都内近郊の美術館や博物館を巡り歩く週末。展覧会の感想などを書いています。
はろるど
「海に生きる・海を描く」 千葉市美術館 7/17
千葉市美術館(千葉市中央区中央3-10-8)
「海に生きる・海を描く - 応挙、北斎から杉本博司まで - 」
6/3-7/17(会期終了)
海の日にぴったりの展覧会です。会期最終日の駆け込みで見てきました。

出品作品数は約110点。全てこの美術館の所蔵品です。そして「応挙から杉本まで。」というサブタイトルにもあるように、江戸期の屏風画から関根伸夫や杉本博司までを幅広く楽しませてくれます。海にちなみながらも、特定のジャンルにとらわれない展示構成。コレクションを面白い切り口で見せる展示は、千葉市美術館の得意とするところでもあるようです。見事でした。


何度か前のコレクション展でも見た円山応挙(1733-1795)の「富士三保松原図」(1779)は久しぶりの再会です。スペースの関係か、ガラスケースの中で窮屈そうに折り畳まれていましたが、雄大な富士を背景にして、伸びやかに広がる駿河湾の光景が幻想的に表現されています。それにしてもこの十分な余白感。朧げに浮かび上がった松林の質感とともに、応挙ならではの空間構成がさすがの貫禄にて展開されていました。辺り一面に立ちこめる靄。見ているだけで包み込まれてしまいそうです。
この展覧会で一番惹かれたのは、10点ほど展示されていた川瀬巴水(1883-1957)の木版画でした。ともかく鮮やかな色彩表現に目を奪われます。藍とも取れるその深い青み。水に映り込む建物の影なども巧みに表現されていました。ちなみに川瀬巴水は、今月末から東京のニューオータニ美術館で回顧展が開催されます。これは是非見なくてはなりません。未知の作家による、思わぬ魅力溢れた作品。この美術館のコレクション展では多だある嬉しい出会いです。
三方を海に囲まれた千葉と言うことで、房総などにちなむ作品もいくつか展示されています。その中では藤田嗣治(1886-1968)の「夏の漁村(房州太海)」が印象的でした。太海は今でも鴨川の海水浴場として有名ですが、海を望んだ生活感溢れる漁師一家の光景が淡いタッチにて表現されています。同じ千葉県内とは言っても内陸部に住む私にとっては、千葉の海に殆ど親近感がありませんが、石井柏亭の「船橋」や、無縁寺心澄の「稲毛海岸」などを見るとさすがに地元意識がわいてきます。今の千葉は、例えば浦安から君津までベッタリ張り付いた埋め立て地のように、かつてあったであろう人と海との接触がかなり薄くなっていますが、これらの作品はその残滓なのかもしれません。少し羨ましくも思いました。

いわゆる現代アートでは、杉本博司の海シリーズはもちろんのこと、広い展示室を大胆に使った河口龍夫の「陸と海」の写真作品が見応え十分でした。汐の満ち引きを捉えたこの一連の写真からは、波の音や海の匂いが聞こえ、また漂ってきます。しばし見入りました。
最終日だと言うのに相変わらず閑散としていましたが、坂本繁二郎や宇治山哲平の版画も見ることが出来ました。この美術館のコレクション展はこれからも追っかけるつもりです。
「海に生きる・海を描く - 応挙、北斎から杉本博司まで - 」
6/3-7/17(会期終了)
海の日にぴったりの展覧会です。会期最終日の駆け込みで見てきました。

出品作品数は約110点。全てこの美術館の所蔵品です。そして「応挙から杉本まで。」というサブタイトルにもあるように、江戸期の屏風画から関根伸夫や杉本博司までを幅広く楽しませてくれます。海にちなみながらも、特定のジャンルにとらわれない展示構成。コレクションを面白い切り口で見せる展示は、千葉市美術館の得意とするところでもあるようです。見事でした。


何度か前のコレクション展でも見た円山応挙(1733-1795)の「富士三保松原図」(1779)は久しぶりの再会です。スペースの関係か、ガラスケースの中で窮屈そうに折り畳まれていましたが、雄大な富士を背景にして、伸びやかに広がる駿河湾の光景が幻想的に表現されています。それにしてもこの十分な余白感。朧げに浮かび上がった松林の質感とともに、応挙ならではの空間構成がさすがの貫禄にて展開されていました。辺り一面に立ちこめる靄。見ているだけで包み込まれてしまいそうです。
この展覧会で一番惹かれたのは、10点ほど展示されていた川瀬巴水(1883-1957)の木版画でした。ともかく鮮やかな色彩表現に目を奪われます。藍とも取れるその深い青み。水に映り込む建物の影なども巧みに表現されていました。ちなみに川瀬巴水は、今月末から東京のニューオータニ美術館で回顧展が開催されます。これは是非見なくてはなりません。未知の作家による、思わぬ魅力溢れた作品。この美術館のコレクション展では多だある嬉しい出会いです。
三方を海に囲まれた千葉と言うことで、房総などにちなむ作品もいくつか展示されています。その中では藤田嗣治(1886-1968)の「夏の漁村(房州太海)」が印象的でした。太海は今でも鴨川の海水浴場として有名ですが、海を望んだ生活感溢れる漁師一家の光景が淡いタッチにて表現されています。同じ千葉県内とは言っても内陸部に住む私にとっては、千葉の海に殆ど親近感がありませんが、石井柏亭の「船橋」や、無縁寺心澄の「稲毛海岸」などを見るとさすがに地元意識がわいてきます。今の千葉は、例えば浦安から君津までベッタリ張り付いた埋め立て地のように、かつてあったであろう人と海との接触がかなり薄くなっていますが、これらの作品はその残滓なのかもしれません。少し羨ましくも思いました。

