「坂本繁二郎展」 ブリヂストン美術館 7/2

ブリヂストン美術館中央区京橋1-10-1
「坂本繁二郎展」
6/16-7/8



ブリヂストン美術館で開催中の、洋画家坂本繁二郎(1882-1969)の回顧展へ行ってきました。独特の淡い色彩による、牛、馬などをモチーフにした絵画に惹かれます。予想以上に見応えのある展覧会でした。

ともかく牧牛や馬を描いた作品が優れています。フランス留学の前に描かれた「海岸の牛」(1914)や「牛」(1915)などの味わい深さ。どっしりと佇んでいる牛たちの存在感と、ピンクや赤を交えた色彩の重み。「牛」では、その毛並みがあたかも浮き出てくるかのように表現されています。まだ後の作品に見られるようなパステル調の色彩はありませんが、それでもかなり魅力的です。そしてこの色の魅力は、同時期に描かれたモノトーン調の「牛」と比べれば歴然としています。坂本の絵画にとってなくてはならない要素です。



試行錯誤を繰り返しているようにも見えたフランス留学期においても、その色彩だけは確かに発展したようです。これ以前に見せていたピンクには白が混じり、さらには限りなく水色に近い青が画面を覆ってくる。またタッチは全体的に大胆となっていきます。面的な表現が多用されているとも言えるでしょうか。「帽子を持てる女」(1923)などはその一例です。構図が私にはあまり魅力的に見えませんが、その色彩はこの後の活動をハッキリと見通しています。そしてそれが帰国後の馬や牛の作品へ繋がるのです。



この展覧会のハイライトは、やはり3番目の「美しき郷里と馬」のコーナーではないでしょうか。半ば爽やかとも言えるような瑞々しい色彩感を見せる「放牧三馬」(1932)の美しさ。白馬を中央にして、三頭の馬が群れる構図です。またこの作品にだけに限りませんが、坂本の油彩画はどれも画肌に深みが感じられます。一見、華やいだ、軽いタッチのようでも、実際には絵具の質感に適度な重みがある。絵具の匂いすら立ち上がってきそうな生々しさを感じさせます。あたかも漆職人が器へ色を付けるかのように、キャンバスに色を丁寧に塗り重ねていった。そんな職人芸的な味わいも、また魅力の一つなのかもしれません。



 

確立したパステル調の色彩による静物画も興味深いものがあります。馬や牛の作品と比べるとややその魅力が落ちるようにも思えましたが、能面や箱などを素朴に描いた作品には、見ていてホッとさせられるような温もりを感じました。また晩年に描いたものでは、「達磨」(1964)がとても可愛らしい表情を見せています。口を真一文字に閉じただるまが一つ。既に願いがかなったのか、クッキリとした丸い両目がこちらをジーッと見つめています。そしてその背景には、まるで天女の羽衣のような模様が描かれている。雲でしょうか。まただるまは、それ自体がぼんやりと照り出しているかのようにやや赤みがかって光っています。これは惹かれる作品です。



先にも触れましたが、画像や印刷では分かりにくいようなマチエールに魅力のある作品です。また、まとめて見ることで、改めて画家の魅力を再発見出来るような展覧会でもあります。(以前に近代美術館で開催された須田国太郎展のようです。)今週の土曜日までの開催ですが、これはおすすめしたいです。
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