあの「革命」の第3楽章なのかと思うほどの爽快感。ヤルヴィはここで、第1楽章で要求したフォルテッシモから一転し、今度は極限のピアニッシモを要求します。それが日フィルのヴァイオリンセクションにかかると、今にも消え入りそうなか細い響きが実現されるのです。まさに寄せては返す小波の調べ。時折絡むチェロやハープ。そしてヤルヴィの指示なのか、総じてややフォルテ志向の木管群。まさに精霊の調べでしょうか。少し冷たい湿り気を帯びた森の奥深くを彷徨っている。「革命」からこんなイメージが湧いて来たのは初めてです。清らかな森林浴をしているような心地良ささえ感じられました。ただしこれは、後でもまた触れますが、ヤルヴィの解釈よりも、日フィルの特質によるものかと思います。

第4楽章は素直に盛り上がりました。この曲の中でも特に解釈が分かれる部分ではありますが、ヤルヴィはそういったある種の主観的な視点へ入り込むことなく、純然とした響きのみを追求していきます。ここでも日フィルはまた一気に力強くなり、ど迫力のフォルテッシモを聴かせてくれました。もちろん聴衆の熱狂的な拍手に迎えられます。確かにこれは立派な演奏です。オーケストラも全力でした。



さて、「革命」の演奏だけに限りませんが、日フィルの演奏にはともかく迫力がありました。この日だけ聴いていても、本当に全力で音楽に取り組んでいるということがヒシヒシと伝わってきます。ただし大変失礼な言い方をすれば、その分、かなり粗さが目立っていたようにも思いました。合奏が揃わない部分や、響きが落ちてしまうホルン、そして力強くとも私には美しく聴こえなかったコントラバスにチューバやトロンボーン。いつもフォルテ方向に持ち味を見せているオーケストラなのかもしれませんが、私はピアノ方向への丁寧な音の紡ぎこそに日フィルの美点があるのではないかと思います。(特にヴァイオリン。)フォルテでの合奏は響きとして殆どまとまらずに、ただ力任せに鳴っているようにさえ感じました。あれでは大味です。音が大きくなればなるほどに美感が損なわれていきます。その点では、いつも決して臨界点を超えることなく、常にフォルテでもまとまろうとしている新日フィルと正反対のポジションにあるのかもしれません。(その分パワーは落ちるのでしょうが…。)また、これは良い点なのかもしれませんが、表情を刻々と変えていくような機動力こそないものの、それこそラテン系とも言えるような明るい響きを持っているのが興味深い点かと思いました。だからこそ、「革命」の第3楽章でも、あのように沈鬱な表現にならなかったのかもしれません。他の在京のオーケストラでは少し聴けないような響きでした。(だからこそアンサンブルの精度が向上すればと思ってしまうわけですが。)

プログラムの前には、モーツァルトのメモリアルを祝っての「5つのコントルダンス」(「フィガロの結婚」からの引用など。K.609)が演奏されました。思わぬサプライズです。そして「革命」の後でもしっかりとアンコール曲がある。(ヴァイネルの「ディヴェルティメント」です。)最後は、ヤルヴィの音頭で会場の拍手が手拍子に変わるというおまけまでついてきました。これぞ日フィル流とでも言ったところでしょうか。

ともかく日フィルにはすっかりご無沙汰していました。良い部分もたくさん感じられたので、これからはもう少し接していきたいです。
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