いわゆる現代アートでは、杉本博司の海シリーズはもちろんのこと、広い展示室を大胆に使った河口龍夫の「陸と海」の写真作品が見応え十分でした。汐の満ち引きを捉えたこの一連の写真からは、波の音や海の匂いが聞こえ、また漂ってきます。しばし見入りました。
最終日だと言うのに相変わらず閑散としていましたが、坂本繁二郎や宇治山哲平の版画も見ることが出来ました。この美術館のコレクション展はこれからも追っかけるつもりです。
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「畑絢子」展 INAXガレリアセラミカ 7/15
INAXガレリアセラミカ(中央区京橋3-6-18 INAX銀座ショールーム2階)
「畑絢子展 - ツキノハナの陶景 - 」
7/6-31

「若い世代の陶芸作家の企画展を開催」(パンフレットより。)してきたINAXガレリアセラミカが、このほど新宿から、京橋の最も銀座よりにあるINAX銀座ショールームへと移転しました。展示スペースはショールームの2階。バスタブやキッチンなど、様々なINAX製品の置かれた一角にオープンしています。

ともかくまず作品を見て驚いたのは、おおよそ陶(白磁土)とは思えないツキノハナの質感です。展示室の風に揺られながら、ゆらゆらと気持ち良さそうに靡くツキノハナたち。非常に細い針金(直径1ミリ!)の茎を支えとして、手のひらサイズの真っ白な陶製の花が咲き誇っている。下にはこんもりとした砂の小山。そして上には花々に命を与える太陽に見立てた明かり。燦々と降り注ぐ光の下では、花の影が移ろい、そしてうごめいていました。思わず息をのむほどに美しい陶の花畑です。
ツキノハナの群生は二カ所ありました。奥のやや狭い砂の丘の上には、まだ開き切っていない、もしくは百合のような花が群がっています。そしてこちらは花の影がそれぞれ重なり合っている。薄い花びらからは光が漏れていました。手で触ってしまったら瞬く間に崩れ去ってしまいそうなその質感。その脆さもまた魅力なのかと思います。
銀座へお出かけの際には少し立ち寄ってみては如何でしょうか。おすすめしたいと思います。今月末までの開催です。
「畑絢子展 - ツキノハナの陶景 - 」
7/6-31

「若い世代の陶芸作家の企画展を開催」(パンフレットより。)してきたINAXガレリアセラミカが、このほど新宿から、京橋の最も銀座よりにあるINAX銀座ショールームへと移転しました。展示スペースはショールームの2階。バスタブやキッチンなど、様々なINAX製品の置かれた一角にオープンしています。

ともかくまず作品を見て驚いたのは、おおよそ陶(白磁土)とは思えないツキノハナの質感です。展示室の風に揺られながら、ゆらゆらと気持ち良さそうに靡くツキノハナたち。非常に細い針金(直径1ミリ!)の茎を支えとして、手のひらサイズの真っ白な陶製の花が咲き誇っている。下にはこんもりとした砂の小山。そして上には花々に命を与える太陽に見立てた明かり。燦々と降り注ぐ光の下では、花の影が移ろい、そしてうごめいていました。思わず息をのむほどに美しい陶の花畑です。
ツキノハナの群生は二カ所ありました。奥のやや狭い砂の丘の上には、まだ開き切っていない、もしくは百合のような花が群がっています。そしてこちらは花の影がそれぞれ重なり合っている。薄い花びらからは光が漏れていました。手で触ってしまったら瞬く間に崩れ去ってしまいそうなその質感。その脆さもまた魅力なのかと思います。
銀座へお出かけの際には少し立ち寄ってみては如何でしょうか。おすすめしたいと思います。今月末までの開催です。
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「畠山直哉展」 タカ・イシイギャラリー 7/15
タカ・イシイギャラリー(江東区清澄1-3-2 5階)
「畠山直哉展」
6/24-7/22
何度となく名前を聞いたことのある畠山直哉の写真をまとめて拝見したのは、今回が初めてです。2003年から、ドイツ・ミュンスター南東部の旧炭坑都市アーレンにて撮影された新作シリーズ(26点)の展示でした。

鳥瞰的に無機質に撮影されたアーレンの建物群。内部を撮影した作品からは、かつてその場にあったであろう人の営みが微かに感じられます。しかしそれは、今にも壊されていく建物の外側には全く残っていません。もの凄い轟音とともに消え去っていた炭坑跡。もちろん音は写真から完全に拭い取られています。粛々となされた破壊の軌跡。あくまでもむなしく倒れていく建物だけが捉えられていました。それにしても壊されたビルの残骸は生々しい。まさにコンクリートの破片は肉のように飛び散り、剥き出しの鉄筋は破れた血管のように散らかっています。これは、閉ざされていた過去の記憶が破壊によって露となり、直ぐさま飛び散ってまた忘れ去られていくような、そんな惨い瞬間の記録なのかもしれません。
*今回の展示作品一例(画廊HP)
発売中の写真集も少し拝見したことがありますが、一つ手元にとっておきたくなりました。今月22日までの開催です。
「畠山直哉展」
6/24-7/22
何度となく名前を聞いたことのある畠山直哉の写真をまとめて拝見したのは、今回が初めてです。2003年から、ドイツ・ミュンスター南東部の旧炭坑都市アーレンにて撮影された新作シリーズ(26点)の展示でした。

鳥瞰的に無機質に撮影されたアーレンの建物群。内部を撮影した作品からは、かつてその場にあったであろう人の営みが微かに感じられます。しかしそれは、今にも壊されていく建物の外側には全く残っていません。もの凄い轟音とともに消え去っていた炭坑跡。もちろん音は写真から完全に拭い取られています。粛々となされた破壊の軌跡。あくまでもむなしく倒れていく建物だけが捉えられていました。それにしても壊されたビルの残骸は生々しい。まさにコンクリートの破片は肉のように飛び散り、剥き出しの鉄筋は破れた血管のように散らかっています。これは、閉ざされていた過去の記憶が破壊によって露となり、直ぐさま飛び散ってまた忘れ去られていくような、そんな惨い瞬間の記録なのかもしれません。
*今回の展示作品一例(画廊HP)
発売中の写真集も少し拝見したことがありますが、一つ手元にとっておきたくなりました。今月22日までの開催です。
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「4人展 千葉正也/池田光弘/徐美姫/イルバ・オーグランド」 シュウゴアーツ 7/15
シュウゴアーツ(江東区清澄1-3-2 5階)
「4人展 千葉正也/池田光弘/徐美姫/イルバ・オーグランド」
6/3-8/5
千葉正也、池田光弘、徐美姫、イルバ・オーグランドの4名のアーティストが集う、シュウゴアーツで開催中の、その名もズバリ「4人展」へ行ってきました。絵画、写真などの力作がぶつかり合う展覧会です。

4名の中で圧倒的に印象深かったのは、徐美姫による海の写真です。岩場へ寄せる波打ち際がモノクロ写真にて捉えられている。暗がりの空間にて、波の飛沫と岩の影が重なり合い、また溶け合う様子。光の陰影だけが波の存在を伝えてくれます。そして不思議にも失われている水の重量感。波は、ちょうど山場へ立ちこめる霧のように岩場へと広がっています。また、波の陰影が、光に反射して輝く銀紙のようにも見えました。これほど軽い質感の波を見たのは初めてです。これが写真であることすら忘れてしまうような作品でした。

徐以外では、イルバ・オーグランドのバラバラになった絵画が心に残ります。一人の女性が寝ている姿。それがちぎれた画面にて緩やかに繋がっている。頭から足先までが別々の画面です。それぞれが見えない糸で辛うじて連なっているのかもしれません。睡眠の安堵と、画面のルーズな雰囲気が奇妙にマッチしている作品でした。
8/5までの開催です。
「4人展 千葉正也/池田光弘/徐美姫/イルバ・オーグランド」
6/3-8/5
千葉正也、池田光弘、徐美姫、イルバ・オーグランドの4名のアーティストが集う、シュウゴアーツで開催中の、その名もズバリ「4人展」へ行ってきました。絵画、写真などの力作がぶつかり合う展覧会です。

4名の中で圧倒的に印象深かったのは、徐美姫による海の写真です。岩場へ寄せる波打ち際がモノクロ写真にて捉えられている。暗がりの空間にて、波の飛沫と岩の影が重なり合い、また溶け合う様子。光の陰影だけが波の存在を伝えてくれます。そして不思議にも失われている水の重量感。波は、ちょうど山場へ立ちこめる霧のように岩場へと広がっています。また、波の陰影が、光に反射して輝く銀紙のようにも見えました。これほど軽い質感の波を見たのは初めてです。これが写真であることすら忘れてしまうような作品でした。

徐以外では、イルバ・オーグランドのバラバラになった絵画が心に残ります。一人の女性が寝ている姿。それがちぎれた画面にて緩やかに繋がっている。頭から足先までが別々の画面です。それぞれが見えない糸で辛うじて連なっているのかもしれません。睡眠の安堵と、画面のルーズな雰囲気が奇妙にマッチしている作品でした。
8/5までの開催です。
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